独断的映画感想文:ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
日記:2008年9月某日
映画「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」を見る2007年.監督:ポール・トーマス・アンダーソン.
出演:ダニエル・デイ=ルイス (ダニエル・プレインビュー),ポール・ダノ(ポール・サンデー/イーライ・サンデー),ケヴィン・J・オコナー(ヘンリー),キアラン・ハインズ(フレッチャー),ディロン・フレイジャー(H.W.),バリー・デル・シャーマン,コリーン・フォイ,ポール・F・トンプキンス.
荒れ果てた岩山に囲まれた小さな縦坑で,ツルハシと発破を頼りに一人で掘る男.やがて男は金を含んだ鉱石を掘り当てる.
数年後その縦坑からは石油が出始め,数人の部下と共に男は石油をくみ上げる.
その男ダニエル・プレインビューは,その後もいくつかの油井を掘り当て,独立系の石油元売りとして頭角を現しはじめる.いつも息子H.W.を連れ歩く彼は,地権者の信頼も得て,次第に安定した地位を獲得していく.
ある日彼の元をポールという青年が訪れ,リトル・ボストンにある彼の父の牧場は石油が出る,という話を持ち込む.親子はその牧場を訪れ,ポールの双子の兄弟,イーライが主宰する「第3の啓示」教会に多額の寄付をすることを条件に,土地の買い取り契約を結ぶ.
ダニエルは周囲の土地をすべて買い占め,大規模に掘削を始めた.ある日石油が出るが,その突出の衝撃でH.W.は吹き飛ばされ,聴力と精神の安定を失う….
ダニエル親子の30年間にわたる軌跡を描く,重厚なドラマ.
ダニエルは自ら,人間が嫌いで人への憎悪が積み重なっていくと告白している.石油を掘り当て成功するために,あらゆる手段を使い人を騙すこと裏切ることもためらわない.息子H.W.も実は,人の信頼を得て交渉を有利に進めるため,捨て子を拾って育てたのだ(と本人は言う).
その息子との確執,カルト系牧師として彼とたびたび関わるイーライとの争い,石油メジャーとの争闘等がドラマの軸となる.
ダニエルは恐るべき個性の人である.
その憎悪は止めようもなく本人の中に積み上がっていったのであろうか.石油メジャーの圧力の中で事業を成功させること自体が,大きなストレスを彼に与えたであろう.また独自の個性で彼の前に立ちはだかり彼を翻弄したイーライに対する彼の憎悪も,想像するに難くはない.
しかし幼年から少年にいたるH.B.への愛情や,異母弟ヘンリーの日記を読むときの彼の表情には,また別の彼の側面が見て取れよう.
だからこそ最後の2つのシークエンスは衝撃的であり,打ちのめされる思いがするのだ.
ダニエル・デイ=ルイスの演技が素晴らしい.この長大な叙事詩を,ナレーションなしに描き切れたのも,彼の演技力あればこそであろう.
冒頭でこの映画の性格を明示し切ったジョニー・グリーンウッドの音楽は秀逸.エンドタイトルでのブラームスのヴァイオリン協奏曲第3楽章も素晴らしかった.
158分の長尺だが,あっという間だ.一見の価値あり.
★★★★☆(★5個が満点)
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コメント
こんにちは。
ほんとうにあっという間でした。
よくできた映画というのは
時間の長さを感じさせないものですが、
これなどまさにその好例だった気がします。
投稿: えい | 2008/09/27 16:39
この映画すごくいいと思うんですけど、私には主人公の男のキャラが掴みきれませんでした。
投稿: chuchu | 2008/10/04 21:28