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2008年10月に作成された記事

2008/10/30

独断的映画感想文:落下の王国

日記:2008年10月某日
映画「落下の王国」を見る.001
2006年.監督:ターセム.
出演:リー・ペイス(ロイ・ウォーカー/黒山賊),カティンカ・ウンタルー(アレクサンドリア),ジャスティン・ワデル(看護師エヴリン/エヴリン姫),ダニエル・カルタジローン(シンクレア/総督オウディアス),レオ・ビル(ダーウィン/病院職員),ショーン・ギルダー,ジュリアン・ブリーチ(霊者/オレンジ農園の使用人),マーカス・ウェズリー(オッタ・ベンガ/氷配達人),ロビン・スミス(ルイジ/片足の俳優仲間),ジットゥ・ヴェルマ(インド人/オレンジ農園の使用人),エミール・ホスティナ(アレクサンドリアの父/黒山賊).002
映画のスタントで落下し重傷を負って入院しているロイは,オレンジの木から落ちて左腕を骨折して入院中のインド人の少女アレクサンドリアと友達になる.彼女は英語ができた.
ロイは思いつくまま彼女に冒険譚を物語るが,彼自身は恋人も主演俳優に奪われ,自殺を考えていた.ロイはそのためのモルヒネをアレクサンドリアに盗んでこさせようと,お話の続きを餌に彼女を調剤室に向かわせる.
その冒険譚を描く目にも鮮やかな叙事詩.005
物語は,ロイ自身である黒山賊が総督オウディアスのためにダーウィン,オッタ・ベンガ,ルイジ,インド人らと絶海の孤島に置き去りにされたところから始まる….
映像の美しさと意表を突く展開,その豪華絢爛さがなんといってもこの映画の真骨頂.
冒険譚の背後にはロイの自殺願望という現実が進行しているのだが,物語はロイの創造力と少女の想像力が一体となって造りあげる別個の世界.006
奇想天外な物語の随所に,子供に特有なユーモアがちりばめられ,観客は映画にしか提供できないその楽しさを満喫することができるだろう.世界24カ国でロケーション撮影した夢のような映像が目を奪う.
終盤,ロイの絶望から悲劇に向かって大きく進み始めた物語を,アレクサンドリアはハッピーエンドに変えることができるだろうか?映画の素晴らしさを堪能できる大人のためのファンタジア.004
★★★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:エディット・ピアフ~愛の讃歌~

日記:2008年10月某日
映画「エディット・ピアフ~愛の讃歌~」を見る.
2007年.監督:オリヴィエ・ダアン.
出演:マリオン・コティヤール(エディット・ピアフ),シルヴィー・テステュー(モモーヌ),パスカル・グレゴリー(ルイ・バリエ),エマニュエル・セニエ(ティティーヌ),ジャン=ポール・ルーヴ(ルイ・ガション),ジェラール・ドパルデュー (ルイ・ルプレ),クロチルド・クロ(アネッタ),ジャン=ピエール・マルタンス(マルセル・セルダン),カトリーヌ・アレグレ(ルイーズ),マルク・バルベ(レイモン・アッソ),カロリーヌ・シロル(マレーネ・デートリッヒ),1
マノン・シュヴァリエ(エディット・ピアフ(5歳)),ポリーヌ・ビュルレ(エディット・ピアフ(10歳)).
偉大なシャンソン歌手,エディット・ピアフの伝記ドラマ.
街角で歌う歌手だった母に捨てられ,祖母の元で育っていたエディットは,第1次大戦から復員した父に連れだされ,その母が経営する娼館で育てられる.
その後父は大道芸人にカムバックし,エディットはその父について街角に立つうち,歌を歌うことに目覚めるのだった.2
その後独立し街角で歌っていたエディットは,クラブのオーナー,ルイ・ルプレにスカウトされ,デビューする.その声はたちまち評判となり大成功を収めるのだが….
音楽映画はもとより好きである.
この映画では,観客はピアフの歌声にまず圧倒されるだろう.その力強く筋の張った,しかも表現力豊かな歌声は,ピアフ本人の実際の音源を使っているらしい.3
ピアフ本人を演じる俳優(達)も素敵.10歳のポリーヌ・ビュルレもそうだが,マリオン・コティヤールが何といっても素晴らしい.特に最愛の恋人,ボクサーのマルセルをなくすエピソードの描写には涙を禁じ得ない.
ところで,映画は幼少のエディットの描写と,最晩年のエディットの描写を交互に積み重ねる形で進行するのだが,この形式は如何にも不都合である.4
エディットが成功し最盛期を過ぎる頃には,この形式の描写は前後関係が完全に混乱してくる.実際,エディットが全治2ヶ月の重傷を負う自動車事故が何時起こったのかは,画面からはよく判らず仕舞いだった.このような伝記映画の場合は,最晩年のエディットは固定した場面としてしまう等の工夫が必要ではないか.
そういう不都合にも拘わらず,ピアフの魅力を十分楽しめる映画.
★★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:NEXT ネクスト

日記:2008年10月某日
映画「NEXT ネクスト」を見る.Next3
2007年.監督:リー・タマホリ.
出演: ニコラス・ケイジ(製作も)(クリス・ジョンソン),ジュリアン・ムーア(カリー・フェリス),ジェシカ・ビール(リズ),トーマス・クレッチマン(スミス),トリー・キトルズ(キャバノー),ピーター・フォーク(アーヴ).
2分先の自分に関わる事柄が見えるという特殊能力を持つ男,クリス.彼はある女のイメージを見ていて,その女が自分の運命の女だと感じている.
ところがこの女性に限って未来の何時頃のイメージなのかが判らない.クリスはそのイメージの示す僅かな手がかりから,彼女に巡り会おうとする.
一方かねてからクリスの特殊能力に目をつけていたFBIは,折しも起こった核弾頭盗難事件に彼を動員すべく係官を派遣する.Next2
というわけでクリスと,未来の恋人リズを巻き込んだFBI,敵側エージェントとの闘いを描くサスペンス.
なかなかテンポの良い映画,クリスの特殊能力をうまくアクションに組み込んでいる.
しかしこの映画はいくつかの点で腑に落ちないものがある.
ネタ晴らしになるかも知れないが,この映画は「と思ったら夢でした」を使っている点がまず腑に落ちない.小説でも映画でも「と思ったら夢でした」は基本的にルール違反だと思うからだ.
次に,ニコラス・ケイジという人が,見も知らぬ女性を一目で深い仲になるまで魅了するキャラクターである,ということが腑に落ちない.これはいくら何でも無理がないだろうか.
もう一つは,たった2分先しか見えないクリスが,核爆弾のテロリスト捜索の切り札だと主張するカリーの主張が腑に落ちない.そんなことはないんじゃない,という思いは映画自身の中で証明されてしまった.Next1
一体クリスの能力を捜査にどう使うつもりだったのだろうか??
隙だらけの映画だが,まあ見ているうちは何とか楽しめます.
★★★(★5個が満点)

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2008/10/08

独断的映画感想文:ガーダ パレスチナの詩

日記:2008年10月某日
映画「ガーダ パレスチナの詩」を見る.5
監督:古居みずえ,製作:安岡卓治,野中章弘,撮影:古居みずえ.
パレスチナ・ガザ地区に住む女性:ガーダを描いたドキュメントフィルム.
ガーダは難民キャンプで生まれ育った.
教師になることが希望だったが,イスラエルの侵攻で大学進学を諦め,教員養成所を経て教職に就く.その後ナセルと婚約し,男性中心の因習に抗して新しい生き方を模索する.3
子供ができてからは,自分たちの上の世代の生き方を聞き集めるジャーナリストとしての活動に力を注ぐ.その彼女の活動を,イスラエルへの抵抗運動インティファーダを交え描く.
ガーダは難民キャンプ生まれ(その難民キャンプさえ,映画の最後ではイスラエル軍に破壊される),パレスチナの父祖の地を知らない.その当時と同じ農民の生活をしているアブー・バーシム,ウンム・バーシム夫妻を取材してその日常を聞き取る.
夫妻は仲むつまじく,農作業をしながら歌を歌いお互いを労り合う.しかしその夫妻の畑もある日イスラエル軍に強奪され,夫妻は土地から追い出される.2
インティファーダの中ではガーダの従兄弟の13歳の息子がイスラエル軍によって後から撃たれ射殺される.
こういう痛ましい現実を描きながら,一方でパレスチナの人々の因習やその生活も映画は細やかに描く.その視点は優しく暖かい.
パレスチナの人々の暮らしに唄と踊りが豊かなことはどうだろう.
もう耕す畑もないのに,歌を歌うときに真っ赤にさびた鎌を手に振りながら歌う老女の姿には,胸を打たれる.
映画の最後で,ガーダはすべてが闘い(struggle)なのだと言う.「歌うことも,子供を育てることも,インティファーダも,学ぶことも」.4
35年ぶりに聞いた,struggleという言葉と共に,心にしみるメッセージだった.これらの事実を映像に書き留めた監督の手腕と努力に敬礼.
★★★★(★5個が満点)
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2008/10/07

独断的映画感想文:EUREKA ユリイカ

日記:2008年9月某日
映画「EUREKA ユリイカ」を見る.Eureka04
2000年.監督:青山真治.
出演:役所広司(沢井真),宮崎あおい(妹・田村梢),宮崎将(兄・田村直樹),斉藤陽一郎(秋彦),国生さゆり(弓子),光石研(シゲオ),利重剛(犯人),松重豊(松岡),塩見三省(沢井義之),真行寺君枝(田村美都),でんでん(吉田),椎名英姫(河野圭子),中村有志(田村弘樹),江角英明(沢井誠治),野間洋子(沢井喜清子),尾野真千子(沢井美喜子).
青山真治監督の北九州3部作の第2作.Eureka09
住宅地を走る乗り合いバスがジャックされた.犯人は人質を次々と射殺,死に瀕した運転手沢井と田村兄妹は,警察の突入によりかろうじて助かる.
2年がたち,田村家では母親は家出,父親は自損事故で亡くなる.兄弟は学校に行かず家に引きこもって暮らしている.
運転手沢井は事件後妻を残して姿を消していたが,実家に戻ってきて工事現場で働き始める.その頃町では連続殺人事件が発生し,疑いをかけられた沢井は実家を出て,田村兄弟が2人で暮らす家に転がり込んで共同生活を始める.
そこに兄弟の従兄弟秋彦もやってきた.4人はある事件をきっかけに,沢井が運転するバスで,放浪の旅に出る….Eureka05
心に傷を負った3人の解体と再生を描く,長編映画.
映画の冒頭,バスジャックが起こる前,平和な家庭から母親に送られバス停に出てくる兄妹.しかしその前のシーンで妹梢は,「大津波が来て皆死んでしまう」と独白するのだ.
この冒頭から観客は,緊張感に満ちた,しかし神話的奥行きのあるドラマを見ることになる.
苦悩し労働ししかも全く人に反論することすらできない沢井,一切口をきかずほとんど動きのない田村兄妹,軽機関銃のようにぱらぱらとしゃべりまくる秋彦,Eureka08
静かな田園に起こる連続殺人を背景に,進行する傷んだ心のぎりぎりの葛藤.
兄妹は自宅の庭に4つの土まんじゅうを作っている.その土まんじゅうをある日兄が破壊し,妹は気を失う.この事件は,彼らがバスで旅に出るきっかけとなったのだが,彼女を介抱する沢井と梢とのシーンの宮崎あおいの演技は,素晴らしい.
あるいは沢井と妻(国生小百合)との別離のシーンも涙を禁じ得ない.多用される長回しのシーンは,俳優たちの好演で見応えのある作りとなっている.Eureka06
3時間半のドラマの果てに梢が叫ぶ最後のシーンは忘れられないものとなろう.
自分を含め,その魂を鎮めるように人の名を呼びながら貝殻を一つずつ断崖から投げる梢,父・母に次ぐその3投目が「犯人の人」というのが,映画の深さを象徴しているようだ.
沢井は命を削って梢のために生きている.その沢井に向かって歩き出す梢,このときモノトーンで続いてきた長い長い映画は,色彩で満たされる.Eureka03
記憶されるべき希有な映画.一見の価値あり.
★★★★☆(★5個が満点)

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