独断的映画感想文:EUREKA ユリイカ
日記:2008年9月某日
映画「EUREKA ユリイカ」を見る.
2000年.監督:青山真治.
出演:役所広司(沢井真),宮崎あおい(妹・田村梢),宮崎将(兄・田村直樹),斉藤陽一郎(秋彦),国生さゆり(弓子),光石研(シゲオ),利重剛(犯人),松重豊(松岡),塩見三省(沢井義之),真行寺君枝(田村美都),でんでん(吉田),椎名英姫(河野圭子),中村有志(田村弘樹),江角英明(沢井誠治),野間洋子(沢井喜清子),尾野真千子(沢井美喜子).
青山真治監督の北九州3部作の第2作.
住宅地を走る乗り合いバスがジャックされた.犯人は人質を次々と射殺,死に瀕した運転手沢井と田村兄妹は,警察の突入によりかろうじて助かる.
2年がたち,田村家では母親は家出,父親は自損事故で亡くなる.兄弟は学校に行かず家に引きこもって暮らしている.
運転手沢井は事件後妻を残して姿を消していたが,実家に戻ってきて工事現場で働き始める.その頃町では連続殺人事件が発生し,疑いをかけられた沢井は実家を出て,田村兄弟が2人で暮らす家に転がり込んで共同生活を始める.
そこに兄弟の従兄弟秋彦もやってきた.4人はある事件をきっかけに,沢井が運転するバスで,放浪の旅に出る….
心に傷を負った3人の解体と再生を描く,長編映画.
映画の冒頭,バスジャックが起こる前,平和な家庭から母親に送られバス停に出てくる兄妹.しかしその前のシーンで妹梢は,「大津波が来て皆死んでしまう」と独白するのだ.
この冒頭から観客は,緊張感に満ちた,しかし神話的奥行きのあるドラマを見ることになる.
苦悩し労働ししかも全く人に反論することすらできない沢井,一切口をきかずほとんど動きのない田村兄妹,軽機関銃のようにぱらぱらとしゃべりまくる秋彦,
静かな田園に起こる連続殺人を背景に,進行する傷んだ心のぎりぎりの葛藤.
兄妹は自宅の庭に4つの土まんじゅうを作っている.その土まんじゅうをある日兄が破壊し,妹は気を失う.この事件は,彼らがバスで旅に出るきっかけとなったのだが,彼女を介抱する沢井と梢とのシーンの宮崎あおいの演技は,素晴らしい.
あるいは沢井と妻(国生小百合)との別離のシーンも涙を禁じ得ない.多用される長回しのシーンは,俳優たちの好演で見応えのある作りとなっている.
3時間半のドラマの果てに梢が叫ぶ最後のシーンは忘れられないものとなろう.
自分を含め,その魂を鎮めるように人の名を呼びながら貝殻を一つずつ断崖から投げる梢,父・母に次ぐその3投目が「犯人の人」というのが,映画の深さを象徴しているようだ.
沢井は命を削って梢のために生きている.その沢井に向かって歩き出す梢,このときモノトーンで続いてきた長い長い映画は,色彩で満たされる.
記憶されるべき希有な映画.一見の価値あり.
★★★★☆(★5個が満点)
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