独断的映画感想文:ラスト、コーション
日記:2009年1月某日
映画「ラスト、コーション」を見る.
2007年.監督:アン・リー.
出演:トニー・レオン(イー),タン・ウェイ(ワン・チアチー(マイ夫人)),ワン・リーホン(クァン・ユイミン),ジョアン・チェン(イー夫人),トゥオ・ツォンホァ(ウー),チュウ・チーイン(ライ・シュウチン),チン・ガーロウ(ツァオ),クー・ユールン(リャン・ルンション),ガオ・インシュアン(ホァン・レイ).
映画の冒頭シェパード(犬)のアップ,その首輪を押さえる警備員のアップ.厳重に警戒が続くビルの描写に「1942年日本軍占領下の上海」とテロップが出る.
階段をスープを盆にのせて駆け上がる女中,それを受け取るばあや越しに麻雀卓を囲む婦人達が見える.実にスムースな映画の滑り出しである.
やがて車で送られたマイ婦人ことヒロインのワン・チアチーが,喫茶店に入り電話をかける.電話の向こうではそれを合図に銃を掴んで飛び出す男達.何が起こるのか?
ここで画面は4年前に戻る.平凡な女学生ワン・チアチーが,友人の誘いで学生劇団に入り,抗日愛国劇を上演,成功させる.
やがて劇団は傀儡政府の情報部要人イーを暗殺する計画を立て,チアチーはマイ婦人と名乗ってイーを誘惑する役を演じるが,イーの突然の転勤で計画は未遂と終わる.
しかし彼らがイーの知人を殺害したため,皆ばらばらになり逃亡,3年後劇団員に偶然再会したワン・チアチーは,今度こそイーを暗殺するという計画に荷担,身体を張ってイーを誘惑する.ついにイーの愛人となったワン・チアチーだが….
戦争下,侵略軍の傀儡政府の情報部要人と彼を誘惑し暗殺しようとする工作員,その緊迫感あふれるやりとりを,トニー・レオンとタン・ウェイが見事に演じている.
二人の刹那的で死に物狂いと言っていいようなセックスシーンはまさに圧巻.お互いの身体にしがみつく二人は,しかしエロティックというよりはむしろ哀切という印象で胸を打たれる.
全体的に映画のおもしろさを存分に味わえるシーンが満載で,例えば1942年の上海の雑踏をどうやって再現したのだろう?
ビルの建ち並ぶ街にはトロリー・バスが走り,赤いターバンのインド人警官が交通整理する中,街を埋め尽くす人々が行き来する.人力車や自動車(中には木炭車さえ見られる)が通り抜けていく.
あるいは愛国劇が大成功に終わった後,夜雨の中を疾走する2階建てバスの上階で,風に髪をなぶらせながら興奮に酔いしれるワン・チアチーの姿.
映画ならではの魅力的なシーンが見事だ.
物語はカタストロフに終わるが,その余韻ある終わり方も納得がいく.映画らしい映画.音楽も素敵.
なお,題名の「ラスト、コーション」は中国語の原題名「色|戒」の直訳と考えられる.「最後の警告」というわけではない.
★★★★☆(★5個が満点)
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