追悼,中村又五郎
中村又五郎が亡くなった.
昔からテレビや舞台中継で見知った人だったが,歌舞伎を見に行く様になってからの舞台では,あまり見た記憶がない.
どの狂言か,商家の老主人の役で見た記憶がぼんやりとあるが,定かではない.
新聞によれば2005年の勘三郎の襲名披露の口上に出ていたといい,これは自分も見た筈なのだが,又五郎の記憶はない.このときは左団次が例によってとんでもない話をしていた(舞台で勘三郎に屁をかましたという)のを覚えているだけ.
中村又五郎に愛着を覚えたのは,大好きな作家池波正太郎の連作小説「剣客商売」の主人公・秋山小兵衛を,芝居好きのこの作家が中村又五郎をモデルに造形したということ,また「剣客商売」が劇化されたときの主演が中村又五郎だったと知ったからである.この上演時の面白いエピソードが,戸板康二の「ちょっといい話」に紹介されていたことも,楽しい記憶である.
又五郎の印象がもっとも鮮明なのは,「鬼平犯科帳」への出演だ.
出演作は第1シリーズの「暗剣白梅香」,第4シリーズの「討ち入り市兵衛」で,後者では主演格で殺陣もやった.「討ち入り市兵衛」の演技は秀逸で,泣かされた.
歌舞伎界の至宝にして名優,また国立劇場の研修生の指導者としてかけがえのない存在だったことは,報道されているとおり.大往生した播磨屋の長老のご冥福を改めてお祈り申し上げる.
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