独断的映画感想文:東京物語
日記:2009年3月某日
映画「東京物語」を見る.
1953年.監督:小津安二郎.
出演:笠智衆(平山周吉),東山千栄子(妻・とみ),原節子(二男の嫁・紀子),杉村春子(長女・金子志げ),山村聡(長男・平山幸一),三宅邦子 (妻・文子),香川京子(二女・京子),東野英治郎(沼田三平),中村伸郎(志げの夫・金子庫造),大坂志郎(三男・平山敬三),十朱久雄(服部修).
72歳の平山周吉は,妻とみと共に尾道から上京,東京で暮らす長男幸一,長女志げ,戦死した次男の嫁紀子等を訪ねる.
長男・長女の家に泊まるが彼らも仕事に忙しい.紀子が仕事を休んで東京見物に付き合ってくれる.
子ども達がお金を出し合って熱海に行くよう世話してくれるが,その温泉旅館も騒々しく,寝られぬ一夜を過ごす.
1泊で東京に舞い戻った周吉達は行き場を失い,とみは紀子の一間きりのアパートに泊めてもらう.周吉は同郷の知人沼田,服部と深酒して志げの家に深夜転げ込み,顰蹙を買うことになる.
二人は尾道に戻ったが,まもなく東京に「ハハキトク」の電報が届いた….
小津の傑作といわれる2時間16分の大作.
取り立てて大きな事件が起こるわけでもない,いち家族のエピソードだが,適度な緊張感を維持して最後まで一気に見ることができる.
家族崩壊を描いた映画といわれるが,現代の社会ではこのレベルでの家族の解体はむしろ当たり前で,昔ながらの大家族主義の方が,現実に見ることは困難であろう.この映画は様々な立場から見ることが可能である.
周吉夫婦の目から見れば幸一は「町医者」に過ぎず,志げも美容室の仕事に忙しく相手をしてくれないと見えるだろう.
しかし幸一は医学部を出て徒手空拳東京で開業し成功しているのであって,またその患者への貢献は非難の余地はない.志げにしても,その口喧しく厚かましい性格はともかく,これも東京で独力で美容室を開業維持して業界の研修のリーダーまでしているのだから,文句をつけるべきではあるまい.
彼女も夜だったら歌舞伎に付き合おうと言っているのだし,幸一も急患さえ来なければ家族で出かけるところだったのである.
京子は兄・姉を冷たいと非難するが,それは若い彼女ならではの視点だろう.
理想的な存在に見える紀子も,終局では自分自身の不安を率直に打ち明けている(現代社会には彼女のようなタイプはまずいないかも知れないが).
このような感想を持つのは,登場人物一人一人に対する監督の視点が決して冷ややかなものではないからである.登場人物を演ずる俳優達もそうそうたる顔ぶれで,それぞれに好演している.
特に原節子の美貌と笠智衆(このとき何と48歳だったそうな.石橋貴明・中井貴一と一緒ではないか)の演技には吃驚.
いわゆる小津スタイルの映像美も含め,一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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