独断的映画感想文:グラン・トリノ
日記:2009年5月某日
映画「グラン・トリノ」を見る.
2008年.監督:クリント・イーストウッド.
出演:クリント・イーストウッド(ウォルト・コワルスキー),ビー・ヴァン(タオ・ロー),アーニー・ハー(スー・ロー),クリストファー・カーリー(ヤノビッチ神父),コリー・ハードリクト(デューク),ブライアン・ヘイリー(ミッチ・コワルスキー),ブライアン・ホウ(スティーブ・コワルスキー),ジェラルディン・ヒューズ(カレン・コワルスキー),ドリーマ・ウォーカー(アシュリー・コワルスキー).
映画の冒頭,葬儀に参列する人々.
棺の横に立つウォルトは参列者に挨拶を返すが,へそピアス姿で来る孫娘や,ふざけた祈りをする孫達に,苦虫をかみつぶした様な顔だ.亡妻に頼まれたからと繰り返し訪れ,懺悔を進めるルター派の若い神父にも悪態をついて追い返す.
フォードの組み立て工として生涯を過ごしてきたウォルトの唯一の平安は,ガレージにあるお気に入りの72年製のグラン・トリノを見て過ごすときだ.
そんな彼が,隣に住む彼が嫌っていたアジア系モン族の姉弟と知り合いになる.
街で偶然におとなしい弟タオ,勇敢な姉スーを助けたことから,ウォルトは隣の家族から厚遇され,パーティーに招かれる.そこで彼は祈祷師のお告げを受ける.
一方,彼に追い払われたモン族の不良グループは姉弟に魔の手を伸ばしてきた….
ウォルトは言われているほどに孤独の人ではないと思う.なじみの床屋や,行きつけのバーの飲み友達がいる.
しかし家族はいない(彼の息子達は,すでに彼の家族ではなかった).
その彼がスー・タオの姉弟と親密になっていく過程は,何となく落語的なユーモアをもって巧みに語られる.
また彼を見立ててモン族の祈祷師が告げた言葉は,彼の心に深く残った様だ.彼は神父の元に懺悔をしに行き,その後不良グループから姉弟を守るために,ウォルトは単身彼らのアジトに乗り込んでいく….
エピローグは,プロローグ同様葬儀の場面から始まる.
最終場面で,グラン・トリノが明るい陽光を浴びて海岸線の道を走っていく.そこに重ねられるイーストウッド本人が歌う「グラン・トリノ」.
ウォルトのアメリカは,誰に引き継がれどうなっていくのだろうと,思わずにいられない.気むずかしい老人の誇りと愛情が結実した結末に,涙を禁じ得なかった.
男がみんなこんな老人になったら若い人は迷惑至極であろうが,でもこんな老人になりたいものである.
俳優はイーストウッド本人はもちろんだが,床屋役のジョン・キャロル・リンチが良かった.彼がイーストウッドと二人でタオに「男の会話術」を仕込むシーンは,傑作.
一見の価値有り.
★★★★☆(★5個が満点)
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