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2009年10月に作成された記事

2009/10/21

帰れない二人

「帰れない二人」は井上陽水のヒットアルバム「氷の世界」の3曲目である.51d1ou7ihdl__ss500_
「氷の世界」は1973年のリリース,100万枚を超える大ヒットとなり井上陽水は一気にポップス界のカリスマスターとなった.それまでギター1本で弾き語るイメージのあった陽水は,このアルバムでそれまでになかった豪華絢爛な楽曲の世界を切り開いた感じがしたものだ.
特に冒頭の「開かずの踏切(氷の世界バージョン)」「はじまり」,そして「帰れない二人」の3曲はまさに,井上陽水の華麗な世界のはじまりを告げる様に思えた.
ところで「帰れない二人」は極めて豪華なメンバーで制作されている曲だ.
作詞・作曲は陽水と忌野清志郎の合作で,編曲はモップスのギタリスト星勝である.ベースが細野晴臣,ピアノ深町純,リードギターが高中正義.そうそうたるメンバーだが皆まだ若かった.
ギターの前奏に続いて始まる歌は実に伸びやかで,2番の歌唱からピアノがそれに絡む.2番が終わるとリードギターの間奏,ピアノの間奏,そして両者の絡みでエンディングにいたる.その印象は,それまで馴染んでいた四畳半フォークやブルース系のフォークとは全く異なる世界が開けた感じがして,それまで拘りを持っていた何かから抜け出せた様な開放感があった.
先日NHKで放映された井上陽水特集で本人がこの詩を作った時のことを語っていた.
当時陽水が住んでいた三鷹のアパートに清志郎が来て,夜,二人で詩を作ったそうである.作詞は難航して清志郎は遅くに帰り,結局1番の歌詞を陽水がまとめ2番の歌詞はそれを電話で聞いて清志郎が作ったという.
ところで僕はその三鷹のアパートに,実は星勝もいたのではないかと,それを聴いて思ったのだ.
詩が出来ずにあーだこーだと夜遅くまでご託を並べ続ける二人に呆れて,彼は先に帰ったのではないか?
だってそれは歌詞にはっきり書いてあるじゃないですか.「もう星は帰ろうとしている.帰れない二人を残して(1番の最後)」ってね.
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2009/10/20

独断的映画感想文:罪とか罰とか

日記:2009年10月某日
映画「罪とか罰とか」を見る.5
2008年.監督:ケラリーノ・サンドロヴィッチ.
出演:成海璃子(円城寺アヤメ),永山絢斗(恩田春樹),段田安則(加藤吾郎),犬山イヌコ(風間涼子),山崎一(常住),奥菜恵(マリィ),大倉孝二(立木),安藤サクラ(耳川モモ),市川由衣,徳井優,佐藤江梨子,田中要次,高橋ひとみ,麻生久美子,石田卓也,串田和美(海藤副署長).
売れないアイドル・円城寺アヤメは自分の載ったグラビア雑誌を見ようとコンビニへ.ところが自分の載ったページは何故か逆さまに印刷され鼻の下には黒い汚れが.1
その雑誌を買おうとするが何故か財布を忘れていたアヤメは,万引きしようとしてあっさり捕まる.
駆けつけたマネージャーと一緒に平身低頭していると,来合わせた警官の口利きで何故か一日署長をすることに.
そのコンビニで変な買い物をする羽目になった加藤五郎は,目の前にスリップ一枚の女性がマンションから落ちてきて吃驚,飛び出した路上でダンプにはねられ瀕死の重傷を負う.
何故か目の前にあったスケッチブックに何ごとかメモして,必死でそれを渡した相手は傷心のアヤメであった.
一方そのマンションの一室では良からぬ相談に熱中する男女3人組がいて….3
最初はばらばらで脈絡もないと見えるいくつかのシークエンスが,映画の進行と共に次々と結びついて,意外な大団円を迎えるという,「ショート・カッツ」とか「パルプ・フィクション」等を想起させる,但ししっかり脱力系のコメディ.
完全な負け組アイドルアヤメが,「一日署長」という偶然を軸に大団円にいたる過程が面白い.
この映画の肝は何と言ってもキャスティングで,まあ個人的には辛酸ナメ子状態の成海璃子チャンが理屈抜きに素敵だが,段田安則を2度も跳ねとばすダンプの助手席で自己中かつアンニュイに構えている麻生久美子,半裸の転落死体を演じる佐藤江梨子(他には考えられない-失礼!)等,豪華な配役に呆然とする.4
切れまくる奥菜恵も新鮮でした.
偶然,一日署長アヤメの世話役になった刑事がアヤメの元彼でしかも連続殺人犯なのだが(そのことはアヤメだけが知っている),それを演じる永山絢斗の不思議な爽やかさも素敵.
彼が去っていくラストシーンもこの映画らしく,印象的でした.2
予想とは大分違ったが,見て損は無し.あと少しテンポが良ければ,「映画ってこうでなくっちゃ」と言えるだろう.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:パンドラの匣

日記:2009年10月某日
映画「パンドラの匣」を見る.003_2
2009年.監督:冨永昌敬.
出演:染谷将太(ひばり),川上未映子(竹さん),仲里依紗(マア坊),窪塚洋介(つくし),ふかわりょう(固パン),小田豊(越後獅子),杉山彦々(かっぽれ),KIKI(大月キヨ子),洞口依子(ひばりの母),ミッキー・カーチス(場長).
敗戦直前,結核にかかっていた青年利助は,玉音放送を聞いて新しい人間に目覚めようと決心.結核を治すため,山奥の健康道場に入院する.002
ここはちょっと変わった施設,患者はそれぞれ道場内でのあだ名で呼ばれ,看護助手達の介護を受けながら独特の体操やマッサージをする.利助も「ヒバリ」とあだ名をつけられ療養に励む.
詩人の「つくし」が退院すると入れ替わりに,新しい婦長の「竹さん」が赴任.「つくし」に憧れていた助手の「まあ坊」は「ヒバリ」にもなついているが,「ヒバリ」は「竹さん」が気になっている.
「ヒバリ」はそのような道場の様子を「つくし」に手紙で書きつづるのだった….001
絶望的な戦争が終わり,死と直面しながらも希望をもって療養する患者達の,未だ戦争を色濃く引きずった生活を描く.映画は独特の雰囲気を持ち,象徴的な動きで登場する郵便配達夫や,夜の道場の夢の中の様な映像が印象的だ.菊池成孔の音楽も素晴らしい.
俳優では川上未映子,仲里依紗,KIKIらの女優陣が魅力的だった.
染谷将太はやや年齢不詳で,中学生とも青年ともとれるところが少し不満.
窪塚は相変わらず存在感がある.004
映画らしい魅力に富んだ作品.
★★★☆(★5個が満点)
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2009/10/18

独断的映画感想文:ウォンテッド

日記:2009年10月某日
映画「ウォンテッド」を見る.Wanted1
2008年.監督:ティムール・ベクマンベトフ.
出演:アンジェリーナ・ジョリー(フォックス),ジェームズ・マカヴォイ(ウェスリー・ギブソン),モーガン・フリーマン(スローン),テレンス・スタンプ(ペクワースキー),トーマス・クレッチマン(クロス),コモン(ザ・ガンスミス).
仕事ではデブの女性上司にいじめられ,恋人は同僚と寝ているのに文句も言えず,口から出るのはアイム・ソーリーという気弱な駄目男ウェスリー.
しかしある晩,コンビニで美女と出会うや謎の男の銃弾に襲われる.
美女はそれに応戦,店内の撃ち合い後カーチェイスとなり,ウェスリーは美女に指示されるまま車を運転.凄まじいカーチェイス後男は追跡を諦め,美女フォックスはウェスリーをアジトに案内する.
現れたスローンという男は,その組織がフラタニティという暗殺組織だとあかし,ウェスリーの行方不明の父がその組織員でウエスリー自身も暗殺者の素質があると言う.ウエスリーはその男の勧めで組織に入り,フォックスの指導を受けることになるのだが….Wanted2
凄まじいカーアクションと銃弾の特殊撮影の予告編が有名なこの映画,アクション的には充分楽しめます.
特に冒頭のカーチェイスは凄まじい.
でもそのアクションをつなぐ物語は少し薄め.
僕が納得がいかないのはフラタニティに降りてくる暗殺指令の仕組みだ.織物の断片として示されるその指令は,いったい誰が出しているのか.それを何故信じて暗殺が出来るのだろうか.Wanted3_2
もう一つ理解できないのは,最終局面でのフォックスの行動である.その時までに解き明かされた謎に照らして,何故あの行動があり得るのか.全く意外であり受け入れがたいものだ.
そんなこんなで★★★(★5個が満点)
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2009/10/03

独断的映画感想文:トウキョウソナタ

日記:2009年9月某日
映画「トウキョウソナタ」を見る.Tokyosonata1
2008年.監督:黒沢清.
出演:香川照之(佐々木竜平),小泉今日子(佐々木恵),小柳友(佐々木貴),井之脇海(佐々木健二),井川遥(金子先生),津田寛治(黒須),児嶋一哉(小林先生),役所広司(泥棒).
佐々木竜平は大会社の総務課長,しかしあっけなくリストラの憂き目にあう.
父親の権威を大事に思う彼は失業が言い出せず,出勤のふりをしてハローワークに通うが,彼に相応しい就職口はなかなか見つからない.
給食施設で高校の同級生黒須と出会ったが,彼も失業者だった.黒須も家族を欺いていたが,ある日あっけなく妻と無理心中してしまう.
竜平の家では長男・貴が突然米軍に入隊したいと言いだし,次男健二はピアノを習いたいと言い出す.竜平の反対にも拘わらず二人ともその意を通そうとするのだった….Tokyosonata2
崩壊していく家族のそれぞれの死と再生を巡る現代の寓話.
普通にはあり得ない出来事が次から次へと起こる.
そもそも竜平のリストラがそうだ.総務部門が中国に移るに伴いリストラがあるとして,そのことを当の総務課長が知らないということはあり得まい.
貴の米軍志願も如何にも唐突だ.健二がピアノの天才だとしても,小学校高学年まで何の訓練もしなかった少年が,数ヶ月で人を感動させるほどのピアノを弾くことはあり得ない.
つまりこの映画は寓話なのだが,それでも寓話の持つリアリティが観客を映画に引きずり込む.
冒頭のリストラ劇は,脛に傷持つ中高年にとっては見辛いところだ.見ていて心が痛い.
しかしところどころに仕掛けられたユーモアや,俳優達の好演によって最後まであっという間に見た.
印象的なのは小泉今日子だ.Tokyosonata4
家族のそれぞれが直面する死と再生の中で,彼女の直面するものが最もドラマチックなものであろう.海浜のボート小屋の一夜とその夜明けのシーンは印象的.
音楽の使い方が効果的で,最後のピアノ演奏のシーンとそこでの竜平の涙は感動的だ.
後に残る映画らしい映画.
★★★★(★5個が満点)
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