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2010年1月に作成された記事

2010/01/31

独断的映画感想文:レイチェルの結婚

日記:2010年1月某日
映画「レイチェルの結婚」を見る.1
2008年.監督:ジョナサン・デミ.
出演:アン・ハサウェイ(キム),ローズマリー・デウィット(レイチェル),ビル・アーウィン(ポール),トゥンデ・アデビンペ(シドニー),マーサー・ジッケル(キーラン),アンナ・ディーヴァー・スミス(キャロル),アニサ・ジョージ(エマ),デブラ・ウィンガー(アビー).
薬物中毒の治療のため入院していた矯正施設から,姉レイチェルの結婚のため一時的に退院したキム.
自宅の庭にはテントが張られ,ミュージッシャンが演奏練習をする中,レイチェルは衣装合わせ,他の皆も式の支度に忙しい.
居場所のないキムはタバコをふかしてはあちこちをうろつく.キムを腫れ物に触る様に扱う家族,離婚した母も式のために訪れるが,キムにはよそよそしい.
エキセントリックな薬中に見えるキムだが,映画の進行と共に,キムがかって犯した大きな過ちと,その傷跡が家族の間に未だに大きく残っていることが判ってくる….2
その事件のためにキムは未だに自分を責め続け,家族もその事件を忘れることはできない.
自分を責め続けるキムを見る父のやりきれない悲しみ,自分の結婚式の喜びとキムへの複雑な思いに直面するレイチェル.
家族を祝福しに親しい人々が訪れる中で,衝突しあいまた和解を繰り返すキム達の描写が,胸を打つ.
手持ちカメラで撮り続ける映像はドキュメント風で,観客を画面の中に誘い込む様だ.
俳優ではアン・ハサウェイが文句なく素晴らしい.大きな十字架と大きな悲しみを背負って生きているキムの,何時壊れるかも知れない危うさを演じて,強い印象を受ける.3
個人的には父親を演じたビル・アーウィンに共感を持った.それは俳優が素晴らしいこともあるが,娘に複雑な感情を持ちながらも彼女を愛し続けるポールという人物の姿勢に,共感したということだろう.
結婚式に集まった,友人と思われるミュージシャン達の存在そのものや演奏にも,心が癒やされる.
ラストシーンはハッピーエンドではないが,納得のいくものだった.見て損はなし.
★★★★(★5個が満点)
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2010/01/23

追悼:浅川マキ

日記:2010年1月某日03
浅川マキのファンかというと,実際は69年から70年代前半にかけて彼女の音楽を愛聴していただけで,ライブに行ったこともない.
考えてみれば,テレビでも彼女を見たことはないので,動く彼女の映像は見たことがない.僕の知っているのは,その音楽と黒い服を着た浅川マキの写真だけである.
浅川マキを聴くということは,大学に入り先輩から教わって酒とタバコを覚えたことと,殆ど同じ系列の上にあった.その音楽の強烈な印象と独特な優しい声に僕は心を奪われた.
特に彼女を好きだった友人が持っていた擦り切れた「浅川マキⅡ」と「浅川マキ ライブ」のレコードをコピーして,そのコピーしたオープンリールのテープから更にカセットテープにコピーして,今手元にはそのぼろぼろになった音源があるだけだ.
彼女はその後実験的なジャズナンバーを近藤等則らとアルバムに吹き込んでいるが,それらのナンバーよりはやはり初期のブルース調のナンバーが僕は好きだ.
近藤さんといえば母校の先輩で,僕は入学直後の新歓で,軽音ジャズのエースだった近藤さんがトランペットで「ウォーターメロンマン」を吹いた姿を,今も鮮明に覚えている.講堂のステージの中央で青いスポットライトを浴び,スリムのGパンにTシャツ姿で熱演していた近藤さんは素晴らしかった.
その同じ講堂で後に,浅川マキが泉谷しげるをゲストに歌った「難破ブルース」が「ダークネスⅠ」に収録されているが,このライブ演奏のくつろいだ雰囲気は好きである.特にギターの下手な泉谷がとんでもない音を出して暖かい失笑を買っているところなど,かけがえのない値打ちがある.
そういうライブの雰囲気を伝えて,かつ音楽的にも最も素敵なのは,「浅川マキⅡ」のラスト,新宿花園神社収録の「朝日のあたる家」だろう.
冒頭の雑踏の騒音の中で,マキの声が「ひどいねぇ」と聞こえるところなど嬉しくなってしまう.
また「浅川マキ ライブ」の「ギャスリン・アレイ」終了直後のマキが「つのだひろ!」と共演者を次々に紹介していく高揚した声も懐かしい.05
1月19日の朝刊で,17日のライブ公演前に亡くなったことを知った.67歳だった.
浅川マキが元気でまだ歌い続けていたということは,凄いことではあるが,一方でそれは当然のような気もしていた.それは,動く彼女の映像を見たことがない僕の,一方的な思いこみではあったろうが.
ご冥福をお祈りします.

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独断的映画感想文:ウィル・ペニー

日記:2010年1月某日
映画「ウィル・ペニー」を見る.1
1967年。監督:トム・グライス.
出演: チャールトン・ヘストン(ウィル・ペニー),ジョーン・ハケット(キャサリン・アレン),ドナルド・プレザンス(クイント),ブルース・ダーン(レイフ),ベン・ジョンソン(アレックス),スリム・ピケンズ(アイク),アンソニー・ザーブ(ダッチー).
撮影は2年前に「エルダー兄弟」を撮っているルシアン・バラード.
ウィル・ペニーは50歳も間近というベテランのカウボーイ.テキサスから牛を運び終わり,雇い主から腕を見込まれカンザスに同行しないかと誘われるが,若いカウボーイがカンザスに行きたいと言い出すとあっさり譲ってしまうお人好し.
牛を追う仕事にかけては人に負けない根っからの牧童だが,自分の名前も書けない.
仕事を探しての道中で,仲間を救うための銃撃戦で狂信的説教師クイントの恨みを買ってしまう.
やがて仕事にありついた牧場で山番をすることになるが,その番小屋には,ガイドに逃げられたキャサリン母子が冬を越そうと身を寄せていた.3
山回りをしていたペニーは,クイント親子に襲撃され重傷を負う.辛うじて番小屋までたどり着いたペニーを,キャサリンは献身的に看病する….
映画はペニーとクイント親子の確執,キャサリンとのロマンスを描くのだが,観客にとって印象的なのはその物語よりもむしろ,ウィル・ペニーの人生そのものであろう.
子供の頃両親を亡くし,酒場の使い走りをして育った彼は,ずっと牧童をしてきた.牧童の成功者は,カウボーイをして稼いだ金を元手に牧場を始め,長い時間をかけて牛を増やしていくものらしい.2
既に初老のウィル・ペニーは,せっかくの腕がありながら,成功者となるタイミングを既に失ったものと考えられる.その事実の重さが,映画のラストシーンに描かれるのだ.
派手な銃撃戦よりは,人間の情愛と厳しい自然を描く,どちらかといえば地味な西部劇である.
チャールトン・ヘストンはこのとき43歳,「大いなる西部」の時(34歳)よりさすがに年を取った.
クイント役のドナルド・プレザンスが怪異な狂信者を演じて秀逸,この人は中学生の頃見た「大脱走」で神経質な偽造証明書作りの名人を演じていて,良く覚えている.4
★★★☆(★5個が満点)
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2010/01/17

独断的映画感想文:エルダー兄弟

日記:2010年1月某日
映画「エルダー兄弟」を見る.1
1965年.監督:ヘンリー・ハサウェイ.
出演:ジョン・ウェイン(ジョン・エルダー),ディーン・マーティン(トム・エルダー),マーサ・ハイヤー(メリー・ゴードン),アール・ホリマン(マット・エルダー),マイケル・アンダーソン・Jr(バド・エルダー),ジョージ・ケネディ(カーリー),デニス・ホッパー(ディヴ・ヘイスティング).
ジョン・ウェインの通俗西部劇.
母親ケイティの葬儀に集まる4人のエルダー家の兄弟,長男ジョンはガンマン,次男トムは博打打ちで兇状持ち,三男マットは何をしているか判らないが,末のバドは学生.
彼らが家をあけていたうちに,飲んだくれで博打好きな父親は牧場を乗っ取られ後ろから打たれて死んでいた.牧場を乗っ取ったヘイスティングは,先手を打って殺し屋カーリーを雇う.
母親は町の人に慕われ,老保安官ビリーも兄弟を気遣うが,保安官補ベンはガンマンのジョンに気を許さず,トムに殺人容疑の手配が出ていることを知って彼を逮捕しようとする.4
それを止めて一人エルダー家に向かったビリーが死体で発見されると,ベンは自警団を集めて兄弟を逮捕.ベンは彼らを連邦保安官のいるラレドに護送しようとするが,その途上,ヘイスティングは彼らを襲い,マットが死亡バドも重傷を負う….
この時点で主人公達は町中から敵視される犯罪者でしかも怪我人がいる,この状況をどう切り開くのか?というあたりがポイントで,それ以外には特に印象的なものはない.5
まあジョン・ウェインが主演する西部劇ということで全て許されるという映画.高倉健が主演するヤクザ映画だったら基本的にオッケーという感じに似ておりますな.
エルマー・バーンステインの音楽も,二番煎じ三番煎じの感じがするどっかで聞いた様なもので,今ひとつ.6
悪党ヘイスティングの気弱な息子でデニス・ホッパーが出ている.この人も息の長い役者さんだ.
★★★(★5個が満点)
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2010/01/13

独断的映画感想文:重力ピエロ

日記:2010年1月某日
映画「重力ピエロ」を見る.2
2009年.監督:森淳一.
出演:加瀬亮(奥野泉水),岡田将生(奥野春),小日向文世(奥野正志),吉高由里子(夏子),岡田義徳(山内),渡部篤郎(葛城由紀夫),鈴木京香(奥野梨江子).
伊坂幸太郎の原作は未読.ネタバレあります.
泉水と春は似たところのない仲良し兄弟.
泉水は引っ込みがちの院生でバイオサイエンスを研究している.春は行動力のありすぎるイケメンの高校生.
二人の住む街に,このところ連続放火事件が発生,バイトでグラフィティアートの落書き消しをしている春は,落書きアートの発生現場と放火現場が近いことに気付き,泉水を誘って夜の街に見張りに出た….5_2
映画は,落書きアートに描かれる言葉の頭文字がDNAを構成する4つのアミノ酸を示すAGCTであること等の謎解きを進める一方,彼らの事故で亡くなった母親が24年前にレイプ犯に襲われ,その後春が生まれたこと等を明らかにしていく.
極めて仲の良い彼ら家族の出生の秘密と,連続放火の謎はどこで交わるのか….
この映画の良いところは,如何にも映画らしい丁寧な画面作りとキャスティングであろう.
特に兄弟二人を演ずる加瀬亮・岡田将生の二人は,はまり役である.鈴木京香,渡部篤郎(この人物像は極めて異常で腹立たしいが,それなりに理解できる)も良い.1
小日向文世は,と言うより奥野正という人物は,いささか不思議な人物である.
この映画のテーマというべき家族の緊密な結びつきは,言わばこの人物が組織しているのである.その割には彼の観客から見える人物像は理解しがたい.
妻のレイプ後公務員を辞めて養蜂業を営むという,へんてこな設定は良しとしましょう(実際は養蜂業など仙台市に定住してできるとは思えないが).
レイプ後妊娠した妻に対し,その子を産み育てようと宣言するくだりは,どうも受け容れがたい.その是非以前に,余りに唐突でその論拠も何もないからだ.3
また,春が実際にしでかしたいろいろなことにも拘わらず,結末が「春が2階から落ちてきた」だけでほのぼのと終わっていくのも,理解しがたい.この映画は「と思ったら夢だった」というたぐいの映画なのだろうか?
それとも原作を読めばこの様々な疑問は解決するのだろうか?
放火事件と落書きアートを巡る謎解きの進行という前半の設定は,それなりに納得できたが,後半の構成にはついて行けなかった.というわけで★★☆(★5個が満点)
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2010/01/11

独断的映画感想文:チェイサー

日記:2010年1月某日
映画「チェイサー」を見る.1
2008年.監督:ナ・ホンジン.
出演:キム・ユンソク(ジュンホ),ハ・ジョンウ(ヨンミン),ソ・ヨンヒ(ミジン),チョン・インギ(イ刑事),パク・ヒョジュ(オ刑事),キム・ユジョン(ミジンの娘),ク・ヌボン(ジュンホの子分).
冒頭,街を流す若い女性の運転する外車.その車が乗り込んだ男の指示でとある住宅地に駐車,男女は姿を消す.
デリヘル嬢の元締めジュンホは,最近手持ちの女性の失踪に悩まされている.
売り飛ばされたのではないか,と疑うジュンホは,外車の女を呼び出した男の携帯番号をブラックリストに載せ待ち受ける.その番号からかかった電話に,ジュンホは子持ちの女ミジンを差し向け,バスルームから住所を知らせる様指示する.2
ミジンは男ヨンミンに古い住宅に連れ込まれ,バスルームから電話を試みるが携帯は通じない.ミジンは縛り上げられ,ヨンミンが金槌とのみを持ってミジンに迫る….
その後ジュンホの必死の捜索で補足されたヨンミンは警察に突き出され,ヨンミンは何と女を殺したとの自白をするが,その殺害場所はがんとして吐かず,証拠も無いまま検察の判断でヨンミンは釈放される.釈放後ヨンミンは更に尾行をまいて恐るべき犯罪に走る….
韓国で実際に起こった猟奇連続殺人事件を題材とした映画.
以前は刑事で今は冴えないデリヘル元締めのジュンホが,無能で腐敗した警察を尻目に身を挺してミジンの救出のため死力を尽くす.3
何故ジュンホがそこまで戦うのかは特に説明はないが,ミジンには7歳の娘がいて,それがまたいたいけで,ジュンホと行動を共にするのだ.
映画は緊張感が維持され,暗い色調やスピード感あふれる描写で観客の目を奪う.ジュンホの破天荒な活動も見るものの手に汗を握らせる.映画としては十分だ.
しかしこの映画,好きにはなれない.5
この映画の結末はあまりに悲惨で救いが無く,見終わった後のカタルシスは何もない.
その点では「ノー・カントリー」にやや似ているが,「ノー・カントリー」の場合は,殺し屋は使命によりあたかも運命そのものの様に殺人を実行したのだ.この映画では犯人は只の変質者だ.抵抗むなしくこの変質者に殺される被害者の無念は,想像するに余りある.
この悲惨な結末が映画にとって必要だという主張は理解はできるが,個人的には受け容れ難い,要するに好きになれない.
このような韓国映画に対する感想は,「オールド・ボーイ」の時にも書いた.こういうスタンスが,僕と韓国映画の関係の現状なのであろう.
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2010/01/06

独断的映画感想文:アンダーワールド ビギンズ

日記:2010年1月某日
映画「アンダーワールド ビギンズ」を見る.4
2009年.監督:パトリック・タトポロス.
出演:マイケル・シーン(ルシアン),ビル・ナイ(ビクター),ローナ・ミトラ(ソーニャ),スティーヴン・マッキントッシュ(タニス),ケヴィン・グレイヴォー(レイズ),シェーン・ブローリー(クレイヴン),ケイト・ベッキンセイル(セリーン).
ヴァンパイアとライカン(狼男族)の宿命の戦いを描くシリーズ3部作の完結編.と言ってもこの映画ではこの宿命の戦いの始まりを描く.
はじめは双子の兄弟から始まった両種族は,しかしヴァンパイア族がライカンを奴隷として支配し,強大な武力を背景に繁栄を誇っていた.7
しかしライカンの生まれのルシアンは,優れた知力に恵まれ,また自由にオオカミから人間へと変態を重ねることができた.ヴァンパイアの族長ビクターは,ルシアンを警戒しつつも彼を使ってライカンを統率できる可能性を考え,ルシアンを鍛冶職に就かせてその成長を見守る.
ビクターの一人娘ソーニャは何時しかルシアンと愛し合う仲になるが,そのことが大きな悲劇の発端となる….
この3部作に共通の雰囲気をこの映画も持っていて,そのことがまず魅力である.
最初から最後まで暗い色調の中で演じられる異人達の物語(ゴシックホラーと称せられる).そこで展開される激しいアクションシーンと殺戮のシーン.血なまぐさく,グロテスクでもあるこのシリーズの何処がこのように魅力的なのか.5
しかし見始めたら時の経つのを忘れて見入ってしまう不思議な力がこのシリーズにはある.
それは俳優達の魅力でもあり(ビル・ナイ,マイケル・シーン,ローナ・ミトラいずれも素晴らしい),また設定された古城や暗い牢獄の魅力でもある.その舞台を横糸に綴られるソーニャとルシアンの悲恋の物語は,両者の激しい性格も相まって強い印象を観客に与えるだろう.
見て損はない映画.2
なお前2作のヒロイン,ケイト・ベッキンセールは,最後のワンシーン,第1作のヒロインとしての姿を瞥見させるのみ.
余談だが,ケイト・ベッキンセールは実際にライカンの頭目マイケル・シーンのパートナーとなり子供を得た.しかしその関係は数年で破綻し,その後ケイトはこのシリーズ前2作の監督レン・ワイズマンと結婚したそうな.
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2010/01/04

独断的映画感想文:オーストラリア

日記:2010年1月某日
映画「オーストラリア」を見る.08_2
2008年.監督:バズ・ラーマン.
出演:ニコール・キッドマン(レディ・サラ・アシュレイ,ヒュー・ジャックマン(ドローヴァー),デヴィッド・ウェンハム(ニール・フレッチャー),ブライアン・ブラウン(キング・カーニー),ジャック・トンプソン(キプリング・フリン),デヴィッド・ガルピリル(キング・ジョージ),ブランドン・ウォルターズ(ナラ).
1939年のこと,英国の貴族レディ・サラ・アシュレイはオーストラリアの牧場に出かけたまま帰ってこない夫の元に行こうと現地に降り立つ.
迎えた男は牛追い(ドローヴァー)と称するカウボーイ.彼と共に2日かけて牧場に到着するが,夫は直前に暗殺されていた.
牧場を引き継ぐ覚悟をしたサラは,牧場の牛を盗んでは隣接する牧畜王カーニーに渡していたマネージャーのフレッチャーをクビにし,1500頭の牛の軍への納入に牧場の命運をかけるべく,ドローヴァーを雇い牧場を後にする….03
前半はカーニーに雇われ手段を選ばぬ妨害を仕掛けてくるフレッチャーと戦いつつ,如何に期日までに牛をダーウィンの港に届けるかを巡る展開,後半はカーニーまで殺し牧畜王として君臨するフレッチャー相手に,折しも日本軍の空襲下,サラとグローヴァーの挑む戦いを描く,3時間近い長編ドラマ.
02
その中心にいて物語の語り部であるのが,アボリジニと白人の混血である少年,ナラの存在である.
映画の冒頭に,この時期混血児を政府がアボリジニの親から強制的に引き離し,白人に奉仕する精神を叩き込むため隔離して育てた歴史があることが明らかにされる.そのことの正式な謝罪は2008年になって行われたという(このあたりのことについて個人的な独断をいえば,それ以前にハンティングによって(!!)タスマニア原住民を絶滅させ,今クジラを殺すなと日本漁船に攻撃を仕掛けてくる人々の無茶苦茶ぶりには,思うところあり.まあ,これも僕の差別と偏見かも知れませんが).
物語自体はかなり類型的で,最終局面ではサラ側の人は皆運良く助かるし,フレッチャー側は散々な目に遭うという,ご都合主義もある.10
しかしこの映画の構造はちょっと面白い.フレッチャーは3代にわたって牧場のマネージャーを務めた現場たたき上げ,これがサラにクビにされたのを機に牧畜王カーニーの腹心となり,その死後(フレッチャーが殺した後)はカーニーの娘と結婚してダーウィンの最高実力者となる.
一方れっきとした英国貴族であるサラは夫を亡くした後,かって黒人と結婚したことで白人仲間から爪弾きになっていたドローヴァーと愛人関係になり,更に白人とアボリジニのハーフ・ナラを引き取って子供同然に育てている.
1940年代の白豪主義と現代の人権意識の違いを考えても,この2人の位置関係は,白人から見てどういうことになるのだろうか.
その辺に思いをいたしつつ鑑賞.
類型的でご都合主義とは言っても,結末には感動したし感銘的なシーンも多数あった.ナラ役のブランドン・ウォルターズが素敵.見て損はない映画.
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2010/01/03

独断的映画感想文:僕の彼女はサイボーグ

日記:2010年1月某日
映画「僕の彼女はサイボーグ」を見る.5
2008年.監督:クァク・ジェヨン.
出演:綾瀬はるか, 小出恵介,桐谷健太,鈴之助,吉高由里子,阿井莉沙,佐藤めぐみ,斉藤歩,田口浩正,山口祥行,ドロンズ石本,松本莉緒,(スペシャルゲスト)六平直政,(スペシャルゲスト)蛭子能収,(スペシャルゲスト),手塚とおる, (スペシャルゲスト),納谷六朗,(スペシャルゲスト),伊武雅刀,(スペシャルゲスト),寺泉憲(スペシャルゲスト),遠藤憲一,小日向文世,竹中直人,吉行和子.
青年ジローは自分の誕生日に不思議な女性をデパートで目撃する.
宇宙服のようなものをまとった女性は衣服と靴を万引き,それに着替えて逃走する.その後パスタを食べていた店に彼女が現れ,彼と同席して誕生日を共に祝った挙げ句,食い逃げを敢行,二人は街中を逃げ回る羽目になる.3
その夜限りで彼女は姿を消すが,彼女を忘れられないジローは,翌年の誕生日にも彼女を待ってレストランで食事をする.その夜果たして彼女は現れたが,レストランでは思いもかけない大事件が起きるのだった….
タイムパラドックスを扱ったSF映画.
但し,この映画はSFとしては極めていい加減である.
まずヒロインはサイボーグではない.サイボーグとは人間の肉体を部分的に機械に置き換えたもので,最低限頭脳は人間のものだ.
この映画で言う「サイボーグ」は人間の形をしたロボットで,普通は「アンドロイド」と言う.監督が自分の映画をどう名付けようが勝手だが,例えば世間で「犬」と呼ばれているものを「猫」だと主張し,「僕の猫」という題で犬を描いた映画を作ったようなものである.4
タイムパラドックスの扱いもいい加減で,最後に明らかになる種明かしを考えると,矛盾点が幾つも出てくる.
誕生祝いのシーンのギャグは,基本的にあり得ない監督の勘違いではないか(ケーキに頭を突っ込むというシーンは「サイボーグ」は見ている筈のないシーンだからだ).
説明の付かない現象をタイムパラドックスとして種明かしするこの手のSFとしては,この映画は落第と言わざるを得ない.
中盤の,主人公の過去の故郷にタイムスリップするシーンも酷い.
①何故自在なタイムスリップが可能なのか説明がない.②お祖母ちゃんと思っていた人は実はお母さんでした,という話はどう決着がつけられたのか説明がない.③ほんの10年ほど前へのタイムスリップとは思えない時代描写で,何とも受け容れ難い.1
以上のような致命的な欠点の数々にも拘わらずこの映画が素敵なのは,綾瀬はるかの魅力に尽きる.
彼女の「サイボーグ」としての冷たい演技,そしてヒロインとしての心通う演技はそれぞれ観客の心を魅了して離さないであろう.この映画は彼女(だけ)を見る映画と言って過言ではない.
他の点については,主人公には魅力がなく,ヒロインが何故主人公のために遠い未来からやって来たのか全く理解しがたい.
山のように出てくるスペシャルゲスト他の俳優は,竹中直人を筆頭に見る価値なし(見て損した,金返せ).
SF映画として,目指したことは評価したいがSFを舐めるな,と言うべき映画.
まあ糞味噌に言いましたが,この監督とは元来相性が悪い.ヒラにご容赦いただきたい.
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