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2010年2月に作成された記事

2010/02/27

独断的映画感想文:ワルキューレ

日記:2010年2月某日
映画「ワルキューレ」を見る.Valkyrie06
2008年.監督:ブライアン・シンガー.
出演:トム・クルーズ(シュタウフェンベルク大佐),ケネス・ブラナー(ヘニング・フォン・トレスコウ少将),ビル・ナイ(オルブリヒト将軍),トム・ウィルキンソン(フロム将軍),カリス・ファン・ハウテン(ニーナ・フォン・シュタウフェンベルク),トーマス・クレッチマン(オットー・エルンスト・レーマー少佐),テレンス・スタンプ(ルートヴィヒ・ベック),エディ・イザード(エーリッヒ・フェルギーベル将軍),ジェイミー・パーカー(ヴェルナー・フォン・ヘフテン中尉),クリスチャン・ベルケル(メルツ・フォン・クヴィルンハイム大佐).
第2次大戦下のアフリカ戦線,英空軍の空襲で右手切断・左の2指を失い,左眼摘出の重傷を負ったシュタウフェンベルク大佐は本国に送還され,参謀部に勤める.Valkyrie01
反ナチの大佐は,ヒトラー暗殺計画の同志に参加,暗殺後の政権奪取を含めた立案を行う.それは国内で反乱が起こったときの鎮圧作戦「ワルキューレ作戦」を利用し,ヒトラーの死後直ちに,ワルキューレ作戦を発動してナチ勢力を一掃しようというものだった.
その卓越した指導力で同志をまとめ上げたシュタウフェンベルク大佐は,自らヒトラー暗殺の爆弾を運び込む役を引き受け,遂に司令部「狼の巣」での爆弾炸裂を実現する.
直ちに現場を離れた大佐は窮地を脱出,ベルリンに戻ってワルキューレ作戦を発動,予備軍は次々に軍事標的を占拠していくのだが….
歴史的事実に基づく暗殺計画の顛末を描く.
この映画の問題点は,ヒトラー暗殺は失敗したという歴史的事実を,殆どの観客は知っているということであろう.
それではこの映画がそれにも拘わらず描く価値があると思ったものは,何だろうか.
この点が判らないことが,この映画の致命的欠点と思われる.Valkyrie05
観客から見て,ヒトラーは明らかな悪玉としても,シュタウフェンベルク大佐等が正義の味方とまでは思えない.大佐自身は伯爵家の当主であるし,同志の面々は旧軍出身者や実業家で構成されている.
この人達はヒトラー暗殺後に自分が何らかの政府要職に就くことは考えているが,ヒトラーの死を確実にするために自分の命をかけようとは誰もしない.大佐自身爆薬を仕掛けながら,その場に踏みとどまってヒトラーにとどめを刺そうとはしなかった.
ヒトラーの死を大前提にした作戦を発動しながら,ヒトラーを確実に殺せないのでは,作戦の名にも値しないではないか?Valkyrie02
大戦末期のベルリンを描いた映像は重厚であるし,音楽も悪くない.豪華な脇役陣も(テレンス・スタンプが良い老人になっていますな!)見応えがある.
しかし映画の肝心な点が明快でないので,なんの感銘も受けない.
僕自身は,失敗に終わる作戦の後,家族を含め敗者がどういう仕打ちを受けるのかだけが気になって,全く楽しめなかった.
★★★(★5個が満点)
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2010/02/26

独断的映画感想文:ある公爵夫人の生涯

日記:2010年2月某日
映画「ある公爵夫人の生涯」を見る.1
2008年.監督:ソウル・ディブ.
出演:キーラ・ナイトレイ(デヴォンシャー公爵夫人(ジョージアナ)),レイフ・ファインズ(デヴォンシャー公爵),シャーロット・ランプリング(レディ・スペンサー),ドミニク・クーパー(チャールズ・グレイ),ヘイリー・アトウェル(レディ・エリザベス・フォスター),サイモン・マクバーニー(チャールズ・ジェームズ・フォックス).
ネタバレあります.
18世紀末のイギリス.スペンサー家の令嬢ジョージアナは,野心家の母親のセッティングで,当時権勢を誇っていたデヴォンシャー公爵と結婚する.
広大な領地といくつもの館,しかし公爵の目的はただ一つ,跡継ぎの男子の出生だった.妊娠以外には一切公爵から関心を払われないジョージアナ,才気煥発で聡明な彼女は,次第に政治と賭け事に関心を深めていく….
イギリスを舞台とするコスチューム・プレイとして,丁寧に作ってある良い映画である.
俳優はキーラ・ナイトレイとレイフ・ファインズ,シャーロット・ランプリング(この人は憎たらしい役だが)が素敵.
アメリカが独立しフランスに革命が起きようという時代を背景に,相変わらずの女性蔑視が描かれている様に見えるこの映画.しかしこの映画は,そう一筋縄ではいかない面がある.3
デヴォンシャー公爵はとにかく男子を得ることに必死,しかも愛人の産んだ私生児は跡継ぎにはなれないらしい.
公爵は,ジョージアナの唯一の友人で男子3人をもうけた豊満な美女エリザベスを手籠めに(古典的な言葉ですな)してジョージアナと深刻な対立となるが,それでもとにかくジョージアナが男子を産まなければならないという状況は,ジョージアナを縛ると同時に公爵をも縛っているのだ.
エリザベスの連れ子である3人の男の子に注ぐ公爵の愛情も描かれる.
僕はこの公爵にある種の共感を覚えないではいられない.
公爵が女性の人権を無視することに何のためらいも持たない人物だとしても,家門の継続という至上命題のもとではこうせざるを得ないという部分が大方を占めている様にも見える.ジョージアナが結局男子を得たのに公爵はエリザベスとの同居を止めず,ジョージアナも離婚せず,3人は奇妙な共同生活を送ることになる.ジョージアナも最終的には公爵とその公爵の愛人であり自分の友人でもあるエリザベスとの関係を,受け容れたと思える.
この映画は見る観客の年齢や性別,社会や人間の成熟といったことに対する考え方によって,様々な感想をもたらすに違いない.2
若い女性の観客には,到底公爵を認めることはできないであろう.しかし答えは幾つもある様に感じられる,そういう点で興味深い映画.
ただし題名は原題通り「公爵夫人」で良いのでは?
★★★★(★5個で満点)
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2010/02/13

独断的映画感想文:This Is It

日記:2010年2月某日
映画「This Is It」を見る.This_is_it02
2009年.監督:ケニー・オルテガ.
出演:マイケル・ジャクソン.
50歳で急逝した「King of Pop」マイケル・ジャクソンのラストツアーのためのリハーサルドキュメント.
全世界からマイケルのラストツアーのためにオーディションに参加し,スタッフの一員となって感動のコメントを語るダンサー達,ミュージッシャン達.
そのシーンから始まり,映画は数々のヒットナンバーをこのツアーのために再構成していく行程を追っていく.
最高のエンターテイナーであるマイケルが,そのツアーを最高のものにしようとする努力の積み重ねは,映画を見る観客に強い印象を与えるだろう.
その高音からシャウトまでの美しい声はどうだ.自在にステップを踏みステージを疾走する脚の動き,繊細で力強いと同時に柔らかな手の表現力.絶妙なタイミングを逃さないリズム感と研ぎ澄まされた運動神経.
誰もがマイケルに心酔し心から信頼しているのは,当然と言えよう.
スタッフの協力で積み上げられていくステージの,最後の息吹をそこに与えるマイケルの空前のパフォーマンス,しかしそれはあくまでもリハーサルに過ぎない.This_is_it01
この全ての努力が,あと僅かで本番の舞台を迎えるところだったのに.
マイケルの残したメッセージたるこの映画は,観客に希望と勇気を与えると同時に,限りない喪失感をも与えることになるだろう.
他の全てのエンターテイナーにとってと同様,「King of Pop」にとってもメディアの流すスキャンダルやゴシップは,舞台の上でのエンターテインメントには何の関係もないことだ.
映画俳優は映画の画面の中でのみ評価されれば良いし,「King of Pop」はPopシーン上でのみ評価されればそれで良い.顔が白くなろうが整形を繰り返そうが,豪邸にディズニーランドをこさえようが,そんなことはどうでも良いのだ.
この映画に記録されたパフォーマンスに,感動しないではいられない.
ジャクソン5時代の名曲「アイル ビー ゼア」も懐かしい.僕にとってはマイルス・デイビスの曲でもある「ヒューマン・ネイチャー」,そして「スリラー」「ビリー・ジーン」が心に残る.
マイケルはもういないのだ.This_is_it03
その思いに,映画が終わった後しばし呆然とする.
実現しなかった最後のツアー.ツアーのスタッフ達は,今どこで何をしているだろうか.
★★★★(★5個が満点)
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2010/02/07

独断的映画感想文:ドゥームズデイ

日記:2010年2月某日
映画「ドゥームズデイ」を見る.09
2008年.監督:ニール・マーシャル.
出演:ローナ・ミトラ(エデン・シンクレア),マルコム・マクダウェル(ケイン博士),ボブ・ホスキンス(ビル・ネルソン),アレクサンダー・シディグ(ハッチャー首相),エイドリアン・レスター(ノートン軍曹),デヴィッド・オハラ(マイケル・カナリス).
「アンダーワールド・ビギンズ」の主演,ローナ・ミトラがスーパーヒロインを演じるアクション映画.
2008年,スコットランドのグラスゴーで新種のウィルスが発生,イギリス政府はスコットランドを高い塀で封鎖しウィルスの拡大を阻止した.
27年後の2035年,ウィルスは突如ロンドンの貧民区で発生,一方人類は絶滅したと思われた塀の中で,人類の活動が衛星から観測される.
政府は塀の中で治療薬が開発された可能性があるとして,グラスゴー在住のウィルス学者,ケイン博士の研究所跡に向け,装甲車に乗せた兵士と学者を派遣する.10
そのリーダーは幼児の時に単身グラスゴーから脱出してきた,エデン・シンクレアだった….
まあ設定も大胆なら筋書きもかなり突っ込まれ放題と見える筋書きである.
塀の中は無政府状態,生き残った人々はあるグループは「マッドマックス」そのままの暴力集団を形成,あるグループは中世そのままの自給自足経済を展開するが,いずれも追い詰められ,殺し合いや人肉食いが横行する.
そこに進入した装甲車は「マッドマックス」グループに襲われ炎上,生き残った隊員は暴徒に追われて装備の大半を失って塀の中をさまよう羽目になる.11
しかしこの映画,なかなか面白いのです.
ローナ・ミトラのクールで逞しいスーパーヒロインぶりが魅力的だし,テンポ良く進行する物語の展開に息つく暇もなく最後まで持って行かれる.
最終シーンでの,彼女の意外な生き方の選択も,納得のいくものだった.その点で後味も宜しい.
まあ,マッドマックスそのままぱくりと言えばその通りだが,中世派グループから脱出してマッドマックスグループに行き会うあたりの不思議な感覚も,それなりに面白い.12
見て損は無し.ただし女性やカップルでという映画ではない(スプラッターな面もあるし).
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:禅

日記:2010年1月某日
映画「」を見る.1_2
2008年.監督:高橋伴明.
出演:中村勘太郎(道元),内田有紀(おりん),藤原竜也(北条時頼(友情出演)),テイ龍進(寂円・源公暁),高良健吾(俊了),安居剣一郎(義介),村上淳(懐奘),勝村政信(波多野義重),鄭天庸(如浄),西村雅彦(浙翁),菅田俊 (公仁),哀川翔(松蔵),笹野高史(老僧),高橋惠子(伊子).
曹洞宗の開祖,道元の一生を描く宗教学者・大谷哲夫原作の映画化.
まあ原作があって監督が高橋伴明だから,あまり無茶なカドカワ映画ではない.
死後の極楽往生ではなく,現世で救われることはできないかとの問題意識を持った道元が宋に留学し,幾人もの僧を訪ねた挙げ句,ようやく求める指導者・如浄禅師に出会う.
ここで悟りを開き帰国,様々な既成仏教界の弾圧を受けながら,次第に賛同者を得て遂に越前永平寺に修行の場を開く,その活動に沿って物語は進行する.
淡々とした物語だが,道元の「全ての人に仏は内在する.その仏と出会うためにひたすら座禅せよ」との教えは印象に残る.
山場は,時の執権北条時頼の妄疾を癒やすため,命がけで教え諭すシーンであろう.俳優は全体として好演,中村勘太郎は適役と言える.
道元の一生を描くためには尺がやや足りず,如浄禅師に会ってから3分後にはもう悟りを開いていたり,波多野義重が何故道元を所領の越前に招いて寺を寄進したかの事情も明かされないなど,いささか説明不足のところ有り.
また,本物の永平寺を使ったシーンに比べ,宋を旅するシーンのロケ映像や,時頼の妄想シーンのCGが思いっきり安っぽいところも頂けない.
しかし全体としては見て損は無し.
★★★☆(★5個が満点)
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