独断的映画感想文:空気人形
日記:2010年7月某日
映画「空気人形」を見る.
2009年.監督:是枝裕和.
出演:ペ・ドゥナ(空気人形),ARATA(レンタルビデオ屋の従業員・純一),板尾創路(空気人形の持ち主、ファミレス従業員・秀雄),高橋昌也(元高校国語教師・敬一),余貴美子(受付嬢),岩松了(レンタルビデオ屋の店長・鮫洲),星野真里(OL・美希),丸山智己(萌の父親・真治),奈良木未羽(小学生・萌),柄本佑(浪人中の受験生・透),寺島進(交番のおまわりさん・轟),オダギリジョー(人形師),富司純子(未亡人).
うだつの上がらない中年ファミレス従業員の秀雄.
自分の部屋に帰るとテーブルの向かいに座らせた空気人形(ダッチワイフ)相手に愚痴をこぼしながら飯を食う.夜は彼女を抱き共に眠る.毎日毎晩,秀雄の相手をする空気人形.
ところが空気人形にある日心が宿る.
ベッドから起き上がり,覚束ない足取りで窓辺による空気人形.窓を開け,軒の雨をビニールの手で受けると,その体に命がしみこんでいく.
やがて彼女はお仕着せのメード服を着て,秀雄の留守中に外出する様になる.
あるビデオ店でバイトをすることになった空気人形,イノセントな子供同然の彼女は見るもの聞くものが新鮮,メイクアップを覚えて体のビニールの継ぎ目を懸命に消そうとしたり,新しい服を買ったり.
やがて彼女は,バイト仲間の純一に好意を持つ様になる….
おとぎ話,ファンタジーというにはちょっと哀しい現代の寓話.
ペ・ドゥナの演技が素晴らしい.
空気人形はイノセントな心で,周りの人間の偏った心,空っぽな心を鏡の様に映し出す.それに相応しい硬質で透明感のある空気人形の体と動きを,ペ・ドゥナが見事に演じている.
冒頭の,軒の雨を受けるペ・ドゥナの裸身の美しさには,息を呑む.
他の役者達も素敵だ.
うだつの上がらない中年を演じて,板尾創路ほどぴったりはまる役者も少ないだろう.老醜を顔に刻み込んだ冨司純子の演技にはぎょっとする.オダギリ・ジョーが登場すると,急に画面は表情豊かになった様だ.
この映画を見ると,つくづく人間が生きることの難しさを感じさせられる.
是枝監督は,穏やかなメルヘンに見えるこの映画の所々で,人間の冷え冷えとした暗い淵を覗かせる様なシーンを交えるが,それは「誰も知らない」で感じたものと共通なものかも知れない.
ただの寓話ではない,心に残る映画,一見の価値有り.
★★★★(★5個が満点)
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