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2010年12月に作成された記事

2010/12/30

独断的映画感想文:赤い文化住宅の初子

日記:2010年12月某日
映画「赤い文化住宅の初子」を見る.2
2007年.監督:タナダユキ.
出演:東亜優(初子),塩谷瞬(克人),佐野和真(三島),坂井真紀(田尻),桐谷美玲(山口),鈴木慶一(ラーメン屋店主),鈴木砂羽(爽子(初子の母)),諏訪太朗(藤井),江口のりこ(美咲),安藤玉恵,本多章一,伊藤幸純,佐倉萌,浅田美代子(栄子),大杉漣(初子の父).
タカダワタル的」の監督による,貧乏純愛物語.
初子は高校中退で働く兄と共に文化住宅に住む中学生.
父は借金を残して蒸発し,母は苦労して借金を返し続けて病死した.
初子は進学校である東高を目指し,親友の秀才三島君に勉強を教わっているが,兄は彼女が中卒で働くことを望んでいる.1
生活は食べることすらままならない貧しさ,担任の教師田尻は遊び好きなイケイケ女で相談には乗ってくれない.参考書も買えず次第に追い詰められる初子.
兄が職場でいざこざを起こしクビになってしまい,彼女もバイト先をクビになる.東高へは行けない,就職すると三島君に打ち明ける初子だったが,三島君は彼女の貧しさがぴんと来ないで怒ってしまう….
少女初子の極貧の生活を淡々と描く映画,起伏の少ない展開だが彼女のあり方を説得力を持って浮き彫りにする.
鈍くさいと兄からもバイト先の主人からも言われ,無表情で動きの少ない彼女だが,意志の強そうな目をしていてしっかり生きていることが伺える.3
それでも兄が失職し自分の就職先もなかなか見つからない状況で,食事にも事欠くようになったとき,風俗に行くしかないのではないかという心配が彼女に迫ってくる.そういう切実さは観客にひしひしと伝わってくるだろう.
父親の最後の愚行で何もかも失った兄妹は,故郷を離れることになる.
その別れのホームで描かれるちょっぴりだけの希望.通常の貧乏映画とは,少し変わった視点でのファンタジックな希望と言えるかも知れない.
「赤毛のアン」を愛読する初子らしいエンディング.
★★★☆(★5戸が満点)
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2010/12/19

独断的映画感想文:ノルウェイの森

日記:2010年12月某日
映画「ノルウェイの森」を見る.5
2010年.監督:トラン・アン・ユン.音楽:ジョニー・グリーンウッド.
出演:松山ケンイチ(ワタナベ),菊地凛子(直子),水原希子(緑),高良健吾(キズキ),霧島れいか(レイコ),初音映莉子(ハツミ),柄本時生(突撃隊),糸井重里(大学教授),細野晴臣(レコード店店長),高橋幸宏(阿美寮門番),玉山鉄二(永沢).
一部ネタバレがあります.
村上春樹のベストセラー小説の映画化.
原作は1年ほど前に読んだ.映画を原作と比べて議論するblogが多いが,ここではそれは(なるべく)しないつもりである.
原作と映画は別だ.映画は時間の制約もあって,小説よりかなり単純化した一つの解釈を披露せざるを得ないのは,やむを得ないことと思う.6
キズキと直子,渡辺は親友として高校生活を過ごした.キズキの突然の自殺によってその関係は終わり,渡辺は一人,1969年の騒然とした東京の大学に進学する.
ある日偶然直子と再会した渡辺は,改めて直子に惹かれ,頻繁に会うようになる.
直子の20歳の誕生日に,彼女と渡辺は結ばれるが,その後直子は忽然と姿を消す.
直子は京都の郊外の療養所に入院していたのだった.
渡辺は明るく元気な緑と交際するようになるが,直子との面会の許可が下りると,京都に飛んでいき,彼女の同室患者レイ子さんとの奇妙な3人の共同生活を過ごすのだった….
昭和40年代を時代背景として,青春の愛と喪失・再生の日々を描く.
映画全体は緊張感が維持され,133分の長さを感じさせない.
何と言っても映像が美しい.風に波打つ草原を歩きながら直子が心の内を激しくぶちまける長回しのシーンは,直子の興奮の高まりと同期して観客の感情をも高めるだろう.1
ジョニー・グリーンウッドの音楽(「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」で素晴らしい仕事をした)が,全編に亘り良い.
風や雨の使い方も(いささか演出過剰かも知れないが) 効果的.俳優は菊地凜子が熱演,松山ケンイチが好演,水原希子は爽やかに健闘.レイ子さん役の霧島れいかは若干イメージが違ったし,直子を喪った後のレイ子さんとの一夜については,いささか違和感があった.
渡辺とレイ子さんにとって,それは直子を喪ったもの同士として,直子との決別と自らの再生を確認する静かな祝祭の一夜だったのではないかと思う.そうでなくても,この一夜に関する説明がもう少しあって然るべきだった.
しかし映画全体としては,青春時代の喪失がもたらす傷の深さを描いて,見応えがあった.見て損はなし.
★★★★(★5個が満点)
蛇足その1:渡辺のバイト先のレコード店の壁に貼ってあった,この時代のスーパーバンドCream(E.クラプトンがギター・ヴォーカル)の解散ライブレコードのジャケットが懐かしい.
蛇足その2:レイ子さんと直子が共作して渡辺に送った毛糸ののマフラーは,この時代のガールフレンドからのプレゼントの定番.これも懐かしい.
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2010/12/09

独断的映画感想文:レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い

日記:2010年12月某日
映画「レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い」を見る.3
1994年.監督:エドワード・ズウィック.
出演:ブラッド・ピット(トリスタン),アンソニー・ホプキンス(ウィリアム・ラドロー),エイダン・クイン(アルフレッド),ジュリア・オーモンド(スザンナ),ヘンリー・トーマス,カリーナ・ロンバード,ゴードン・トゥートゥーシス,クリスティナ・ピックルズ,ポール・デスモンド,タントゥー・カーディナル,セクワン・オウガー.
20世紀初頭のモンタナを舞台にした家族の,一大叙事詩.
騎兵隊大佐のウィリアム・ラドローは,政府のネイティブ・アメリカン政策に嫌気がさし,退役して配下のネイティブ・アメリカン,スタッブと共にモンタナの山奥に牧場を開く.
3人の子をもうけるが妻はモンタナの冬を嫌って別居した.
次男のトリスタンはスタッブになつき,ネイティブ・アメリカンの暮らしを身につけ成長する.
兄二人は末弟のサミュエルを溺愛したが,成長したサミュエルは大学でスザンナと出会い,婚約して実家に共に帰る.ところが折しも勃発した大戦に,サミュエルは強硬に志願を主張,これに引きずられるように長兄アルフレッドもトリスタンも共に出征し,スザンナは大佐と共にモンタナに残った.1
前線で偵察を志願したサミュエルは敵中に孤立,救援に駆けつけたトリスタンの目前で戦死する.
負傷したアルフレッドは帰還したが,トリスタンは退役後も長く放浪し,遅れて戻った.サミュエルの墓前で弟を思って泣くトリスタンと慰めるスザンナ,その夜二人は結ばれる….
スザンナを巡るアルフレッドとトリスタンの確執,ネイティブ・アメリカンへの差別,街を牛耳るギャングとラドロー家の争闘の織りなす複雑な物語が,モンタナの美しい自然のもとタペストリのように繰り広げられる.
それにしてもブラッド・ピット演じる自然児トリスタンの魅力的なことといったらどうだろう.
トリスタンの荒ぶる魂は周囲の人々の運命を容赦なく変え,愛憎の渦を巻き起こす.それなのにその人々の誰もがトリスタンに惜しみない愛を捧げるのだ.31歳と若いブラッド・ピットの魅力が素晴らしい.
俳優はキャスティングも良く皆好演.
とにかく大画面に広がるモンタナの山々,広い空,広大な草原は圧倒的な迫力,巨匠ジェームズ・ホーナーの音楽も素晴らしい.2
とかく3人兄弟というのは難しいものである.そして次男が3人のうちの台風の目であることも.その次男である僕が言うのだから間違いはない.
素晴らしい映画,必見の価値有り.
★★★★☆(★5個が満点)
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2010/12/04

独断的映画感想文:ゴールデンスランバー

日記:2010年11月某日
映画「ゴールデン・スランバー」を見る.4
2009年.監督:中村義洋.
出演:堺雅人(青柳雅春),竹内結子(樋口晴子),吉岡秀隆(森田森吾), 劇団ひとり(小野一夫),柄本明(保土ヶ谷康志),濱田岳(黒いパーカーの男 キルオ),渋川清彦(岩崎英二郎),ベンガル(轟静夫),大森南朋(樋口伸幸),貫地谷しほり(凛香),相武紗季(井ノ原小梅),永島敏行(小鳩沢),石丸謙二郎,ソニン,鶴田亜美,でんでん,滝藤賢一,木下隆行,木内みどり,青柳照代,竜雷太,伊東四朗,青柳一平,香川照之,佐々木一太郎.
初夏の仙台の街.友人森田と釣りの約束で待ち合わせた青柳は,信号の向こうに森田を認め手を振る.
森田の後をついてその車に乗り込むと,森田は青柳にミネラルウォーターを渡す.それを飲んだ青柳はそのまま寝入ってしまった.3
目が覚めると森田は驚くべき告白をする.森田は脅迫を受けて青柳を罠にかけた,もうすぐ通る首相のパレードが襲われ,青柳はその犯人にでっち上げられるのだと.
逃げろという森田の言葉に青柳が車から出ると,パレードの通りから爆発音が轟き,警官が青柳に向かって迫ってくる.逃げる青柳の背後で森田の車が火を噴く….
青柳のかっての恋人樋口晴子は,そのニュースに驚きサークル仲間と連絡を取り合うが….
伊坂幸太郎のベストセラーの映画化.原作は未読.
首相を暗殺した上青柳を罠にかけ,圧倒的な組織力で追う警察と,青柳の数少ない仲間が渡り合う闘争の顛末を描く.
いろいろな伏線が次々と生きてくる展開や,子役の活躍,学生時代のエピソードの紹介も過不足なく,青春映画としても見易いものになっている.2
一方で,青柳の命を救うキーパースンとなるキルオの登場は違和感がある.これから先はネタバレであるが,キルオは連続通り魔殺人の犯人である.その男がたまたま青柳の延命に手を貸したということで,えらく叙情的に描かれるのは納得が出来ない.
もっとおかしいのは,警察をも巻き込んだ首相暗殺という大事件が,この映画にとってはほんの背景に過ぎないという扱いで,ま,エンターテインメントってそういうもんだと言われればそれまでなんすけど.
映画としては最後まで面白い.
後から考えると上述の不足が出る憾みあり.
俳優では竹内結子,堺雅人が良い.柄本明は相変わらずの怪演,永島敏行が,どうしようもない殺人好きの刑事役を演じてそれらしく好演.
★★★☆
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