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2011年2月に作成された記事

2011/02/19

独断的映画感想文:ヒア アフター

日記:2011年2月某日
映画「ヒア アフター」を見る.2
2010年.監督・制作・音楽:クリント・イーストウッド.
出演:マット・デイモン(ジョージ),セシル・ドゥ・フランス(マリー・ルレ),フランキー・マクラレン(マーカス/ジェイソン),ジョージ・マクラレン(マーカス/ジェイソン),ジェイ・モーア(ビリー),ブライス・ダラス・ハワード(メラニー),マルト・ケラー(ルソー博士),ティエリー・ヌーヴィック(ディディエ).
パリで活躍するジャーナリスト,マリーは,バカンス先で津波に巻き込まれ,仮死状態となる.4_2
奇跡的に息を吹き返したマリーは,仮死状態の時に見た世界の映像に心を奪われ,仕事が手につかなくなる.
サンフランシスコに住むジョージは霊能者,死者の声を聞くことが出来る.一時はTV出演もして本も出し,サイトを開いてもいたが,自分の人生を生きようと霊能活動を退き,今は工場労働者として働いている.
料理教室で出会った女性メラニーに好意を持つが,彼が霊能者であることを知ったメラニーに執拗に迫られ,彼女の過去を図らずも知ってしまう.
ロンドンに住む一卵性双生児のマーカスとジェイスンは,母と3人で暮らしている.二人は強い絆で結ばれていたが,外向的で弟マーカスを引っ張っていたジェイスンが,不慮の交通事故で急死.薬物治療で入院する母と別れ里親と暮らすことになったマーカスは,ジェイスンとの再会を切望する.
この3人の運命的な巡り会いを描く映画.映画の達人イーストウッドの,死後の世界を巡る物語.7_2
しかしこの映画はオカルトでもスピリチュアルでもなく,淡々と人生のつづれ織りと希望を描く映画だ.
冒頭の津波のシーンは凄まじい迫力,CGが嘘っぽくなくカタストロフの恐ろしさが胸に迫る.
映画全体はイーストウッド特有の蒼い色調で淡々と進むが,映画にスキが無く緊張感が維持されて,長さを意識することはない.
3人それぞれにその人生の困難に直面するが,終局の邂逅がそれぞれの運命を希望に向けて静かに展開していく.1
映画全体を包む音楽も,ラフマニノフのコンチェルトを基調とした落ち着いた心地よいもの.イーストウッド監督の映画の充実感を堪能できる一作.
個人的には中盤の,ジョージが気分を変えようと出かけるイタリア料理教室のエピソードが,好きである.それまでの沈痛な雰囲気を変え,明るい色彩と陽気なシェフ,イタリアオペラの音楽をバックにユーモアを交えて進む料理教室が,ジョージとメラニーの出会いの場に相応しい.
こういうエピソードのはさみ方は,やはり熟練の技という感じがする.6
見て損はない映画.★★★★(★5個が満点)
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2011/02/15

独断的映画感想文:わが心の歌舞伎座

日記:2011年2月某日
映画「わが心の歌舞伎座」を見る.1
2010年.監督:十河壯吉.音楽:土井淳.
出演:市川團十郎,尾上菊五郎,片岡仁左衛門,坂田藤十郎,中村勘三郎,中村吉右衛門,中村芝翫,中村富十郎,中村梅玉,坂東玉三郎,松本幸四郎,市川猿之助(舞台映像),中村雀右衛門(舞台映像).
歌舞伎座さよなら公演1年の記録を中心に,楽屋や舞台裏の状況,裏方さんの紹介はじめ,歌舞伎を育んできた歌舞伎座という劇場を様々な面から描いたドキュメント.
画面にまず登場するのは,中村芝翫.藤娘等の名場面を見せる.
続いて中村吉右衛門が熊谷陣屋等を演じる.
ベテランの名演が,僅かなシーンの中でこちらの胸を熱くさせるのは驚くべきことだ.吉右衛門が花道で,「16年は一昔」と嗚咽と共にふり絞るように語ると,反射的に涙が出る.
続いて團十郎,玉三郎,富十郎,勘三郎がそれぞれインタビューを交えて得意の場面を演じ,その合間に裏方さんの活躍が描かれて,前半の終了.
ここで休憩が入る.2
後半は幸四郎,梅玉,仁左衛門,藤十郎,菊五郎がまたインタビューと名場面を重ねるほか,猿之助,雀右衛門や歌右衛門,延若,初代吉右衛門,5代目・6代目菊五郎等が映像で紹介される.
現代を代表する歌舞伎役者達のそれぞれの魅力が,最も得意とする芝居の名シーンで語られることの心地よさが何とも言えない.
という訳で長尺167分の映画だが,全ての俳優が如何に歌舞伎座を愛してきたか,また歌舞伎座という劇場がそのスタッフも含め,如何に俳優を育ててきたかが,その映像から良く判るのが良い.土井淳の音楽も素晴らしい.
長年馴染んできた歌舞伎座という劇場自身の魅力も改めて印象づけられ,感慨深いものがあった.そういえば,遂に歌舞伎座の1階席には行かず仕舞いだったっけ.
一見の価値ある映画.★★★★(★5個が満点)
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2011/02/13

独断的映画感想文:告白

日記:2011年2月某日
映画「告白」を見る.1_2
2010年.監督:中島哲也.
出演:松たか子(森口悠子),木村佳乃(下村優子(直樹の母)),岡田将生(寺田良輝(ウェルテル)),西井幸人(渡辺修哉),藤原薫(下村直樹),橋本愛(北原美月).
湊かなえのベストセラー小説の映画化.
冒頭,騒がしく収拾のつかない中学1年生のクラス,その中で担任教師森口悠子の話が始まる.3_2
数ヶ月前プールに浮かんで死んだ彼女の娘愛美は,警察の言う事故死ではなく,このクラスの生徒2名による殺人であると.その復讐として,今日二人が飲んだ牛乳パックにAIDS患者である愛美の父親の血液を注入したと.
この告白で始まる,クラスの生徒達の動きと悠子の復讐劇の物語.
この映画の特徴は,森口悠子の告白に始まる復讐とそれを巡る中学生のクラスを,その陰惨ないじめ・引き籠もり・道徳的退廃の状況を,高い緊張度を保った沈痛な蒼い色調の画面で描き続けたことにあるだろう.
この陰惨で救いようのない中学生の状況を描くのに,映画が毅然とした筋目正しい描き方を持って対していることには好感が持てる.4
その点では,岩井俊二監督の「リリイ・シュシュのすべて」を思い起こさせる.
この悲惨な状況に対し,それでも希望があり得るのだということを映画は指し示して終了するが,それを成り立たせるのは,映画の最後数秒間の松たか子の演技だ.
能面のような表情で淡々と告白を続けてきた彼女の表情が,この数秒間に激しく動く.歌舞伎役者の直系の家に生まれ,様々な演劇的修羅場をくぐってきた彼女の実力を,この演技で改めて印象づけられた思いである.2_2
見るべきであり見る価値のある映画.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:魔法使いの弟子

日記:2011年2月某日
映画「魔法使いの弟子」を見る.3
2010年.アメリカ.監督:ジョン・タートルトーブ.
出演:ニコラス・ケイジ(バルサザール・ブレイク),ジェイ・バルシェル(デイヴ・スタットラー),アルフレッド・モリナ(マクシム・ホルヴァート),テリーサ・パーマー(ベッキー・バーンズ),モニカ・ベルッチ(モルガナ・ル・フェイ/ヴェロニカ).
1000年の昔,善の魔法使いマーリンを殺した魔女モルガナは,悪の魔法使いマクシム,善の魔女ヴェロニカと共に瓶に封じ込まれる.
一人残ったマーリンの弟子バルサザールは,マーリンの後継者の出現を待って一人不老不死の生涯を送ってきた.2
ある日遂にマーリンの後継者となるデイブを発見するが,デイブは物理オタクで恋人ベッキーに夢中の平凡な青年だった….
現代における魔法使い同士の決戦を描くディズニー映画.ポイントは昔のアニメ「ファンタジア」に出てくるデュカスの名曲「魔法使いの弟子」のモチーフが映画の中で現れるということと,魔法の決戦に現代の物理オタクが参戦するということだろうか.
逆に言うとその他には特に映画の魅力はありません.
如何にもディズニー,如何にもアメリカの通俗的な映画としか言いようがない.1
主人公には容姿風貌性格等含め,魅力が余りに乏しい.これでよくヒロインが好きになってくれたものである.
一番魅力的だった敵役を演じたアルフレッド・モリナが,余りにあっさりと主人公にやられてしまって,これも不満の種.
CGや特殊効果含め見るべきものは見あたらない.暇とお金が有り余っている人向け.
★☆(★5個が満点)
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2011/02/08

独断的映画感想文:月に囚われた男

日記:2011年2月某日
映画「月に囚われた男」を見る.5
2009年.イギリス.監督:ダンカン・ジョーンズ.
音楽:クリント・マンセル.
出演:サム・ロックウェル(サム・ベル),ドミニク・マケリゴット(テス・ベル),カヤ・スコデラーリオ(イヴ),声の出演:ケヴィン・スペイシー(ガーティ).
エネルギー枯渇に直面した人類は,月の裏側に新エネルギーHe3を発見,この鉱石を採掘して地球に送るルナ産業株式会社は,システムを管理する駐在員を月面基地に送ることになった.
会社と契約したサム・ベルは,たった一人で3年間,人工知能ロボットのがーティを相手に基地で業務に従事する.
月の裏側にある基地の通信アンテナは故障し,地球とはライブの通信を取ることが出来ない.サムは時折木星経由で送られてくる,妻と娘のビデオレターを見ては寂しさを紛らわせた.
その勤務があと2週間で終わるという頃,サムは採掘マシンとの作業中幻覚を見て,マシンに月面車両を激突させ意識を失う.気がつくと基地内のベッドでガーティの手当を受けていた.4
やがて歩けるようになったサムは,ある夜不思議な夢を見た.目覚めたサムはガーティの止めるのも聞かず,月面車両で事故現場に向かう.
事故現場にそのまま放置してある月面車両の中には,宇宙服を着たサム自身が横たわっていた….
オーソドックスにして明快なSFミステリ.今やこういうSFは古典的と言われるのかも知れない.
しかしながら,あらゆる障害・困難と戦って地球への帰還を追及するサムの望郷の念は,観客の胸を打つ.
だが,明らかになった謎はあまりに苦く衝撃的だった.
月の表側まで出てきて,遠く地球を望みながら通信を試みるサムのシーンは,哀切きわまりない.
物語の中では,ガーティの存在が魅力的である.封印された謎にアクセスしようと試みるサムをじっと監視していたガーティが,何も言わずにマジックハンドを伸ばして,教えてはならないはずのパスワードを入力してくれるシーンは印象的.3
映画全体を彩るクリント・マンセルのリリカルなピアノも素晴らしい.
SFを堪能できる,映画らしい映画.但し邦題はネタばらしに近い.原題は「Moon」
★★★★(★5個が満点)
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2011/02/06

独断的映画感想文:パーフェクト・ゲッタウェイ

日記:2011年2某日
映画「パーフェクト・ゲッタウェイ」を見る.6
2009年.監督:デヴィッド・トゥーヒー.
出演:ミラ・ジョヴォヴィッチ(シドニー),ティモシー・オリファント(ニック),キエレ・サンチェス(ジーナ),スティーヴ・ザーン(クリフ),マーリー・シェルトン(クレオ),クリス・ヘムズワース(ケイル).
冒頭,楽しげにじゃれ合いながらハネムーンの目的地,ハワイはカウアイ島に向かうニックとシドニーのカップル.二人は往復に徒歩で2日かかるビーチを目指しトレッキングの行程にはいる.
途中ヒッチハイクを求めてきたクレオとケイルのカップルをそのうさんくさそうな態度からやり過ごし,ビーチへの行程ではニックとジーナのカップルと同行することになる.
ところがニュースによると,オアフ島で猟奇殺人を行った犯人がカウアイ島に潜入したらしい.犯人はカップルだというのだが….1
この作品は前半が,行き止まりのビーチに向かった3組のカップルの誰が殺人犯かというミステリー,後半がサバイバルアクション映画となる.
他のblogでも表示があるかとも思うが,この映画については,ネタばらし無しにその紹介をするのは至難の業である.
それはこの映画にはある種のルール違反があるからである.
単純に言うと,映画が観客に与える情報に嘘が含まれているのだ.という訳で観客はある時点からあっと驚くことになるのは間違いない.そのことを「怪しからん!」と思うか「やられた!」と思うかでこの映画の評価は大きく変わるだろう.
僕は当初「怪しからん!!!」と思っていたが,その後に展開されたスピード感あふれるアクションシーンに免じ「やられた」派に転じることとなった.4
映画はハッピーエンドで終わるが,それもねえ,どう言って良いかねえ.
俳優ではキエレ・サンチェスがサービス満点の大活躍.見て損はない映画.
★★★☆(★5個が満点)
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独断的著作感想文:パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い

日記:2011年2月某日
黒岩久子の著作「パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い」を読了.
日本の社会主義運動の先頭に立った堺利彦の,特に1910年から1919年までの「冬の時代」における売文社の戦いとその周辺の人々を描く.
堺は幸徳秋水,大杉栄等と同じ社会主義運動の最前線を歩みながら,幸運にも大逆事件や関東大震災での甘粕大尉による惨殺をくぐり抜け,労農派として東京市会議員への当選も果たす.
それは何と言っても堺の明るく楽天的な性格と,文筆家としての優れた才能が市民にも愛されていたためであろう.
文筆家としてはジャック・ロンドンの「野生の呼び声」をベストセラーとして持ち,漱石,荷風等とも親交があった.特に有島武郎とは生涯の友であった.幸徳秋水が購入し,堺が所持して有島武郎に贈呈した「資本論」が,その遺品として日本近代文学館にあるそうな.
また売文社という現代の編集プロダクションの草分けともいうべきビジネスを立派に成立させていたのも,堺独特の力ということが出来る.
これらの消息を描き同時にその当時の社会を描く筆者・黒岩久子の力に脱帽,この分厚いハードカバーを一気に読んだ.
後書きを書いた4ヶ月後の昨年11月に永眠しているのは,誠に残念である.
僕は高校生の時,友人に誘われて参加した新左翼系の集会で,文中出てくる荒畑寒村の演説を聴いている.
当時,米空母エンタープライズの佐世保寄港阻止闘争の高揚で,会場は満員,熱気に溢れていた.聴衆は会場に入りきれず,舞台の上にまで詰めかけた.
荒畑寒村の演説は,大意以下のようであった.
若い共産主義者の諸君は,小麦粉に仕込まれるイースト菌がパンを作るように,大衆の中に入っていき,革命を作るべきである.
但し,腐った小麦粉(当時の日本社会党・日本共産党のことである)にイースト菌を仕込んでもそれは絶対にパンにはならないから,諸君は宜しく腐った小麦粉を排除しなければならない.
その演説は,当時の僕の心に深く印象づけられた.感動した.アジテーションというものを60年やってきた寒村氏の面目躍如と言うべきであろう.
当時僕は高校生,寒村さんは78歳頃と思われる.
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