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2011年12月に作成された記事

2011/12/31

独断的映画感想文:蜂蜜

日記:2011年12月某日
映画「蜂蜜」を見る.2
2010年.監督:セミフ・カプランオール.
出演:ボラ・アルタシュ(ユスフ),エルダル・ベシクチオール(ヤクプ),トゥリン・オゼン(ゼーラ).
冒頭,深い森の中から現れる馬をつれた男.やがてとある木の側で立ち止まると,ロープを取り出し放り上げて枝にかける.
強さを試した後おもむろに木を登り始めるが,相当高く登ったところで枝が折れ,男は転落寸前になる.
トルコ映画「蜂蜜」は極めて個性的な映画である.
主な登場人物は6才くらいの少年ユスフと父ヤクプ,母ゼーラの三人.音楽は一切使われず説明的な描写も殆どない.3
トルコの山岳地帯の森の中の村に住むユスフ一家,ヤクプは蜂蜜をとって暮らしを立てているが,森から蜂が姿を消す事態が起こる.
別の場所に巣箱を仕掛けようと森に出かけたヤクプは,そのまま姿を消す.
ユスフは教室では吃音に悩む生徒,父ともささやき声で話す.ユスフは蜂蜜取りに連れて行ってくれ,自分の苦手なミルクを代わりに飲んでくれる父が大好きだ.
父の帰りを母と共に待つユスフだったが….
冒頭のシーンはユスフが見た夢らしい.映画を見ている間はそのことに気付かず,後に起こる事実の描写と思っていたがそうではなく,ユスフの見た予知夢ということになる.
この映画はユスフの立場,ユスフの視点から見た映画なのである.
6才の少年の両親への甘え,同級生への妬み,女生徒へのあこがれ,喜び,悲しみがそのまま描写される.大人の視点的な説明は不充分だが,観客は子供の心を率直に受け容れることが出来るだろう.1
自然の描写も限りなく美しい.トルコにもこういう日本的な山村があるのだと,新鮮な思いで見た.
長回しを多用した独特なテンポも印象的である.
最終局面,父が愛育していた鷹の飛翔を追って,暗くなっていく森を走るユスフの姿が心に残る.
一見の価値あり.
★★★☆(★5個が満点)
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2011/12/28

番外:独断的歌舞伎感想文:平成中村座 十二月大歌舞伎昼の部

日記:2011年12月某日
歌舞伎「平成中村座 十二月大歌舞伎昼の部」を見る.Nakamuraza201112b
演目は,「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」.
1.「車 引(くるまびき)」出演:梅王丸(勘太郎),桜丸(菊之助),杉王丸(虎之介),藤原時平(亀 蔵),松王丸(彌十郎).
2.「賀の祝(がのいわい)」出演:桜丸(菊之助),梅王丸(勘太郎),八重(七之助),千代(松 也),春(新 悟),松王丸(亀 蔵).白太夫(彌十郎).
3.「寺子屋(てらこや)」出演:松王丸(勘三郎),武部源蔵(菊之助),戸浪(七之助),園生の前(新 悟),春藤玄蕃(亀 蔵),千代(扇 雀).
この3幕を続けて見たのは初めてである.
この様に見ることによって,松王丸,桜丸,梅王丸の3兄弟がどのような関係であるかが判る.
すなわち,「車引き」では兄弟の「公的な」対決が描かれるが,それにも拘わらず「賀の祝」では殆どじゃれ合っている様な松王丸・梅王丸の兄弟げんかが描かれる.
しかしその「賀の祝」の後半は,思いがけない桜丸の覚悟の自害だ.
そして「寺子屋」の終盤では,公的には敵と思われた松王丸が,我が子小太郎をお役に立てたと言う一方で,桜丸の自害の憐れさを嘆くという結末となる.
この物語の悲劇性が改めて印象づけられるのである.
役者では「賀の祝」での彌十郞と菊の助がそれぞれに好演で印象深い.
亀蔵は出ずっぱりで様々な役を演じ,ひいきとしては大満足.久しぶりに見る勘三郎が元気そうで何よりである.
座った2階桜席は幕の内側で,役者の顔は殆ど横顔しか見えないが,黒子の動きや開幕前の支度などが丸見え,義太夫席も正面から見える.
なかなかに面白いが,太鼓の音が真下から腹に響くのには閉口した.
隅田川を飛ぶヘリコプターの音も結構気になる.
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独断的映画感想文:アンチクライスト

日記:2011年12月某日
映画「アンチクライスト」を見る.3
2009年.監督:ラース・フォン・トリアー.
出演:シャルロット・ゲンズブール(彼女),ウィレム・デフォー(彼).
映画の冒頭,激しいセックスシーンがモノクロのスロースピードで流れる.
ベビーベッドから抜け出し机によじ登る,彼等の幼い息子.机の上には「苦痛」「絶望」「悲嘆」と刻印された三体の人形.
やがて子供は窓から転落死する.
子を失ったショックに心を病んで入院する彼女.セラピストでもある夫は彼女を退院させ,かって彼女が論文を書こうと息子と滞在した,森の中の山荘に彼女を連れて行く.
理詰めの説得で彼女の治療に当たる彼,やがて彼女は快方に向かうかと思われたが….
「ダンサー・イン・ザ・ダーク」「ドッグヴィル」を監督したラース・フォン・トリアーの作品.4
寓話に満ちたストーリー,象徴的な映像が繰り広げる極めて映画的な映画である.
アンチクライストとは何か?この概念そのものが自分の様な日本人にとってはそもそも難解である.
彼らは治療のために森に赴くが,森そのものは「死」の世界として描かれている様だ.
山荘の屋根に落ちる夥しいドングリ,しかし樹として育つのは1000年に1本であり,その他のドングリはただ死んでいくのだと彼女は言う.
しかしその死の世界の方が,彼の語る正論の「生」の世界より遙かに豊穣に見えるのは何故だろう?
一方で彼女は,以前この山荘で論文に取り組んでいた時から既に精神に異常を来していたらしいことが描かれる.息子は彼女に虐待されていたらしいことを示唆する描写も.
ある夜突然に繰り広げられる惨劇は,思いもかけぬ結末に観客を投げ込む.
基本的に日本人たる自分の自然観・宗教観とは全く異質な世界の物語である.判らぬまま翻弄されたに等しい.
しかし俳優の迫力は並大抵ではない.1
「最後の誘惑」でキリストを演じたウィレム・デフォーが,またそれとは別のキリスト像を好演.シャーロット・ゲンズブールの体を張った熱演は,真の狂気を感じさせて極めて印象的.
見て楽しい映画ではないが,生と死,絶望と狂気,苦悩と悲哀を突きつけられ心に残る映画.
欧米人であれば,あるいはキリスト教徒であれば,もう少しこの寓意は読み取れただろうか?
★★★☆(★5個が満点)
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2011/12/23

番外:独断的歌舞伎感想文:七世松本幸四郎襲名百年 日生劇場 十二月歌舞伎公演 昼の部

日記:2011年12月某日
歌舞伎「七世松本幸四郎襲名百年 日生劇場 十二月歌舞伎公演 昼の部」を見る.Nissei201112b
演目は,「一、碁盤忠信(ごばんただのぶ)」
出演:佐藤忠信(染五郎),横川覚範(海老蔵),源義経(亀三郎),静御前(春 猿),塩梅よしのお勘実は呉羽の内侍(笑三郎),番場の忠太(猿 弥),小柴入道浄雲(錦 吾),忠信女房小車の霊(高麗蔵).
忠信が義経の名前と剣,鎧を拝領し,鎌倉方の追っ手を相手に大暴れという荒事の見本みたいな芝居.
100年ぶりの再演とあってか,今ひとつ筋立てや細々としたところが洗練されていない気がする.
しかし大詰めで染五郎・海老蔵が方や引っこ抜いた桜の大木,こなたいぼいぼ付の鉄棒で渡り合う大立ち回りになれば,観客大喜び.大味ながら楽しいお芝居.
「二、新古演劇十種の内 茨木(いばらき)」
出演:伯母真柴実は茨木童子(松 緑),渡辺源次綱(海老蔵),家臣宇源太(亀 寿),太刀持音若(梅 丸),士卒仙藤(亀三郎),士卒軍藤(市 蔵),士卒運藤(高麗蔵).
こちらは緊張感みなぎる古典劇.
羅生門で鬼人・茨木童子の左腕を切り落とした綱は,安倍晴明の指示により物忌み中,そこに育ての親たる叔母に扮し茨木童子が訪ねてくる,という物語.
静かなたたずまいの老女として登場する松緑の足運び,左手を見せない所作が素晴らしく,また茨木童子に変身してからのダイナミックな立ち回りが素敵.
小姓役の中村梅丸が美しく,見事な踊りを若々しく舞う.梅丸は15才.
丁度10年前に岡村研祐(現・尾上右近)が同じ「茨木」の小姓役で踊った姿も素晴らしかった.未だに印象に残るが,研祐は10才前後ではなかったかしら.
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独断的映画感想文:ザ・タウン

日記:2011年12月某日
映画「ザ・タウン」を見る.5
2010年.監督:ベン・アフレック.
出演:ベン・アフレック(ダグ),ジョン・ハム(フローリー),レベッカ・ホール(クレア),ブレイク・ライヴリー(クリスタ),ジェレミー・レナー(ジェム),タイタス・ウェリヴァー(ディノ),ピート・ポスルスウェイト(ファーギー),クリス・クーパー(ビッグ・マック),スレイン(グロンジー),オーウェン・バーク(デズモンド).
ボストンのチャールズタウンは全米一現金輸送車の強盗事件が多いと言われる.
ケンブリッジ銀行の支店が4人組に襲われ,女性支店長が人質となって拉致された.
犯行手口は水際だっており,解放された女性支店長がFBIに尋問されるが手がかりは皆無.ところが犯人側は女性の運転免許を見てびっくり,彼女は同じ街に住んでいたのだ.2
マスクをかぶっていたとは言え,いつ街で顔を合わせてもおかしくない状況.一味のリーダー格ダグは思い切って彼女クレアに接触するが,二人は次第に恋に落ちて行くのだった….
FBIの裏をかきながら犯行を重ねる一味,彼らは逃げ延びられるか,クレアとダグの恋の行方は?というクライムアクション.
ストーリーの展開とアクション・ロマンスのバランス,スピード感の組み合わせが絶妙である.
ダグは今は終身刑として刑務所にいる父から「家業」を引き継いだ犯罪者だが,アイスホッケーの選手としてドラフトに乗ったこともあり,それに挫折した過去を持つ.
頭脳明晰で合理的,人を殺したことはない.
そのダグがクレアと恋に落ち,足を洗おうとまで思い詰めるが,組織はそれを許さない.降りると言い出したダグに組織は牙をむくのだ.1
最終局面,組織とFBIに追い詰められクレアにも拒絶された状況からダグは如何に脱出するのか.
結末は後味も良く,一見の価値あり.
俳優はべン・アフレックがやはり魅力的,木村佳乃似のレベッカ・ホールもいい.
ダグの親友ジェムを演じたジェレミー・レナーが素晴らしい.
★★★☆(★5個が満点)
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2011/12/17

独断的映画感想文:SP 革命篇

日記:2011年12月某日
映画「SP 革命篇」を見る.5
2011年.監督:波多野貴文.
出演:岡田准一(井上薫),堤真一(尾形総一郎),香川照之(伊達國雄),真木よう子(笹本絵里),松尾諭(山本隆文),神尾佑(石田光男),春田純一(室伏茂),野間口徹(田中一郎),大出俊(伊勢崎武則),江上真悟(中尾義春),平田敦子(原川幸子),伊達暁(梶山光彦),古山憲太郎(木内教永),近江谷太朗(高島清),堀部圭亮(伊達の秘書),平岳大(滝川英治),波岡一喜(安斎誠)入山法子(青池由香莉).
要人警護に当たるSP警視庁警備部警護課第四係の井上以下の面々は,今日も各対象者の警護で国会に入る.2
同じ日,係長の尾形の指揮下,国会占拠を企図するテロリストグループは国会議事堂を制圧, 4係以外のSPもすべて寝返り,テロリスト達と志を同じくする若手官僚グループが酒宴を開きながら見守る中,衆議院議場に乗り込んだテロリストは議場を制圧し閣僚全員の不正をTV中継の面前で糾弾し始めた.
一人国会内に孤立したSP4係は,議事堂の奪回目指して活動を開始する.
尾形の真の意図は何か,テロリストグループの工作は成功するのか….
テンポ良く進む物語展開はなかなかのもの,最期まで一気に見た.
しかし個々の人物の描写は如何にも平板で,画面での俳優の熱演には引き込まれるが,この人達は実際はどういう人で,何がこういう事態を生じさせたか,という点は殆ど語られていない.その意味では,TVドラマをスクリーンにしてみましたという以上のものではない.3
官僚達の描写もあまりに類型的で,映画の制作元がフジTV系だから,逆に国民のガス抜きをして真の官僚の悪事から目をそらそうという政治的意図のある映画ではないかと邪推させる結果となる.
岡田准一のアクションはまずまずだが,映画の冒頭からの無前提なしかめっ面は意図が良く分からない.
映画全体も結局数時間の国会議事堂内の話に限定されているので,ふくらみがなく終わってみれば何も残らない,単純なアクション映画である.
TVドラマを見ずに映画を見た僕が悪かったのだろう.
でも★★(★5個が満点)しか上げられません.
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2011/12/11

独断的映画感想文:はなれ瞽女おりん

日記:2011年12月某日
映画「はなれ瞽女おりん」を見る.4
1977年.監督:篠田正浩.
出演:岩下志麻,原田芳雄,奈良岡朋子,神保共子,横山リエ,宮沢亜古,中村恵子,殿山泰司,桑山正一,樹木希林,西田敏行,安部徹,小林薫,原泉,不破万作,山谷初男,浜村純,加藤嘉.
若狭小浜で生まれた盲目のおりんは,6歳の時母親に捨てられ,薬売りの斉藤の世話で越後高田の瞽女屋敷に弟子入りする.
ここで厳しく歌と三味線を仕込まれたおりんは,美しく成長する.
瞽女は,盲目の女性が集団で門付けをしたり宴席に呼ばれたりして,歌と三味線の芸を披露する.厳しい掟の下に暮らし,男に体を許したものは追放される.1
おりんは美貌が災いし,瞽女宿に侵入した酔漢(西田敏行)に手込めにされ,瞽女屋敷を追われる結果となった.
はなれ瞽女となったおりんは以降,体をまかせることを条件にした男の手引で,一人瞽女の旅を続けるのだった.
ある日阿弥陀堂で出会った男鶴川(原田芳雄)は,おりんの手引となることを申し出ともに旅するが,何故かおりんの体を求めない….
街道を行き来する芸人達の世界が未だ辛うじて成立していた第1次大戦前後の日本海沿岸,それを舞台に展開するはなれ瞽女おりんの物語.
母を幼くして失い,育ての親である瞽女屋敷の親方にも追放されたおりんは,自分を暖めてくれる存在を必死に求めるが,男達は皆おりんの体だけが目当てだった.3
ところがこの男鶴川はおりんに心から優しくしてくれるが,自分とおりんは兄妹でいようと言うのだ.
それは何故か.二人の運命はどうなるのか.
北陸の四季を追う,美しいカメラ.この地方に色濃く残る阿弥陀信仰を背景に物語は進む.
一心に鶴川を思い慕うおりんの哀れさ,その運命が心を打つ.
物語の終焉を予告する中盤のショット(ポスター写真)の印象が強烈である.
俳優は,原田芳雄が素晴らしい.この時代の名脇役がこぞって参加しているのも嬉しい.新人で出ている小林薫の印象が鮮烈.2
樹木希林のはなれ瞽女は見事.
岩下志麻のおりんは,川で水浴していて原田芳雄から「阿弥陀様じゃ」と声をかけられるシーンが印象的.
骨太の原作を見事に映像化した傑作.★★★★(★5個が満点)
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2011/12/04

独断的映画感想文:八日目の蝉

日記:2011年11月某日
映画「八日目の蝉」を見る.8
2011年.監督:成島出.
出演:井上真央(秋山恵理菜=薫),永作博美(野々宮希和子),小池栄子(安藤千草),森口瑤子(秋山恵津子),田中哲司(秋山丈博),渡邉このみ(秋山恵理菜/薫(少女時代)),市川実和子(沢田久美(エステル)),余貴美子(エンゼル),平田満(沢田雄三),風吹ジュン(沢田昌江),劇団ひとり(岸田孝史),田中泯(タキ写真館・滝).
不倫の子を堕胎した希和子は二度と子供の産めない体になる.3_2
愛人には捨てられ,その妻に押しかけられ罵倒された希和子は,愛人の赤ん坊を誘拐し姿を消す.
4年後,希和子は逮捕され子供は親元に戻ったが,子供は実の母になつかぬことで虐待されて育った.
その子・恵理菜/薫が成長し親元から自立後,自分の被誘拐時代を思い返しつつ自分探しを続けるという物語.
前回の「海炭市叙景」に匹敵する長尺であるが,これも一気に見た.
物語は希和子の回想(といっても現代の希和子は行方不明で登場しない),恵理菜/薫の回想・現状をとりまぜて構成されているが,その処理が巧妙で混乱は生じない.6
それは物語の焦点が,現代の恵理菜/薫がどう人生を掴んでいくかに絞られているからではないか.
映画の魅力はまず子役渡邉このみの愛らしさにあろう.彼女と希和子の別れのシーンは涙を禁じ得ない.
今ひとつの魅力は井上真央にある.
数奇な運命と実母の虐待に負けず人生に立ち向かおうとする恵理菜/薫の面構えは,なかなかに見事である.期せずして育ての母と同じく妻子ある愛人を持った彼女がどのように人生を歩むのか,その彼女を見守る映画の視点は前向きである.7
見て損はなし.永作博美,田中泯の演技も見応えあり.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:海炭市叙景

日記:2011年11月某日
映画「海炭市叙景」を見る.1
2010年.監督:熊切和嘉.
出演:谷村美月(井川帆波),竹原ピストル(井川颯太),加瀬亮(目黒晴夫),三浦誠己(萩谷博),山中崇(工藤まこと),南果歩(比嘉春代),小林薫(比嘉隆三).
夭折した作家・佐藤泰志の短編集を,函館市民の協力で映画化した作品.
不況渦巻く海炭市で造船所をクビになった兄妹の迎える正月の朝.
再開発の進む郊外で,豚や羊を飼いながら一人踏ん張るトキばあさんの暮らし.
市営のプラネタリウムに勤める隆三と水商売を始めた妻との葛藤.2
市内でガス屋を営む晴夫の不倫を知ったその後妻が虐待する晴夫の連れ子.
廃止される路面電車の運転手の老父とその息子の邂逅.
短編集から選ばれた5つの物語が織りなす人生の哀歓が,穏やかな語り口で描かれる.
これらの物語の登場人物は微妙に重なり合っていて,時間を相前後して織り上げられた5つの物語が集約する最後のシーンには胸を突かれる.
等身大に描かれる海炭市の風景は,自分の街でもあったかも知れないというリアルさを感じさせ,描かれる人々の暮らしは,自分であったかも知れないという切実さを思わせる.3
長尺ながら程よい緊張感で最期まで見た.ジム・オルークの音楽も素敵.
★★★★(★5個が満点)
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