独断的映画感想文:ヒミズ
日記:2012年7月某日
映画「ヒミズ」を見る.
2011年.監督:園子温.出演:染谷将太(住田祐一),二階堂ふみ(茶沢景子),渡辺哲(夜野正造),諏訪太朗(まーくん),川屋せっちん(藤本健吉),吹越満(田村圭太),神楽坂恵(田村圭子),光石研(住田の父),渡辺真起子(住田の母),モト冬樹(てつ),黒沢あすか(茶沢の母),堀部圭亮(茶沢の父),でんでん(金子),村上淳(谷村),窪塚洋介(テル彦),吉高由里子(ミキ),西島隆弘(YOU),鈴木杏(ウエイトレス).
映画の冒頭,夏の驟雨の中,女子中学生が文庫本の詩集を朗読している(ヴィヨン詩集・雑詩・三「軽口のバラード」).
続いて3/11の津波で壊滅した市街地の描写.モーツァルトのレクイエムがバックに流れる.
住田祐一は母と共に貸しボート屋の小屋で暮らす中学生.将来になんの希望も持たず,中学卒業後はボート屋として平凡に生きていくことだけが望みだ.
父は不在だが時にこの小屋を訪れ,祐一を殴り倒して子供の頃に死ねば良かったんだ,と繰り返し言う.母はたびたび男を引き込んでいたが,やがて祐一を捨てて男の元に去った.
祐一を一途に慕う茶沢景子の家庭も壊れており,母は景子を忌み嫌い父はその妻を溺愛している.母は自室に景子を吊すための絞首台を製作している.
貸しボート屋の周辺には震災を逃れて来たホームレスが住み着いていて,彼等は祐一を好いているが,ある日父の作った借金を取り立てに来たマチ金が,祐一も彼等も袋だたきにして行く.
祐一はその夜訪れた父を遂に殺害し,死体を埋めた.祐一はせめて誰でも良い,悪党を一人殺して世の中のためになることをしようと,包丁を手に街を放浪する….
すべてを失いそれでも生きていく人々の中にあって,自分を肯定できない祐一と景子の死と再生を描く.
祐一が悪党を求めて彷徨う街は,何と荒んだ街だろう.
人の不幸を種に金を荒稼ぎしていく者達,つまらないことに切れて弱者を殺傷する者達,では祐一はそいつ等とどう違うのか(彼をたたきのめしたマチ金の社長の方がよほど上等な人物ではないか?).
その絶望する祐一と共にたたきのめされ,共に罪を犯し,共に雨の中を走る景子やホームレス達.
彼等の映像には涙を禁じ得ない.津波で破壊された街の映像と共に,心に残る映画.
俳優では染谷将太,二階堂ふみの熱演が素晴らしい.渡辺哲,光石研,でんでんも期待通りの味.
音楽的には,レクイエムとバーバーの「弦楽のためのアダージョ」の使用は悪くないが,いささか手垢のついた感じがする.
★★★★(★5個が満点)
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