独断的映画感想文:一命
日記:2012年7月某日
映画「一命」を見る.
2011年.監督:三池崇史.音楽:坂本龍一.
出演:市川海老蔵(津雲半四郎),瑛太(千々岩求女),満島ひかり(美穂),竹中直人(田尻),青木崇高(沢潟彦九郎),新井浩文(松崎隼人正),波岡一喜(川辺右馬助),天野義久(佐々木),大門伍朗(和尚),平岳大(井伊掃部頭直孝),笹野高史(宗祐),中村梅雀(千々岩甚内),役所広司(斎藤勘解由).
戦国の世がようやく治まった寛永11年(1634年).
井伊家に訪れた浪人津雲半四郎は,玄関先を借り受け自刃したいと申し出る.
大名家の庭先を借りて切腹を申し込む「狂言切腹」が横行している折から,家老・齋藤勘解由は,二月程前に同じ申し出をして竹光で切腹する羽目になった千々岩求女の一件を物語る.
津雲はその話に動ぜず,あくまで自刃したいと求めるので井伊家はその支度を調えるが,その切腹の場で津雲は意外な話を始めるのであった….
本作のリメーク元である「切腹」も以前見ている.
この映画で辛いのは,津雲半四郎が語る彼等一族の貧窮の物語であろう.
改易のために浪々の身となった千々岩・津雲の(両家は姻戚である)従兄弟同士の求女・美穂を一人で育てた半四郎.二人の思いを成就すべく,求女・美穂を夫婦とするが,これは結局貧困の再生産となる.美穂が労咳に倒れ一人息子まで流行病にかかって,求女は「狂言切腹」に走らざるを得ない.
学者の家であるのに,書籍はすべて売り払われ,刀まで質入れしてもう後がないその貧困.映画は容赦なくその状況を描写し,それを見続ける中盤はいかにも辛かった.
役者は瑛太,満島ひかりが好演,見応えのある演技を堪能できる.特に満島の死と直面しつつ生きようとする美穂の演技は,哀切である.
海老蔵は時代劇での存在感は流石である.しかし台詞が何を言っているのか聞き取れないのは,大いに不満.
津雲半四郎は本作では大刀をわざわざ竹光にして乗り込むが,「切腹」では,半四郎は竹光どころか,お家伝来の斬馬刀を振るって関ヶ原を知らない井伊家の郎党の死体の山を築く.津雲半四郎の造形は,観客としてはむしろこちらが納得がいく.
映画全体は,時代劇としての要件を良く満たし,見応えある画面に仕上がっている.
坂本龍一の音楽も良いが,映画としては音楽に頼らない構成が好ましい.
★★★☆(★5個が満点)
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