独断的映画感想文:ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
日記:2012年8月某日
映画「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」を見る.
2011年.監督:スティーヴン・ダルドリー.
出演:トム・ハンクス(トーマス・シェル),サンドラ・ブロック(リンダ・シェル),トーマス・ホーン(オスカー・シェル),マックス・フォン・シドー(賃借人),ヴァイオラ・デイヴィス(アビー・ブラック),ジョン・グッドマン(スタン),ジェフリー・ライト(ウィリアム・ブラック),ゾー・コードウェル(オスカーの祖母).
ちょっと変わった少年オスカーは,父親と大の仲良し.父と「調査研究」のゲームをするのが大好きだ.
今回は,ニューヨーク市にはかって第6区という幻の区があったが,その証拠を見つけようというもの.父はオスカーに「第6区」の様々なエピソードを語り,オスカーは夢をふくらませる.
そんなある日,街は朝から騒然とする.学校は早引けとなり,オスカーが帰宅すると留守電に父からの伝言が入っている.父は何とワールド・トレード・センター・ビルの106階に打合せのために来ていたのだ.
やがてビルは崩壊し父は帰らぬ人となった.
以来オスカーは深い絶望の中で暮らしている.公共交通機関には乗ることが出来ない.細い橋を渡ることが出来ない.ガスマスクを手放すことが出来ない.母親ともしっくりいかない.
ある日父のクローゼットを探していたオスカーは,誤って青い壺を割ってしまう.中から思いがけず封筒に入った鍵が出てきた.
封筒に記されたBlackの文字を頼りに,オスカーはニューヨーク中のBlack氏をしらみつぶしに訪ねて,父の残したメッセージの謎を解こうと決意する.
大好きな祖母の家にその頃間借りを始めた,口のきけない老人と仲良くなったオスカーは,その老人と共に調査を開始する….
アスペルガーの傾向がうかがえる主人公オスカーと母親の,深い喪失感と再生の物語.
この映画で感じられることは,9/11を巡りテロリストへの非難もなく復讐もなく,ただひたすら死者の鎮魂を願い残された者の再生を願うその姿勢である.
自宅に居るオスカーが,時に悲しみに耐えきれず叫び泣きわめく.映画は淡々とその状況を描写する.また街を歩くオスカーは9/11の遺族だと言うとハグされキスされる.オスカーも悲しみを抱えている人に「ハグしようか」と聞く.
この様な哀しみをたたえたアメリカ映画は久しぶりだ.ささやかなエピソードにぽろぽろと涙がこぼれる.
物語は意外な展開の後にオスカーと母親の,そして間借り人の老人の再生へと繋がるのだが,この3名の俳優がいずれもよろしい.
特に大好きなマックス・フォン・シドーは筆談でしかコミュニケートできないというややこしい役ながら,素晴らしい存在感.
実は僕は自身がアスペルガー傾向の濃い人間で,オスカーの気持ち,動き方には極めて親密感を持つ.僕は泣きわめくことはしない方だが,オスカーの様に泣きわめきたいという感情を抑えることが殆ど出来なかった.
この映画はその様に気持ちを揺り動かす映画である.一見の価値有り.
★★★★☆
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