ロング・グッドバイ レイモンド・チャンドラー
日記:2012年10月某日
レイモンド・チャンドラーの小説「ロング・グッドバイ」を読了.訳は村上春樹.
私立探偵フィリップ・マーロウは,ある男と知り合いになる.その男は未だ若いのに白髪で顔に傷跡があり,市を牛耳る大富豪の娘と結婚していた.
いつしか互いに惹かれ友人となった彼等は,時折り夕方に,バーでギムレットを飲みながらとりとめもない話をすることを繰り返す.ある夜,その男テリー・レノックスが拳銃を持ってマーロウの家を訪れた.異常を感じたマーロウは,レノックスの求めるまま車に彼を乗せ,メキシコまで送り届ける.
帰ってきたマーロウを警察が待ち構えていた.マーロウは逮捕され,荒っぽい取り調べを受ける.レノックスの妻が自宅で殺されていたのだった….
美しく特異な文体で有名な作家だが,「ロング・グッドバイ」はその最高峰とも言われている.主人公フィリップ・マーロウの一人称で描写されているが,そのマーロウ自身の心情は語られることがない.淡々と積み重ねられるマーロウの目から見た事件と登場人物の行動.しかしその鮮やかな描写で,それぞれの人物像は極めて印象的に立ち上がってくる.
特にテリー・レノックスの何とも言えない魅力は,彼とマーロウの不思議な友情と相俟って心に残る.妻殺しを告白してメキシコで自殺したテリーに対し事件の真相を明らかにするこの小説自体が,テリーへの「長いお別れ」となっている.
またこの小説はハードボイルド小説の魅力にあふれながら,マーロウが些細な事実を見逃さず真相を暴いていくミステリとしても一級品であるという,希有な小説でもある.
最後の52章・53章で味わうどんでん返しも寂寥感に満ちている.
フィリップ・マーロウという独特なキャラクターの人物像を存分に味わえる,至高の探偵小説.読んで損はなし.巻末51頁にわたる,村上春樹の訳者あとがきも,一読の価値あり.
ハヤカワ文庫1100円.
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