独断的映画感想文:わが母の記
日記:2013年1月某日
映画「わが母の記」を見る.
2011年.監督:原田眞人.
出演:役所広司(伊上洪作),樹木希林(八重),宮崎あおい(琴子),南果歩(桑子),キムラ緑子(志賀子),ミムラ(郁子),赤間麻里子(赤津),菊池亜希子(紀子),三浦貴大(瀬川),真野恵里菜(貞代),三國連太郎(隼人).
題名からはいわゆる母ものを想起されるが,この映画は作家井上靖(映画では伊上洪作)の一族の15年にわたる家族の相克の記録であり,井上靖と母親との確執の物語でもある.
映画は1959年,伊豆湯ヶ島に父の危篤を見舞う井上靖のシーンから始まる.ここで井上の母八重,2人の妹が紹介され,帰郷した井上の家で妻と3人の娘が紹介される.
この時点で井上は既に流行作家であり,家族はその作家を支えて多忙であった.この頃から調子が次第におかしくなった母に,井上一家は振り回されることになる….
井上には母八重に捨てられたという恨みがある.井上は5才から13才までを,母と離れて伊豆湯ヶ島の本家で祖母ぬいに預けられて過ごした.このことは成人した今となっても井上の胸に確執となって残っている.
そのことを巡る謎,母の老化,家族の成長を映画は同時並行に語っていく….
脚本の確かさ,映像の美しさ,俳優達の好演等,良い映画の条件を全てクリアした映画である.特に樹木希林の演技は入魂,鬼気迫るものがある.役所広司,宮崎あおいは期待通りだ.
音楽は挿入曲・バッハのバイオリン協奏曲始めなかなかに素敵.
僕は子供の頃,井上靖の少年時代を描いた「しろばんば」という小説を読んだことがある.この小説はベストセラーとなり子供向けのTVドラマにもなった.
ここで描かれた洪作少年とおぬいばあちゃの物語は,長い年月を経てこの映画にたどり着いたと言える.僕にとっては「しろばんば」で始まった井上靖の生涯は,この映画で完結したという印象を持った.
誠に遠大な一つの物語の結実である.感動しないではいられない.また,大人になった僕の目から見て,人生の終盤でのこの親子の物語は心を動かされずにいられない.
そのことを素直に表現した映画として,お勧めしたい.
★★★★(★5個が満点)
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