独断的映画感想文:北のカナリアたち
日記:2013年6月某日
映画「北のカナリアたち」を見る.
2012年.監督:阪本順治.
出演:吉永小百合(川島はる),柴田恭兵(川島行夫),仲村トオル(阿部英輔),森山未來(鈴木信人),満島ひかり(戸田真奈美),勝地涼(生島直樹),宮崎あおい(安藤結花),小池栄子(藤本七重),松田龍平(松田勇),里見浩太朗(堀田久).
ネタバレあります.
川島はるは脳腫瘍の夫の療養を兼ね,父が助役をする故郷の北海道の離島に分校の教員として赴任する.
6人の生徒は家庭環境もさまざまだったが,はるの指導で合唱に取り組み,その才能を開花させて札幌の大会に招かれる実績を上げる.しかしある日生徒を招いてバーベキューをしていたとき,悲劇が起きた.
この事件をきっかけにはるは夫を失い,自身は追われるように島を離れ都会の図書館司書として20年を過ごした.定年退職の直後,家を刑事が訪れ,鈴木信人という男を知らないかと尋ねる.
分校の生徒だった信人は,殺人事件の重要参考人として行方を追われていた.はるは分校の生徒達を訪ねる決意をする….
映画は20年前に何が起きたのかという謎を巡るミステリであり,信人がどうなるかを追う物語でもある.しかし映画の一つの軸が「二十四の瞳」を思い起こさせる分校の先生と生徒の物語であることは疑いを得ない.
はると生徒らが春の野を歌いながら歩いて行く美しいショットは,観客に強い印象を与えるだろう.
はるが訪れる6人の20年後が,それぞれに人生の辛酸をなめたものであることも,「二十四の瞳」と共通している.
しかし一方でこの映画はミステリでもある.
ミステリの謎の根源は20年前のはるの不倫である.この点に照らして,吉永小百合というキャスティングはどうか.
このキャスティングは,観客に対し物語の展開をミスリードするものであるという危惧を持つ.吉永小百合が演じる限り,観客にとってはると阿部英輔の関係は清純なものとしか思えないではないか?真相はどうであっても良いのだが,吉永小百合というキャスティングは両者の関係から肉体的なものを前提として排除してしまうという意味で,間違いだと言わざるを得ない.
この映画の見どころは6人の若者達とその子役達の演技に尽きる.
特に宮崎あおい,満島ひかり,松田龍平は実力通り.森山未來の演技には涙を禁じ得ない.仲村トオルの殆ど台詞の無い,しかし思い詰めた演技も胸に迫った.石橋蓮次の刑事は儲け役だが,うまい.
映像は美しく,音楽は良く吟味されている.日本映画の優れた部分を遺憾なく発揮した良作.
★★★★(★5個が満点)
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