独断的映画感想文:終の信託
日記:2013年6月某日
映画「終の信託」を見る.
2012年.監督:周防正行.
草刈民代(折井綾乃),役所広司(江木秦三),浅野忠信(高井則之),大沢たかお(塚原透),細田よしひこ(杉田正一),中村久美(江木陽子).
折井綾乃は病院呼吸器科の部長を務める女性医師,喘息の重症患者・江木秦三の主治医である.
綾乃は同僚医師の高井と恋愛関係にあったが,高井に裏切られ捨てられた.失意の綾乃は眠剤をアルコールと共に飲むが,一命は取り留める.
江木は綾乃を気遣い,綾乃も江木との間に心の絆を結ぶに至る.
江木は長年の主治医である綾乃を信頼し,自分が重症発作で見込みの無いときは,無駄に延命治療はしないで欲しいと依頼し,綾乃もこれを了承する.
ある日,その江木が重症発作を起こして救急搬送されてくる.綾乃は江木の家族を前に重大決意をするに至ったが….
フジTV系の映画で,内容紹介は頻回に放映されており,粗筋は殆どの人が知っているかも知れない.
綾乃はある時点で家族の了解のもと江木の呼吸パイプを外し,江木を死に至らしめる.3年後綾乃は検事塚原の呼び出しを受け,殺人罪容疑で厳しく追及されるのである.
映画は前半で綾乃と江木の心の交流,綾乃が江木の願いを聞き入れ重大な決断をするに至った経過をつぶさに描く.
一方後半は検事塚原と綾乃の激しい応酬となる.大沢たかお演じる塚原は,如何にも鬼検事らしく手練手管の限りを尽くして綾乃を追い込み,ある時は恫喝しある時は嘲弄し,綾乃に江木が死ぬことを承知で延命処置の解除をしたことを認めさせるのである.
前半で江木と綾乃の心の交流を見ている観客は,ここで塚原の追及に反発し違和感を覚えることになろう.
しかし法の前には,塚原の様な立場もまたあり得ると言わねばならない(例え追及の仕方がいかにあざといものであろうとも).
エピローグに示されるとおり,綾乃と江木の心の絆がどれだけ強くあっても,それだけで綾乃の行動を正当化することは難しい.命を前にした決断はこのように重いものなのだ.
男性3人の演技がいずれも素晴らしい.
江木が綾乃にアリア「私のお父さん」の話を物語る場面の役所広司のしみじみした演技,綾乃を追及する検事塚原の場面での大沢たかおの緊迫した演技は,いずれも印象的.
綾乃を捨てるシーンでの浅野忠信の憎たらしさも宜しい.
江木の妻陽子のいたいけな応対を演じる中村久美も素敵.
草刈民代は,相手役の役所広司や大沢たかおのうまさに圧倒された感じで,いささか気の毒だが,それぞれの俳優の個性が見応えある好編である.
★★★☆(★5個が満点)
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