独断的映画感想文:リンカーン
日記:2013年9月某日
映画「リンカーン」を見る.
2012年.監督:スティーヴン・スピルバーグ.
出演:ダニエル・デイ=ルイス(エイブラハム・リンカーン),サリー・フィールド(メアリー・トッド・リンカーン),デヴィッド・ストラザーン(ウィリアム・スワード),ジョセフ・ゴードン=レヴィット(ロバート・リンカーン),ジェームズ・スペイダー(W.N.ビルボ),ハル・ホルブルック(ブレストン・ブレア),トミー・リー・ジョーンズ(タデウス・スティーブンス).
1864年,南北戦争の帰趨はようやく定まりつつあったが,未だ両軍の戦闘で多くの若者が命を落としていた.
この時,リンカーンは戦争のそもそもの目的である奴隷制の廃止が,1862年9月の「奴隷解放宣言」のみでは法的に不充分だと考え,終戦前に合衆国憲法修正第13条の成立を何としても行おうと考えていた.
この改正無しには,終戦後南部諸州が連邦に復帰しても,奴隷制廃止を法的に強制することは不可能と考えたからである.
憲法修正の成立は,南部諸州に戦争継続を諦めさせる効果がある一方,戦況は既に北軍の圧倒的優位にあり,南軍が降伏すれば憲法修正の成立を必要としないという世論の流れへの怖れもあった.
リンカーンは1865年1月末日を以て憲法改正を行いたいと考えていたが,議会には奴隷制維持を主張する民主党初め,人種差別の根本的廃止を訴える共和党過激派,南部との融和を訴える共和党穏健派が存在し,リンカーンの課題は,共和党の団結と民主党の切り崩しにあった.
リンカーンは穏健派の要望を入れて南部使節団との秘密交渉に当たる許可を出す一方,南部との一切の妥協を否定して過激派に譲歩を迫り,更に民主党の落選議員で3月に任期切れが迫っている者達へ,公職への就任をちらつかせて切り崩すというロビイストの活動も承認した.妻や息子との南北戦争を巡る激しい葛藤にも直面しつつ,運命の1月31日が迫ってくる….
政治的手練手管の限りを尽くして憲法改正に心血を注ぐリンカーンの姿を描く,重厚な歴史ドラマ.ダニエル・デイ=ルイスの演ずるリンカーンの魅力に圧倒される.
閣僚の逡巡,苛立ちを押さえつつ,時には若い実務者に自ら声をかけ,時には重要メンバーを叱咤激励する.リンカーンという特異な個性のリアルな再現に,映画は成功しているだろう.
国民の圧倒的支持を得て再選されたリンカーンは,自己の政治生命のみを考えれば,この様な強引な政治運営で奴隷解放を確立する必要は無かった.彼は理想の貫徹のために自らの死期を早めたと言える.
映画は憲法修正第13条の成立を巡る当時の政治的軍事的状況とリンカーンの活動をスリリングに描き,しかもそのなかで奴隷解放という一つの理想が実現する産みの苦しみを描いて,強い印象を残すものとなった.
★★★★(★5個が満点)
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