« 2013年9月 | トップページ | 2013年11月 »

2013年10月に作成された記事

2013/10/20

独断的映画感想文:舟を編む

日記:2013年10月某日
映画「舟を編む」を見る.1_2
2013年.監督:石井裕也.
出演:松田龍平(馬締光也),宮崎あおい(林香具矢),オダギリジョー(西岡正志),黒木華(岸辺みどり),渡辺美佐子(タケ),池脇千鶴(三好麗美),鶴見辰吾(村越局長),宇野祥平(宮本慎一郎),又吉直樹(戸川),麻生久美子(ポスターの女優),伊佐山ひろ子(佐々木薫),八千草薫(松本千恵),小林薫(荒木公平),加藤剛(松本朋佑).
玄武書房では新しい辞書「大渡海」の編纂を開始している.
担当編集者の荒木は,自分の定年後の後任に社内の変わり者・馬締光也をスカウトする.営業は大の苦手,コミュニケーション能力に著しく欠ける馬締は,しかし下宿先の1階の殆どを書庫にしてもらっている程の本の虫,早速異動してきて,調子は良いが地味な辞書編集にはいまいち向かない先輩西岡,ベテランの女子契約社員佐々木と共に,主管・松本の指導の下,気の遠くなるような辞書編纂の仕事に取り組む.8
更に馬締は,下宿の小母さんと同居するようになったその姪・林香具矢に満月の夜に一目惚れしてしまう….
結局15年かかった「大渡海」の編纂と馬締・林のロマンスを描くほのぼの映画.
辞書編纂という地味な作業を気負うことなく淡々と,しかしテンポ良く描く監督の腕はなかなか素晴らしい.上映中観客席からは幾度も笑い声が上がったが,この映画の笑いは主に間の良さと間の外し方にある.
若いが達者な俳優からベテランまで(猫も含む),皆この呼吸が良く発揮されていて見応えがあった.
男性3人のキャラクターの配置も宜しい.
松田龍平は只のオタク社員から,ところを得てどんどん仕事に没頭し力強くなっていく,しかしやはり変わり者の編集者・馬締を好演.これに対する,辞書には向いていないが辞書作りがやはり好きで,営業的才覚で「大渡海」をサポートする西岡の対比が面白い.5_2
また,ベテラン加藤剛の,辞書の監修者で動かざること山の如き人物に見えて,用例採取のために女子高生の溜まり場に出没し「チョベリグ」等と書き留める老研究家が印象的.特にこの人の,深い暖かみのある台詞術は,実に聞き応えがある.
女優陣もいつも通りで素敵,安心して笑ったり涙ぐんだり最後まで楽しめる映画である.見て損はなし.
★★★★(★5個が満点)
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (1) | トラックバック (1)

独断的映画感想文:映画 鈴木先生

日記:2013年10月某日
映画「映画 鈴木先生」を見る.1
2012年.監督:河合勇人.
出演:長谷川博己(鈴木先生),臼田あさ美(鈴木麻美),土屋太鳳(小川蘇美(2-A)),風間俊介(勝野ユウジ),田畑智子(桃井先生),斉木しげる(校長先生),でんでん(川野先生),富田靖子(足子先生).
原作もTVドラマも未見である.
鈴木先生は三鷹市立緋桜中学校の2年A組担任教師.クラスのマドンナ小川蘇美への妄想に悩まされながら,学校に入ると切り替わる明快な頭脳で生徒を指導する.
生徒会長選挙を迎えた校内は,選挙制度批判のために立候補したと公言する2-Aの出水正に対し,歩く笑顔の文部科学省・足子先生が公然と弾圧に乗り出し,予断を許さない情勢である.3
ところが生徒会選挙当日に卒業生ユウジによる思いがけない事件が発生する….
この映画は中学生の熱血学園ものではない.それどころか映画全体は何となくウソっぽい.
その証拠にこの中学にはいじめはないらしい.荒れる崩壊クラスもない.
生徒同士は前向きに討論し合うが,その討論内容は理路整然,中学生離れした論理展開である.ユウジに襲われた小川蘇美は,理論で相手を圧倒した後,決死のジャンプをして鈴木先生の待つ隣の校舎に飛び移る(何故そんなことをしなければならないのだ?!).
要するにこの映画は芝居なのだ.
映画の中でも鈴木先生は,自分を防御するために演技することの重要性を説き続けている.これは良い鈴木先生を演ずる鈴木先生や,良い生徒を演ずる緋桜中学生徒達,その他の人々が演じる芝居の映画なのだ.この映画を見て感じる違和感はそこに由来する.5
ではこの映画そのものは何のために作られたのか?選挙制度の矛盾を訴えるためか?!オタクひきこもりの保護を訴えるためか?!!それは僕には判りません.
全体としての嘘っぽさには共感できなかった.面白かったが意味不明な映画.それが後に残った独断的感想である.
★★★(★5個が満点)
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

2013/10/09

独断的映画感想文:塀の中のジュリアス・シーザー

日記:2013年10月某日
映画「塀の中のジュリアス・シーザー」を見る.3_2
2012年.監督: パオロ・タヴィアーニ/ヴィットリオ・タヴィアーニ.
出演:コジーモ・レーガ(キャシアス(カッシオ)),サルヴァトーレ・ストリアーノ(ブルータス(ブルート)),ジョヴァンニ・アルクーリ(ジュリアス・シーザー),アントニオ・フラスカ(アントニー(マルカントニオ)),フアン・ダリオ・ボネッティ(ディシアス(デチオ)),ヴィンチェンツォ・ガッロ(ルシアス(ルーチョ)),ロザリオ・マイオラナ(メテラス(メテロ)),ファビオ・カヴァッリ(舞台監督).
イタリア/ローマ郊外にあるレビッビ刑務所では,毎年演劇実習を囚人の志願者を募って行い,その上演は一般観衆を刑務所内劇場に招待して行われる.
今年の演目は「ジュリアス・シーザー」と決まり,早速オーディションが開始される….
この映画はドキュメンタリー映画である.1_2
事実,演じる俳優は皆囚人で,唯一のプロの俳優であるブルータス役のサルヴァトーレ・ストリアーノも,かってこの刑務所の囚人であった.
囚人達はいずれも十年以上の懲役刑,中には1975年に逮捕されて以来の終身刑服役者もいる.
ドキュメンタリーではあるが,この映画は素人の囚人が実習を重ねて次第にいっぱしの俳優になっていく過程を描く,等というものではない.囚人達はオーディションの時から既に,凄まじい存在感と強烈な個性を遺憾なく発揮している.4_2
刑務所の各棟を舞台に繰り広げられる練習風景は,そのまま異形のローマ市中の舞台化と見えてくる.謀略と殺人の物語であるこの劇を演じる囚人達は,自らの罪状とこの配役の設定との二重の負荷に直面し,独特の迫力と苦悩を画面に繰り広げるのだ.そこに於けるタヴィアーニ監督兄弟の才腕には舌を巻く.
ベルリン国際映画祭金熊賞受賞の傑作.見て損はなし.
★★★★(★5個が満点)
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

独断的映画感想文:マリーゴールド・ホテルで会いましょう

日記:2013年10月某日
映画「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」を見る.1
2011年.監督:ジョン・マッデン.
出演:ジュディ・デンチ(イヴリン),ビル・ナイ(ダグラス),ペネロープ・ウィルトン(ジーン),デヴ・パテル(ソニー・カプー),セリア・イムリー(マッジ),ロナルド・ピックアップ(ノーマン),トム・ウィルキンソン(グレアム),マギー・スミス(ミュリエル).
本国イギリスで食い詰めて,はるばるインドの長期滞在型リゾートホテルにやってきた7人の高齢男女.やっとたどり着いたそのホテルは,若き支配人ソニーが取り仕切る,「発展途上」のホテルだった….
全てを任せていた夫に急死され途方に暮れていたイヴリン,退職金の大半を娘のITベンチャーにつぎ込んでしまったダグラス・ジーンの夫妻,不意に中途退職しインドを目指したグレアム,人種主義者だったのに予算がないために大腿骨の手術をインドでする羽目になったミュリエル,未だにロマンスを追い求めるノーマンとマッジ.彼等は予想と違ったホテルの状況にたじろぎつつ,それぞれにインドの地と誼を通じようとするのだが,その前途はなかなかに険しい.3
ホテルはと言えば,若きソニーは張り切っているが財政状態は芳しくなく,相続権を持つ母と兄たちはこのホテルを整理しようと考えていた.さあこの結末はいかに,と言うお話し.
必ずしもうまくいかなかった人生,その結果今インドにいる彼等はそれぞれに秘密がある.それを一つ一つ明かしながら進行していく物語が興味深い.
その秘密はそうたいしたものではなく,例えばイヴリンは専業主婦だったのにインドで就職口を見つけることが出来た.尾羽うち枯らしすっかり年老いた人種主義者と見えたミュリエルは,物語の終局では思いがけない役割を担う.4
映画は登場人物の全てに温かい目を注ぎ,彼等の残された人生を祝福する様だ.
物語の筋にはやや御都合主義を感じるが,味のある俳優達の名演が心地よい.見終わってホノボノとする映画,見て損はなし.
★★★★(★5個が満点)
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (1)

« 2013年9月 | トップページ | 2013年11月 »