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2013年11月に作成された記事

2013/11/20

番外:独断的歌舞伎感想文:通し狂言伊賀越道中双六

日記:2013年11月某日
国立劇場で歌舞伎「通し狂言伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)」を見る.Igagoedoutyusugorokuomote1
序幕:相州鎌倉和田行家屋敷の場,二幕目大和郡山唐木政右衛門屋敷の場: 同 誉田家城中の場,三幕目  駿州沼津棒鼻の場, 同 平作住居の場, 同 千本松原の場, 大詰 伊賀上野敵討の場.出演:坂田藤十郎,中村翫雀,中村扇雀,中村橋之助,中村亀鶴,中村虎之介,片岡亀蔵,片岡市蔵,片岡孝太郎,市村家橘,市村萬次郎,坂東彦三郎.
誠に良く書き込まれた義太夫狂言の傑作で,僕も三幕目を見た記憶はあるが,通しの狂言は初めて見る.
中でも印象に残るのは千本松原の場で,ここでの場景を説明するのはそれまでの因果が複雑すぎて不可能なのだが,親子の義理と仇討ちの義理が絡み合い進退窮まる中でのぎりぎりの選択の悲劇,としか言い様はない.
その前の場でコメディに近い楽しい場面があったにもかかわらず,ここで直面する仇討ちの厳しい現実は心に残る.
大詰めのチャンバラ劇は楽しいが,3幕目の悲劇を浄化するべくもない.藤十郎,翫雀,扇雀がそれぞれに見応えあった.
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2013/11/19

独断的映画感想文:アベンジャーズ

日記:2013年11月某日
映画「アベンジャーズ」を見る.6_2
2012年.監督:ジョス・ウェドン.
出演:ロバート・ダウニー・Jr(トニー・スターク(アイアンマン)),クリス・エヴァンス(スティーブ・ロジャーズ(キャプテン・アメリカ)),マーク・ラファロ(ブルース・バナー(ハルク)),クリス・ヘムズワース(ソー),スカーレット・ヨハンソン(ナターシャ・ロマノフ(ブラック・ウィドウ)),ジェレミー・レナー(クリント・バートン(ホークアイ)),トム・ヒドルストン(ロキ),クラーク・グレッグ(エージェント・フィル・コールソン),ステラン・スカルスガルド(エリック・セルヴィグ),コビー・スマルダーズ(エージェント・マリア・ヒル),グウィネス・パルトロー(ペッパー・ポッツ),サミュエル・L・ジャクソン(ニック・フューリー).
詳しいストーリーは公式サイトに譲る.3
とにかく宇宙から何か攻めてきて,アメコミヒーローが寄せ集められてこれと戦うことになるが,味方の一部は洗脳されて敵側につくは,アメコミヒーローは仲間割れして内輪げんかで味方の空母をぼこぼこに壊すはの大ピンチ.でも最後には結束して敵をやっつけめでたしめでたし.
とにかくアイアンマンと超人ハルク,キャプテン・アメリカ,更にマイティー・ソーが何ものかを知らないと話になりませんぞ.突然出てくる騒動の発端であるエネルギー体「キューブ」は,キャプテン・アメリカとマイティー・ソーに出てくるそうな.美貌のスパイ・ナターシャはアイアンマンに出てきたらしい(覚えていない).洗脳されて味方を散々な目に遭わせるバートンは,マイティー・ソーに出ていたとのこと.僕の見てるのはアイアンマンだけだから,てんで話になりませんわ.7_28_2
でもストーリーがろくに判らなくても勢いだけで見て楽しめる映画,蘊蓄は後から補えば宜しい.
一番面白かったのはそれまでアベンジャーズを手玉に取っていた敵の王ロキを,ハルクがそのでかさと怪力にものを言わせ単純に体力でこてんぱんぼこぼこにやっつけるところ.「チョロい王だぜ」と言い捨てるハルクがかっこいい!!
この映画のキャッチコピーは「日本よ,これが映画だ」だそうである.頭に来るキャッチではないか?これにはこう言い返したい.「アメリカよ,これが映画か?」
これが気に障って減点.★★★(★5個が満点)
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2013/11/13

番外:独断的歌舞伎感想文:吉例顔見世大歌舞伎 仮名手本忠臣蔵

日記:2013年11月某日
歌舞伎座新開場柿葺落 吉例顔見世大歌舞伎「通し狂言 仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」を見る.Kabukiza_201311f3_jpg
大序 鶴ヶ岡社頭兜改めの場・三段目 足利館門前進物の場・同 松の間刃傷の場:
塩冶判官(菊五郎),高師直(左團次),足利直義(七之助),鷺坂伴内(松之助),顔世御前(芝雀),桃井若狭之助(梅玉).
四段目 扇ヶ谷塩冶判官切腹の場・ 同 表門城明渡しの場:
塩冶判官(菊五郎),石堂右馬之丞(左團次),薬師寺次郎左衛門(歌六),富森助右衛門(松江),矢間重太郎(男女蔵),岡野新右衛門(亀三郎),織部安兵衛(亀寿),木村岡右衛門(萬太郎),小汐田又之丞(種之助),大鷲文吾(米吉),斧九太夫(橘三郎),奥田定右衛門(宗之助),大星力弥(梅枝),顔世御前(芝雀),原郷右衛門(東蔵),大星由良之助(吉右衛門).
浄瑠璃 道行旅路の花聟:
早野勘平(梅玉),鷺坂伴内(團蔵),腰元おかる(時蔵).
忠臣蔵を通しで見るのは初めてである.
始まりの人形の口上での全役者紹介に続き,鶴岡八幡宮での高師直と桃井若狭之助の確執,顔世御前への横恋慕等も初見.
何と言っても昼の部の見せ場は判官切腹の場であろう.
菊五郎の切腹に至る身の処し方が美しい.駆けつけた由良の助の「委細」の一言で主君の無念を全て飲み込んだ瞬間,役つきの若侍一同を掌握した瞬間,そして無人となった屋敷を立ち去るときの辺り憚らぬ嗚咽が,胸にしみる.
女形では判官に香を手向ける顔世御前の芝雀が,一言の台詞もなく只悲嘆にくれているその消え入りそうな美しさが絶品であった.
さすがに忠臣蔵と感銘を受けた次第.来月も同じ演し物を見るのが楽しみである.
3:45終演.
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2013/11/12

独断的映画感想文:ゼロ・ダーク・サーティ

日記:2013年11月某日
映画「ゼロ・ダーク・サーティ」を見る.1_2
2012年.監督:キャスリン・ビグロー.
出演:ジェシカ・チャステイン(マヤ),ジェイソン・クラーク(ダニエル),ジョエル・エドガートン(パトリック),ジェニファー・イーリー(ジェシカ),マーク・ストロング(ジョージ),カイル・チャンドラー(ジョセフ・ブラッドリー),エドガー・ラミレス(ラリー),ジェームズ・ガンドルフィーニ(CIA長官),クリス・プラット(ジャスティン).
2001年の9/11以来,首謀者と目されたオサマ・ビン・ラディンを追い求めるCIA,しかし膨大な費用をつぎ込み人手をかけても,ビン・ラディンの行方を掴むどころかテロの続発を押さえることも出来ない.
パキスタンに配属された若いCIA要員マヤは,執念の捜査でアブ・アフメドという名前を掴みその行方を追う.彼こそがビン・ラディンの連絡員との確信を持ったからだ.
しかしCIAパキスタン支局長始め要人は彼女の捜査を評価せず,9/11以来10年の歳月が流れた….
圧倒的な情報量とアメリカ軍のリアルな映像を使って描かれる,ビン・ラディン追跡のスパイアクション.
映画としてはプロットの出来の良さと言い,その緊張感の高さとリアルな画面展開と言い,一級品と言わざるを得ない.外国市民の逮捕と拷問という無法な活動にも関わらず,マヤの必死の捜査を見れば,観客は彼女に共感し,全てが終わった後に彼女が流す涙にも納得するだろう.2_2
しかし「テロとの戦い」が世界に何をもたらしたかを考えるとき,そのまっただ中に題材を求めてアクション映画の新ジャンルを確立したとも言えるこの映画には,微妙な違和感を持つ.映画に引き込まれた自分自身が腹立たしいのである.
考えてみればこの映画は,事実に徹底的に取材したと言いながらも,最初から最後までCIA要員マヤの視点のみから見た映画であった.
同じ監督の「ハート・ロッカー」は,同じ「テロとの戦い」を題材にしていたが,主人公達は爆弾処理班という実務部隊だった.3
その延長線上に,CIA要員の目から見たビン・ラディン殺害作戦の映画化を置いたビグロー監督の「一歩前進」は,この先どういう映画に繋がっていくのだろう?見終わって複雑な思いに落ち込む映画である.
★★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:オブリビオン

日記:2013年11月某日
映画「オブリビオン」を見る.1
2013年.監督:ジョセフ・コシンスキー.
出演:トム・クルーズ(ジャック・ハーパー),モーガン・フリーマン(ビーチ),オルガ・キュリレンコ(ジュリア),アンドレア・ライズブロー(ヴィクトリア),ニコライ・コスター=ワルドー(サイクス軍曹),メリッサ・レオ(サリー).
ちょっとネタバレあります.
近未来.地球は宇宙人スカヴの襲撃を受けその撃退に成功するも地表は放射能に汚染される.人類は土星の衛星タイタンへの移住を目指し,巨大人工衛星テットに居住する.
空中には海水を吸い上げてエネルギー補給をするプラントが浮かび,スカヴの生き残りからの襲撃を防ぐためロボット兵士ドローンがパトロールを続ける.2
ジャックはパートナーのヴィクと共にドローンのメンテナンスのため地表の基地で暮らしている.或る日墜落した宇宙船内のポッドにいた女性ジュリアを救出するが,ジュリアはジャックの名前を口にする….
SFにはいくつかインチキがあって,例えば記憶の操作やタイムマシンというのはその代表例である.これを使われると話がどんなに混乱しても後から理屈をつけられる.
この映画にはもっとインチキがあって…,という物語なのだがどうも最後のどんでん返しがあまりうまくいっていないので腑に落ちないまま映画は終わってしまう.
こういう一大欠点を持つ映画なのだが,滅亡し荒涼とした地球の情景やジャックの乗るヴィークル・ロボット兵士ドローンの造形美等,映像の美しさが見応え充分.4
ジャックの隠れ家(山奥の廃屋)でレコード演奏されるレッド・ツェッペリンやプロコルハルム等の音楽も,郷愁を誘って宜しい.
如何にもSFらしい映画なので,結末さえきっちり落ちをつけられたら大傑作だったのだが.惜しい.
★★★(★5個が満点)
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2013/11/09

独断的映画感想文:L.A. ギャング ストーリー

日記:2013年10月某日
映画「L.A. ギャング ストーリー」を見る.La_1
2012年.監督:ルーベン・フライシャー.
出演:ジョシュ・ブローリン(ジョン・オマラ巡査部長),ライアン・ゴズリング(ジェリー・ウーターズ巡査部長),ショーン・ペン(ミッキー・コーエン),ニック・ノルティ(パーカー市警本部長),エマ・ストーン(グレイス・ファラデー),アンソニー・マッキー(コールマン・ハリス巡査),ジョヴァンニ・リビシ(コンウェル・キーラー巡査),マイケル・ペーニャ(ナビダ・ラミレス巡査),ロバート・パトリック(マックス・ケナード巡査),ミレイユ・イーノス(コニー・オマラ),サリヴァン・ステイプルトン(ジャック・ウェイレン),ホルト・マッキャラニー(カール・ロックウッド).La_2
1949年,L.A.を仕切るギャングミッキー・コーエンの勢いは止まるところを知らず,警察署長,保安官,判事,政治家等はいずれも買収されている.
事態を憂慮した市警本部長は,ギャングに立ち向かう警官・オマラ巡査部長を抜擢し,警官の身分を隠してギャングを実力で制圧する秘密分隊の組織を命じる.
頭脳派ではないオマラは,妻の助けを借りてメンバーを選抜.彼等は勇躍コーエンの賭博場を襲う武装強盗を実行するが,何と賭博に興じていた制服警官の反撃を受け失敗,オマラは保安官に逮捕され拘留されてしまう….
実話に基ずきギャング対警察非公然部隊の抗争を描くアクション映画.この後何とか脱走に成功した彼等にコーエンの愛人グレイスと付き合っているウーターズ巡査部長が合流,彼等はコーエンの私宅に盗聴マイクを仕掛け,次々とコーエンの「事業」を襲撃,L.A.は軽機関銃の銃弾飛び交う大戦争へと突入する….La_3
何とも荒っぽい史実を描くとんでもなく荒っぽい映画.
コーエンは残忍無慈悲なギャングで失敗した部下はいずれも惨殺されるし,ギャング対オマラ一統の戦闘は市街戦あり爆弾あり放火ありの半端でない衝突だし,アメリカでは普通なのかも知れないが,いささか暴力に辟易した.La_4
ショーン・ペンが圧倒的に魅力があるが,ライアン・ゴズリング,エマ・ストーンの美男美女も素敵.
派手なシーンが多い割りには小粒感があるのは何故かしら?
★★★(★5個が満点)
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2013/11/07

独断的映画感想文:千年の愉楽

日記:2013年10月某日
映画「千年の愉楽」を見る.3
2012年.監督:若松孝二.
出演: 寺島しのぶ,高良健吾,高岡蒼佑,染谷将太,山本太郎,原田麻由,井浦新,大谷友右衛門,片山瞳,月船さらら,佐野史郎.
中上健次の原作を映画化,監督若松孝二の遺作となった.1
南紀のとある漁村の路地に生を受ける,中本の若者達.彼等は圧倒的な美しさで女達を魅了する一方,必然的に起こるトラブルで若い命を落としていく.
彼等を取り上げ続けた産婆,オリュウノオバの回想で綴る中本の男たちの物語.
物語のテンポやリズムが心地よく,一気に見ていける映画.半蔵(高良健吾),三好(高岡蒼佑),達夫(染谷将太)がいずれも美しい.2
寺島しのぶ・佐野史郎が演じる夫婦も安心して見ていられる.
但し,この映画はロケ地や衣装,小道具などどこか安っちい感じがする上,撮影・編集はもう少し吟味してはどうかしら,という感じがつきまとう.4
監督が撮り急いだのか,本当は未完成だったのか,やや疑問の残るところ.
★★★(★5個が満点)
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2013/11/06

独断的映画感想文:くちづけ

日記:2013年10月某日
映画「くちづけ」を見る.1
2013年.監督:堤幸彦.
出演:貫地谷しほり(阿波野マコ),竹中直人(愛情いっぽん/阿波野幸助),宅間孝行(うーやん 原作・脚本も),田畑智子(宇都宮智子),橋本愛(国村はるか),麻生祐未(国村真理子),平田満(国村先生),嶋田久作(仙波さん),岡本麗(袴田さん),宮根誠司(アナウンサー),伊藤高史(夏目ちゃん),谷川功(島ちん),屋良学(頼さん),尾畑美依奈(南).
ネタバレあります.
人気漫画家・愛情いっぽんこと阿波野幸助は,妻の死後,智恵遅れの娘マコを育てるため漫画を捨てた.
今30才となったマコを連れ,幸助は自らボランティアスタッフとして勤めながら,グループホーム「ひまわり」で娘と共に暮らそうとやって来る.2
不幸な事件があって以来,男性に怯えるマコだったが,「ひまわり」の仲間にはスムーズに溶け込み,特にうーやんとは仲良しになって結婚しようとまで言い出す仲となる.しかし幸助は実は重大な問題を抱えていた….
心は7才のままの無垢なマコと「ひまわり」の仲間達のテンポ良いとんちんかんな会話に笑わされ,直面する厳しい現実に途惑う彼等に泣かされる.そして泣いた後,ぞっとする映画である.
幸助の問題は,娘が自分の死後どうなるかという悩みである.
智恵遅れの子は犯罪者になるのでは,浮浪者になるのではという心配を持つ幸助は,国村医師にマコをどうしたら良いのかと迫るのだが,国村医師の答は智恵遅れの子は体も弱いので親より先に亡くなることも多いのだというものだ.何ということだろう.4
幸助の悩みはやがて重大な結末に至るのだが,誰が幸助を責められようか.
映画はしかし見応えあり.脚本にはいくつか突っ込みたいところもあるし(例えば幸助の状態に国村医師が疑問を持たないのはおかしいとか),舞台をそのまま映画にした結果,周りの社会状況がさっぱり見えないという問題もある.
しかし俳優陣の奮闘は印象的,貫地谷しほりや宅間孝行は素晴らしい.竹中直人もいつもの怪演技に走らずまとも,ベテラン岡本麗に存在感があった.
考えさせられる映画.見て損はなし.
★★★☆(★5個が満点)
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2013/11/01

独断的映画感想文:ハンナ・アーレント

日記:2013年10月某日
映画「ハンナ・アーレント」を見る.1_3
2012年.監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ.
出演:バルバラ・スコヴァ(ハンナ・アーレント),アクセル・ミルベルク(ハインリヒ・ブリュッヒャー),ジャネット・マクティア(メアリー・マッカーシー),ユリア・イェンチ(ロッテ・ケーラー),ウルリッヒ・ヌーテン(ハンス・ヨナス),ミヒャエル・デーゲン(クルト・ブルーメンフェル).
ネタバレあります.
主人公はフランスのユダヤ人キャンプに抑留経験のある政治哲学者.映画でも触れられる「全体主義の起源」は1951年に出版されセンセーションとなった.
その彼女が,1960年にイスラエルの諜報組織・モサドに逮捕され1961年4月からエルサレムで裁判が始まったナチの幹部,アドルフ・アイヒマンの裁判傍聴記を執筆することになる.この映画はその執筆と出版後の顛末の物語.2_5
イスラエルに飛んだハンナはアイヒマンの裁判を傍聴するが,苦しんだ挙げ句に彼女が発表した論文は,アイヒマンを思考を放棄した平凡な官僚と評したものだった.一方裁判で明るみに出た,アイヒマンに協力したユダヤ人社会の指導者に言及した.
これらの論評は各々一人歩きし,ハンナはアイヒマンを悪魔と断ずることを期待したユダヤ人社会から,激しい非難を浴びる.
ハンナは思考を放棄した官僚が,いかに重大な悪を実行することが出来たのかを問題にしたのだった.
しかし長年の同僚達もことごとくハンナ非難の側に回る.ハンナは学生で満員の講義室で自説を展開し,批判する同僚を論破して学生の喝采を浴びたのだが….
映画はアイヒマン裁判の模様を延々と描写し(使われるのは実写フィルムで,つまりアイヒマン役は本人だ),続いてその傍聴記を書くのに苦しむハンナの姿を延々と描写する.
そして先に述べた講義室のシーンに至って映画は一気にクライマックスを迎えるのだ.
ハンナの講義は素晴らしい.論旨明快でしかも心に訴える.しかしその中にハイデッガーの影はなかったか?
実は彼女と同僚達はかってハイデッガーを師と仰いだ同士で,ハンナはハイデッガーの愛人だったことも示される.ハイデッガーはナチに傾倒し協力していたことでユダヤ人の弟子達から批判されていた.ハンナの旧友ハンスは講義終了直後に,ハイデッガーに言及して彼女を痛烈に批判し去って行く.3_2
映画はアイヒマン裁判事件での彼女の孤高の行動を支持しつつも,彼女の限界も示唆して終わるのである.
日本人には馴染みにくい題材での映画だが見応えは充分.全体主義に於ける人間の悪とは何かを追究し続けたハンナの強烈な人生が,共感できる形で描かれる(彼女の政治主張に共感できるということではない).
見て損はなし.
★★★★(★5個が満点)
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独断的映画感想文:許されざる者

日記:2013年10月某日
映画「許されざる者」を見る.1_2
2013年.監督:李相日.
出演:渡辺謙(釜田十兵衛),柄本明(馬場金吾),柳楽優弥(沢田五郎),忽那汐里(なつめ),小池栄子(お梶),近藤芳正(秋山喜八),國村隼(北大路正春),滝藤賢一(姫路弥三郎),小澤征悦(堀田佐之助),三浦貴大(堀田卯之助),佐藤浩市(大石一蔵).
クリント・イーストウッド1992年公開の名作のリメイク.
映画の冒頭,北海道の雪原を走る6騎の官軍兵士.幕軍の敗残兵・「人斬り」十兵衛を森に追い詰める.しかし待ち伏せた十兵衛は官軍兵士を皆殺しにしてしまう….
1880年,十兵衛は落ち延びた地でアイヌの女性と出会い剣を捨てることを誓うが,その妻は3年前に死に,今は二人の子供と暮らしていた.5_2
ある日かっての戦友馬場金吾がやってきて,賞金稼ぎに誘う.一度は亡妻との約束を楯に断った十兵衛だが,冬を越す資金を得るため止むなく同行する.
目的地鷲路の街には,かって幕軍の残党狩りをした大石一蔵が,警察署長として絶対的支配を敷いていた….
大筋はほぼイーストウッド版と同様,しかしイーストウッド版が穏やかな終わり方で,時にとぼけたユーモアもあったのに比べると,本作はより痛切な悲哀に満ちている.
「人斬り」十兵衛の業は深いと言わざるを得ない.2_4
それにしても,渡辺謙の演じる十兵衛の迫力はどうだろう.特に最終局面,一蔵との対決シーンでの十兵衛の悪鬼の様な恐ろしさと凄みは,観客を圧倒するだろう.
全てが終わった後,重ねた殺人の重さにうちひしがれる十兵衛の悲哀は例えようもない.
俳優では他に柄本明,柳楽優弥,忽那汐里が良かった.
柳楽優弥と忽那汐里によるエピローグは,この重厚な悲劇の幕を引くのにふさわしい.6_2
美しい自然とそのなかで繰り広げられる殺人劇の双方を見事に描いたカメラ,映画全体の雰囲気を決定した音楽の美しさも,賞賛に値する.
見て損はなし,特に終盤の30分は暫く忘れられそうにない.
★★★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:図書館戦争

日記:2013年10月某日
映画「図書館戦争」を見る.5
2013年.監督:佐藤信介.
出演:岡田准一(堂上篤),榮倉奈々(笠原郁),田中圭(小牧幹久),福士蒼汰(手塚光),西田尚美(折口マキ),橋本じゅん(玄田竜助),鈴木一真(武山健次),相島一之(尾井谷隊長),嶋田久作(平賀警部補),児玉清(稲嶺和市(写真)),栗山千明(柴崎麻子(特別出演)),石坂浩二(仁科巌).
作った時点では近未来ものという映画だったのだろうが,昨今の政治状況からして未来とは言い難くなってしまったリアルな政治ドラマ.
メディア良化法が成立し,有害図書を暴力をもって規制できるメディア良化隊が,図書の強制的検閲を行うようになる.一方,これに乗じた正体不明の集団による図書館焼き討ち事件が発生したことから,メディア良化隊に対する防衛権を持つ図書隊が設立され,図書館については図書隊が配置されることになった.
という訳で図書を巡ってメディア良化隊と図書隊という二つの戦闘集団が並立するようになる.大好きな本を良化隊に検閲され奪われるところを図書隊に救われた経験を持つ笠原は,図書隊に志願し入隊する.指導教官の堂上は,初めての女子隊員である笠原に厳しく対応するのだが….2_2
まあ設定を別とすれば岡田准一の典型的アクション映画と言えるし,エンタテインメントとして良い水準.
という訳で設定が焦点なのだが,冒頭に掲げられる「図書館の自由に関する宣言」は非常に重要なもので,現実の我が国の図書館協会が掲げている宣言は以下の通りで,ほとんど映画と同じ.「図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。この任務を果たすため、図書館は次のことを確認し実践する。第1 図書館は資料収集の自由を有する.第2 図書館は資料提供の自由を有する.第3 図書館は利用者の秘密を守る.第4 図書館はすべての検閲に反対する.図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る.」
この宣言は架空の近未来の宣言ではなく,現実の図書館が掲げていて,それが脅かされているという状況が,逆に言えばこの映画のポイントでもある.
もう一つのポイントは主演の女子図書隊員を演ずる榮倉奈々のキャスティングであるが,これはまあ合格点と言ったところか.条件は,若くて上背があり(岡田准一より高くなくてはいけない),柔道がめちゃ強いが精神的には幼いというもので,そういう(風に見える)女優は他になかなかいそうにない.4
映画は特に後半は戦闘に次ぐ戦闘で,岡田アクションの炸裂は充分に堪能できる.
映画では話が戦争だから分かりやすいが,今,現実の図書館が迎えているのはもっと陰湿な自由の締め付けである.図書館頑張れ!
★★★☆(★5個が満点)
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独断的映画感想文:テイク・ディス・ワルツ

日記:2013年10月某日
映画「テイク・ディス・ワルツ」を見る.2
2011年.監督:サラ・ポーリー.
出演:ミシェル・ウィリアムズ(マーゴ),セス・ローゲン(ルー),ルーク・カービー(ダニエル),サラ・シルヴァーマン(ジェラルディン).
ネタバレあります.
文筆業で身を立てようとしているマーゴは,取材先で素敵な青年ダニエルと知り合いになる.しかも何とダニエルはつい最近マーゴの家のお向かいに引っ越してきた青年だった.
マーゴの夫ルーはチキンレシピ専門の料理研究家,自宅でチキン料理の研究に精を出すがその間はマーゴの相手はしてくれない.
優しくて申し分の無い夫だが,子供は未だ欲しくないと言う.ルーに飽き足らないマーゴは次第にダニエルとの関係を深めていくが….3
今時のアメリカの既婚女性の実態ってこういうものなのか,そうだとしたらこちらの不明を恥じるしかない.
しかし,女流監督だからという目で見ている訳では無いが,マーゴの不倫の結末と言いその描写と言い,どうも違和感を感じざるを得ない.
結論から言えばマーゴは終盤で遂に夫と別れダニエルと一緒になるのだ.その結果マーゴは夫及び夫の家族と築いてきた絆の全てを失うことになる.
これに先立ってマーゴとダニエルの過激なFuckシーンが延々と描かれるが,いずれも共感は出来ない.1
ミシェル・ウィリアムズというごく平凡なアメリカ女性を連想させる女優を用いて,何故こういう描き方をしなければならないのか.それとも現実のアメリカはこの様に荒涼とした社会なのだろうか?そういう点が気になって,この映画は腑に落ちない,という独断的感想でした.
★★★(★5個が満点)
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