« 2014年11月 | トップページ | 2015年1月 »

2014年12月に作成された記事

2014/12/29

独断的映画感想文:流れる

日記:2014年12月某日
映画「流れる」を見る.0_2
1956年.監督:成瀬巳喜男.
出演:田中絹代(梨花(女中)),山田五十鈴(つた奴(芸妓)),高峰秀子(勝代(つた奴の娘)),中北千枝子(米子(つた奴の妹)),松山なつ子(不二子(米子の娘)),杉村春子(染香(芸妓)),岡田茉莉子(なゝ子(芸妓)),泉千代(なみ江(芸妓)),賀原夏子(おとよ(つた奴の姉)),栗島すみ子(お浜(水野の女将)),宮口精二(鋸山(なみ江の伯父)),仲谷昇(佐伯(お浜の甥)),加東大介(高木(米子の前夫)),竜岡晋(村松).
夫と子供を相次いで亡くした梨花は,紹介を得て置屋の「つたの家」に住み込みの女中として入る.
つたの屋は傾きかかった置屋で,主人のつた奴の他染香,な々子,なみ江が芸妓でいるが,つた奴の出戻りの妹米子と娘勝代は無為徒食の居候である.
つた奴は腹違いの姉おとよに借金を抱える.朋輩と口論の末辞めたなみ江の叔父が乗り込んできて,虐待だと因縁をつけ脅迫する.
そのそれぞれを解決する才覚もなく,ただ当面の相手を丸め込み後は人を頼ろうとするつた奴.映画は知恵もあり世間を承知している梨花の視点を中心に,つたの屋を巡る人物の浮き沈みを描いていく.
実力派女優の共演がこの映画の売りだが,2時間足らずの尺の中でそれぞれの女優が配役の個性をきっちりと描き出している点が実に見応えあり.Photo
特に印象に残るのは,杉村春子の染香と栗島すみ子のお浜であろう.
また,終盤で梨花の見守る中,連れ弾きを披露する山田五十鈴と杉村春子の三味線の技量は,誠に素晴らしい.
若き岡田茉莉子と高峰秀子の美しさも印象に残る.
この時代を代表すると同時に,よき時代の日本映画として記憶すべき映画.
★★★★(★5個が満点)
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

独断的映画感想文:フォンターナ広場 イタリアの陰謀

日記:2014年12月27日
映画「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」を見る.0
2012年.監督:マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ.
出演:ヴァレリオ・マスタンドレア(Luigi Calabresi),ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ(Giuseppe Pinelli),ミケーラ・チェスコン(Licia Pinelli),ラウラ・キアッティ(Gemma Calabresi),ルカ・ジンガレッティ(Medico del tribunale).
1969年12月,ミラノのフォンターナ広場にある農業銀行が爆破される.4
死者17人,負傷者88人の大惨事となったこの事件,当局は左翼(アナーキスト)を疑い検挙,熾烈な尋問を続ける.当時イタリアは,労働者がデモを組織して要求を強め,一方これに反発するネオファシストが組織活動を強めていた.
尋問が続く中,アナーキストの指導者・ピネッリが多数の刑事がいた部屋の窓から路上に転落・死亡する.個人的にはピネッリとの間に信頼関係を築いていたカラブレージ警視が席を外した間の出来事だった.
当局はカラブレージに全ての責任を押しつけ,警視は世論のバッシングに晒される.警視は真犯人を追及する捜査の手は緩めなかったが….
世界的に反体制運動が盛んだったこの時期は,イタリアに於いては政治的暗黒の時代だったと言われる.
左右両極は先鋭化し互いの陣営にスパイを送り込んでいた.更に当局もこれに介入し情報を得ると共に,一方の弱体化のために他方の暴走を看過する傾向があった.1
フォンターナ広場の事件はこの様な背景のもとに起き,その真相は未だに明らかでない.
逮捕されたネオファシストはその後全て無罪となり,ピネッリの死亡が結果として残った.この映画はその経過を,ドキュメンタリータッチで描いたものである.多数の関係者が登場するが,適切な字幕紹介があって混乱はしない.
テンポ良く進行する画面は緊張感を維持し,憂慮すべき終局へと進行する.社会派ドラマとして骨太の作品ながら,サスペンスとしてエンタテインメントを兼ね備えた映画らしい映画.見て損はなし.2
★★★★(★5個が満点)
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (1)

2014/12/27

独断的映画感想文:鉄くず拾いの物語

日記:2014年12月某日
映画「鉄くず拾いの物語」を見る.1
2013年.監督:ダニス・タノビッチ.
出演:セナダ・アリマノヴィッチ(Senada),ナジフ・ムジチ(Nazif),セムサ・ムジチ,サンドラ・ムジチ.
貧しい村に住むナジフの一家,可愛い2人の娘がいて,妻セナダは3人目の子を身ごもっている.ナジフは兄弟と助け合いながら鉄くず拾いをして生計を立てている.
貧しいながら穏やかで幸せな日々.ところがある日セナダの腹痛を訴える.車で街の病院に行くと,お腹の子は流産していて,手術しないと母胎も危ないと言われる.2
しかし保険証のないナジフには980マルク(500ユーロ)の医療費は払えない.分割払いを懇願したが病院は認めず,セナダはむなしく帰宅する.ナジフは必死に鉄くずを拾うが….
予備知識なく見始め,途中までこの人々がロマだということに気付かなかった(欧米人が見れば一目で分かることだろうが).
中盤でナジフがロマの協会の職員に語るシーンがあるが,4年間兵役を務めたが年金も何ももらえず,村に帰っても仕事がなく鉄くず拾いをしてしのいでいるという.
セナダのために雪の中,谷あいのゴミ捨て場から一人で鉄くずを拾い担ぎ上げるナジフの姿には,そんなことで医療費が払えるのかという疑問が湧きつつも,胸打たれるものがある.
この映画は実際に起こった事件を描いたものであり,登場人物はその事件を体験した当の本人達だ.4
この映画はベルリン国際映画祭の銀熊賞と主演男優賞を獲得,ナジフは定職と保険証を得て,3人目の子供にも恵まれたとのことだ.
決して怒ることなく,嘆きながらも諦めず人生を歩み続けるナジフ達一家に,おめでとうとありがとうを伝えたい.
★★★★(★5個が満点)
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

番外:独断的歌舞伎感想文:通し狂言伊賀越道中双六

日記:2014年12月某日
歌舞伎「通し狂言伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)五幕六場」を見る.H2612kabukihonomote028
近松半二ほか=作.国立劇場文芸研究会=補綴.
序幕 相州鎌倉・和田行家屋敷の場,二幕目 大和郡山・誉田家城中の場,三幕目 三州藤川 新関の場,同 裏手竹藪の場,四幕目 三州岡崎・山田幸兵衛住家の場,大詰 伊賀上野敵討の場.
出演:中村吉右衛門,中村歌六,中村又五郎,尾上菊之助,中村歌昇,中村種之助,中村米吉,中村隼人,嵐橘三郎,大谷桂三,,中村錦之助,中村芝雀,中村東蔵ほか.
「伊賀越道中双六」のうち,何回か見ている「沼津」を除いた通しの上演である.就中「岡崎」の場に圧倒される.
仇討ちという大望のためとは言え,初めて目にする実の我が子をひと突きに殺す政五郎の胸の内,やっと巡り会えた夫に我が子を手にかけられたお谷の驚き嘆き.
この入り組んだ設定での,吉右衛門・柴雀の緊張感溢れる芝居に強い感銘を受けた.
堂々たる大名と3枚目の道化を演じ分けた又五郎,政五郎の恩師役・歌六も素晴らしい.この通し狂言にかける意気込みと決意がみなぎる,気力充実の舞台.
米吉・隼人の若手も美しく素敵.
実に見応えある4時間半であった.
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

2014/12/12

独断的映画感想文:紙の月

日記:2014年12月某日
映画「紙の月」を見る.1
2014年.監督:吉田大八.
出演:宮沢りえ(梅澤梨花),池松壮亮(平林光太),大島優子(相川恵子),田辺誠一(梨花の夫),近藤芳正(井上),佐々木勝彦(小山内等),天光眞弓(小山内光子),中原ひとみ(名護たまえ),平祐奈(14歳の梨花),小林聡美(隅より子),石橋蓮司(平林).
梨花はわかば銀行に勤める契約社員.最近パートから昇格し,外勤で初めて国債購入を資産家の老人平林から獲得した.
夫との間に子供はなく,夫は優しいが自分の仕事に夢中.或る日偶然平林の孫・光太と出会った梨花は,誘われるまま関係を結ぶ.4
光太は父親のリストラで学資が続かず,祖父の平林は援助を断っているらしい.梨花は平林から獲得した定期の200万を横領,光太に自分の金と偽って貸してしまう….
この後は200万くらいどうにでもなる自分という虚像を光太に見せるため,次々と横領を繰り返し豪勢な遊びと買い物を繰り返す梨花だった.
映画の設定自体が小心者の自分には楽しめないものだが(見ながら早くばれろ,早く終わりにしようと思っている自分が可笑しい),俳優達の演技はそれぞれに個性的.
大島優子の調子良く小狡いOLは素のままか.
近藤芳正の中間管理職自己保身のあがきは,如何にもそれらしい.
小林聡美の揺るぎないベテラン銀行員の味は得がたいもの.5
そのなかで宮沢りえの美貌は当初如何にも違和感があるが,地味なOLだった彼女が情事と豪勢な暮らしで一瞬の輝きを放ち,そして転落していく過程は見応えがあった.
でもこの映画よりもっと彼女に向いた映画に出たら良いのに,という印象は後に残る.
★★★☆(★5個が満点)
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (1) | トラックバック (0)

2014/12/08

独断的映画感想文:パッション(2012)

日記:2014年11月某日
映画「パッション」を見る.0
2012年.監督:ブライアン・デ・パルマ.
出演:レイチェル・マクアダムス(クリスティーン),ノオミ・ラパス(イザベル),カロリーネ・ヘルフルト(ダニ),ポール・アンダーソン(ダーク),ライナー・ボック(バッハ警部),ベンジャミン・サドラー(検事),ミヒャエル・ロツショップ(イザベルの弁護士).
広告代理店のベルリン支社で働く,若くて美しいエクゼクティブ・クリスティーンは,ニューヨーク本社での出世を目指す狡猾な女性.部下のイザベルがロンドンの案件でオリジナルのアイディアでプレゼンを成功させると,その成果を横取りし,ニューヨーク復帰を果たす.
同僚ダークとの恋愛も利用してイザベルを心身共に追い詰めるクリスティーンは,しかしある夜何ものかに殺害された….2_6
おしゃれな映像が目を奪う官能サスペンス.
ブロンドのクリスティーン,黒髪のイザベル,赤毛のダニが3者3様にファッションを見せる.
しかし物語の広がりはなく,登場人物は少ないから,クリスティーンが殺されれば犯人は明らかだ.
そこに混乱を持ち込むためか主人公の悪夢が映像として混入されるので,最終局面では心理的決着のつかないまま観客は「THE END」のテロップを見ることになる(強引なテロップである).
出だしは良かったが,最後が残念な映画.1_2
★★★(★5個が満点)
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

独断的映画感想文:インターステラ-

日記:2014年12月某日
映画「インターステラ-」を見る.1
2014年.監督:クリストファー・ノーラン.
出演:クーパー(マシュー・マコノヒー),アメリア・ブランド(アン・ハサウェイ),ロミリー(デヴィッド・ジャーシー),ドイル(ウェス・ベントリー),TARSの声(ビル・アーウィン),CASEの声(ジョシュ・スチュワート),マン博士(マット・デイモン),マーフィー(マーフ)(ジェシカ・チャステイン),マーフ(幼少期)(マッケンジー・フォイ),マーフ(老年期)(エレン・バースティン),ブランド教授(マイケル・ケイン),トム(ケイシー・アフレック),トム(幼少期)(ティモシー・シャラメ),ドナルド(ジョン・リスゴー).
近未来,地球の農作物は疫病にやられて次々に枯死し,荒れた土地は砂塵に覆われ,人類は緩慢な滅亡に向かっていた.NASAのパイロットとして事故に遭い退職,以来農場で働いているクーパーも作物の枯死に直面する.2_3
新しい技術や宇宙から人類は目を背ける様になりNASAも解体,「アポロ宇宙船の月着陸はソ連を滅亡するための偽映像だった」という教科書の記述に抗議した娘のマーフィは,教師から異端視される始末だった.
そんな或る日,マーフィの部屋で怪現象が頻発,また重力の異変が近辺に現れる.重力の波動から一つの座標を読み取ったクーパーがマーフィと共に訪れたその場所は,密かに再構築されたNASAの宇宙船基地だった.
そこで元上司のブランド博士と出会ったクーパーは,土星に現れた次元の裂け目・ワームホールを経由して既に12名が人類の移住先を求めて冒険に出発,その内3地点から通信が返ってきていることを知る.ワームホールを越えその3地点へ科学者を送って欲しいと依頼されたクーパーは,マーフィの懇願を振り切って未知なる宇宙に出発する….
骨太で雄大なサイエンスフィクションを,圧倒的な映像とスリリングな展開で描ききる,クリストファー・ノーランの力業を見せつけられる作品.3
広大な宇宙を舞台に,ブラックホール近傍のウラシマ効果を織り込み,地球とは時間と空間を遙かに隔てた主人公達の絶対的な孤独と悲哀の物語は,誠に印象的だ.絶望的な状況から死力を尽くして道を切り開くクーパー達に,深い感銘を受けると同時に,地球から微かに届くマーフィの劣化した映像に涙を流すクーパーに,共感を禁じ得ない.
光瀬龍で育ち,フレデリック・ポールに影響された自分のSF魂が揺さぶられる好編.ハンス・ジマーの音楽も素晴らしい.荒涼とした宇宙の映像に加え,同じ監督の「インセプション」にもつながる5次元空間の描写も素敵.一見の価値あり.
★★★★☆(★5個が満点)
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0) | トラックバック (0)

« 2014年11月 | トップページ | 2015年1月 »