独断的映画感想文:キリマンジャロの雪
日記:2015年3月某日
映画「キリマンジャロの雪」を見る.
2011年.監督:ロベール・ゲディギャン.
出演:アリアンヌ・アスカリッド(マリ=クレール),ジャン=ピエール・ダルッサン(ミシェル),ジェラール・メイラン(ラウル),マリリン・カント(ドゥニーズ),グレゴワール・ルプランス=ランゲ(クリストフ),アナイス・ドゥムースティエ(フロ),アドリアン・ジョリヴェ(ジル),ロバンソン・ステヴナン(刑事),カロル・ロシェ(クリストフの母),ジュリー=マリー・パルマンティエ(アグネス(クリストフの隣人)),ピエール・ニネ(バーテンダー).
ヘミングウェイの名作とは無縁の別作品.
不況のマルセイユ,造船所の労組委員長ミシェルは古参の左翼だが,会社側のリストラの要求を受け入れくじ引きで20名を選出する.
自身もクジに当たってしまい退職したミシェルは,妻のマリ=クレールと共にアルバイトをしながら,孫の世話や庭の東屋の製作に精を出す.
そんな中,ミシェル夫妻の結婚30年を祝うパーティーが子供・孫,旧労組の同僚達が参加して盛大に行われ,彼等の念願だったキリマンジャロ旅行の費用と航空券がプレゼントされた.ところが数日後,義妹夫妻とブリッジを楽しんでいるところを強盗に襲われ,このプレゼントはおろかキャッシュカードまで奪われてしまう.
肩に負傷したミシェルは,ふとした機会から犯人を知ることになるが,それは同じくくじ引きでリストラされたかっての同僚・クリストフだった….
人間の哀歓を描く味わい深い映画.物語自体も意外な展開が楽しめるが,この夫妻の人生の分かち合い方も心に残る.
自宅のベランダでくつろぎながら眼下の路地を通る若いカップルに手を振るミシェル,彼等も手を振り返す.「彼等から見て僕らはどう見えるのだろう」とミシェルは妻に問いかける.
自分たち自身も徒手空拳であった若い頃,今は自分の家も持てたが決して豊かではない.しかし若い者から見れば,ゆとりある小市民に見えるのだろうか.
ミシェルのクリストフを見る目が変わっていく経過が,この様に描かれる.
マリ=クレールの気分を変えてくれる,街角の酒場のバーテンダーも味のある登場人物.
優しい気分になれる映画である.見て損はなし.
ところでミシェル達の会話に「ジョーレスならこういうときどうしたか」等と出てくるジョーレスは,第1次大戦前夜にフランスの左翼統一戦線を率いた指導者.
彼が右翼に暗殺され,フランスが一気にドイツとの戦争に雪崩れ込んでいった過程は,ロジェ・マルタン・デュ・ガールの「チボー家の人々―1914年夏」に詳しい.ジョーレスが現役で話題に登場するあたりに,ミシェル達,古参左翼の伝統が垣間見られる気がする.
★★★★(★5個が満点)
人気ブログランキングへ
コメント