独断的映画感想文:無言歌
日記:2015年5月22日
映画「無言歌」を見る.
2010年.監督:ワン・ビン.
出演:ルウ・イエ(リー・ミンハン),ヤン・ハオユー(ドン・シェンイー),シュー・ツェンツー(グー).
1960年代の中国,中国共産党は百家争鳴を唱え自由な政治論争を奨励した直後,反右派闘争を開始し,共産党の方針に批判的な発言のあった人士を逮捕,労働改造に送った.
この映画はゴビ砂漠の収容所に送られ,農地開墾に従事する政治犯等の苦境を描く.
収容者が住むのは高台の地面を掘り下げただけの壕舎,外気とはカーテン1枚のその壕舎に布団一枚で寝る.
折からの飢饉で食料にも事欠き,飢えと病気で次々に死んでいく収容者.毎朝,前夜息を引き取った者達が布団にくるまれ,手押し車に乗せられて運ばれていく.
彼等は周辺の土まんじゅうに埋葬されるのだ.
上海出身の董が病死し,その1週間後に妻が訪ねてくる.妻は収容所長の拒絶にも拘わらず,同室の収容者の協力を得てついに夫の死骸を掘り出し,荼毘に付してその骨を上海に持ち帰る.
妻に協力した同室者はその後,絶望的な逃避行に敢えて挑んで姿を消した….
物語は悲惨で舞台は砂漠の壕舎,登場人物はボロボロの衣服をまとった死に瀕した者ばかりで,映像的にはきつい場面ばかりある.
それにも拘わらずこの映画は美しく(妻が夫の墓を探しに壕舎から砂漠に出て行くときのカメラワークの素晴らしさはどうだろう),人間の尊厳への視点には共感できる.
この映画は香港・フランス・ベルギーの合作映画で,ロケ地はゴビ砂漠だが当局には別の脚本での映画と説明された.できた作品は無論中国国内では上映が許されていない.
映画の力を再確認する作品,見て損はなし.
★★★★(★5個が満点)
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