独断的映画感想文:アバウト・ア・ボーイ
日記:2015年5月10日
映画「アバウト・ア・ボーイ」を見る.
2002年.監督:ポール・ウェイツ,クリス・ワイツ.
出演:ヒュー・グラント(Will),トニ・コレット(Fiona),ニコラス・ホルト(Marcus),ヴィクトリア・スマーフィット(Suzie),レイチェル・ワイズ(Rachel),ナタリア・ガスティアン・テナ(Ellie).
Willは父の遺産で食べていける遊び人,まとまった仕事はせず女をナンパして暮らしている.
Marcusは菜食主義者でリベラリストの母Fionaに厳しく育てられ,その為学校では孤立している大人しい少年.Fionaの鬱病が悪化して自殺を図る事態となり,Marcusは偶然知り合ったWillを母親のパートナーにして母を落ち着かせようと知恵の限りを尽くすが….
ラブコメというにはちょっとだけシリアスで切ない物語.
映画ではWillのいい加減な生き方がプラスに働いてMarcusが成長していくという展開が面白い.
レイチェル・ワイズの活躍が,その美貌にも拘わらずいまいちなのが残念だが,トニー・コレットの独特の魅力が良く生かされている.
ヒュー・グラントはその風貌がこの役に見事にはまった好演で,見応えあり.後味良い佳作.
★★★☆(★5個が満点)
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コメント
この映画「アバウト・ア・ボーイ」は、人と人が接する時に感じる、内心の不安や自分の弱い部分を見透かされないだろうかという不安を、等身大の人間の姿で描いたライト・コメディの傑作だと思います。
この映画の主人公の38歳の独身男ウィル(ヒュー・グラント)は、亡くなった父親が一発ヒットさせたクリスマス・ソングの印税で優雅に暮らすリッチな身分。
一度も働いた事がなく、TVのクイズ番組とネット・サーフインで暇をつぶし、適当に付き合える相手と恋愛を楽しむ、悠々自適の日々を送っています。
ところが、情緒不安定な母親と暮らすマーカス少年(ニコラス・ホルト)との出会いが、彼の生活をかき乱していく----という、非常に興味深い設定でのドラマが展開していきます。
まさに現代ならではのテーマをうまく消化して、ユーモラスで、なおかつ、ハートウォーミングにまとめ上げた脚本が、本当にうまいなと唸らされます。
30代後半の独身男の本音と12歳の少年の本音を、それぞれ一人称で描きながら、それを巧みに交錯させていくという構成になっていて、それが、二人の男性、ウィルとマーカスがいかにして心を通わせていくのかが、このドラマに説得力を持たせる上で重要になってくるのです。
そして、これが実にうまくいっているから感心してしまいます。
表面を取り繕う事に長けたウィルは、今時の小学生が歓迎すると思われる、クールなスタイルを本能的に知っています。
マーカスはそんなウィルを慕っていきますが、それだけではなく、ウィルの人間的に未熟な部分が、結果として二人の年齢差を埋める事に繋がり、マーカスはウィルを自分の友達の延長戦上の存在として見る事が出来るようになるのです。
マーカスは彼の持つ性格的な強引さの甲斐もあって、ウィルという良き兄貴を得る事が出来、一方のウィルは、自分だけの時間にズケズケと土足で踏み込んで来たマーカスを、最初こそ煙たがっていましたが、彼と深く接していく中で、次第に"自分の人生に欠けていたもの"に気付かされていくのです。
この映画は、そんな二人の交流の進展に歩を合わせるように、"人間同士の絆や家族"といったテーマを浮き彫りにしていくのです。
日本でも最近は、"シングルライフ"というものが、新しいライフスタイルでもあるかのように市民権を得つつありますが、確かに、お金さえ払えば、ありとあらゆる娯楽やサービスが手に入る時代になって来ました。
個人が個人だけで、あたかも生きていけるというような錯覚に陥ってしまいがちな現代。
もっとも、この映画はそんな現代人に偉そうにお説教を垂れているのではなく、むしろ、大半の人間はそんな現代というものに、"不安と寂しさ"を感じ始めているのではないかと問いかけているのです。
だからこそ、この映画は多くの人々が共感を覚え、ヒットしたのだと思います。
そこにきて、ウィルを飄々と自然体で演じたヒュー・グラントという俳優の存在です。
ウィルは、ある意味、"究極の軽薄な人間"として描かれていて、本来ならば、決して共感したくないようなキャラクターのはずなのですが、ヒュー・グラントが演じると、何の嫌悪感もなく観る事が出来るので、本当に不思議な気がします。
ヒュー・グラントは、このような毒気のあるライト・コメディを演じさせれば、本当に天下一品で、彼の右に出る者などいません。
余りにも自然で、演技をしているというのを忘れさせてしまう程の素晴らしさです。
そして、困った時に見せる微妙にゆがんだ何ともいえない表情といったら、他に比べる俳優がいないくらいに、まさしくヒュー・グラントの独壇場で、もう最高としか言いようがありません。
かつての"洗練された都会的なコメディ"の帝王と言われた、ケーリー・グラントの再来だと、ヒュー・グラントが騒がれた理由が良くわかります。
この映画は、そんなヒュー・グラントの持ち味を最大限に活かして、誰もが表だっては認めたくないような人間らしさに踏み込んでみせるのです。
そして、人と人が接する時に感じる内心の不安や自分の弱い部分を見透かされないだろうかという不安を、等身大の人間の姿を通して映し出す事に成功しているのだと思います。
投稿: オーウェン | 2024/11/04 14:57