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2015年9月に作成された記事

2015/09/30

独断的映画感想文:グランド・ホテル

日記:2015年9月某日
映画「グランド・ホテル」を見る.2
1933年.監督:エドモンド・グールディング.
出演:グレタ・ガルボ(Grusinskaya),ジョーン・クロフォード(Flaemchen),ウォーレス・ビアリー(Preysing),ジョン・バリモア(Baron_Von_Gaigern),ライオネル・バリモア(Otto_Kringelein ),ルイス・ストーン(Doctor_Otternschlag).
映画における群像劇の代名詞ともなっている,古典的名作.ベルリンの高級ホテル「グランド・ホテル」での3日間の物語.
著名なバレリーナ・グルシンスカヤは,人気が凋落し絶望の淵にいる.彼女を慕うガイゲルン男爵は,賭博で借財を背負い窃盗団の一味となっている.4_2
企業家のプレイシングは事業が思わしくなく,別企業との合併話をまとめようと躍起になっている.彼に速記者として雇われたフレムヒェンは,ガイゲルン男爵に惹かれる一方,プレイシングにイギリス出張への同行を誘われていた.
プレイシングの会社で帳簿係として働いていたクリンゲラインは,不治の病を宣告され,貯めた金で最後の日々を豪奢に過ごそうとやって来た.ガイゲルン男爵やフレムヒェンの知遇を得て,初めて人生の楽しさを知る….
運命はあやなす糸の様,あるものは破滅し,あるものは新たな一歩を踏み出す.誠にホテルは人生の縮図だ.
グレタ・ガルボ,ジョーン・クロフォードの両女優が素敵,二人のバリモアが対照的な役柄を演じて印象的である.3
登場人物の運命が交錯するサスペンスフルな展開,結末で皆に送られて車で出発する者と裏口から運び出される者との対比,冒頭でお産に入ったホテルマンのカミさんが難産の末最後に元気な男の子を産むエピソードの挿入など,映画のお手本の様な名作,一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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2015/09/29

番外:独断的歌舞伎感想文 秀山祭九月大歌舞伎 夜の部

日記:2015年9月某日
歌舞伎座,秀山祭夜の部は,「通し狂言 伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」.Kabukiza_09sendaihagi
出演は〈花水橋〉:足利頼兼(梅玉),絹川谷蔵(又五郎).〈竹の間〉乳人政岡(玉三郎),沖の井(菊之助),小槙(児太郎),八汐(歌六).〈御殿〉乳人政岡(玉三郎),沖の井(菊之助),小槙(児太郎),栄御前(吉弥),八汐(歌六).〈床下〉仁木弾正(吉右衛門),荒獅子男之助(松緑).〈対決・刃傷〉仁木弾正(吉右衛門),細川勝元(染五郎),渡辺民部(歌昇),山中鹿之介(種之助),大江鬼貫(由次郎),山名宗全(友右衛門),渡辺外記左衛門(歌六).
「竹の間」までの幕を含めた通しを見るのは初めてである.
「花水橋」では又五郎の,いかにもこの人らしい型を正統に生かした見得が素晴らしい.
「竹の間」では政岡に濡れ衣を着せて罪に落とそうという八汐に対し,沖の井が火の出るような弁舌で八汐を退け,鶴千代の助けもあって政岡の防衛に成功するところは印象的.
今まで沖の井という人物像は今ひとつ判らなかったが,この場面を見ることで印象が鮮明になる.
「御殿」では極めて長い時間を取ってまま炊きを演じるが,子役達の演技と政岡の時に笑いを誘う対応もあって,全く長さを感じさせない.千松殺害の場面では,冷静と見える政岡は,千松から目をそらし舞台に背を向けている沖の井の顔を凝視していることが判る.榮御前の注視にさらされながらも,政岡は沖の井を支えに冷静を保っていることが,「竹の間」の描写を踏まえて観客には伝わってくる.
そして皆が去った後で千松の遺骸に取りすがり悲嘆にくれる政岡.玉三郎の政岡は決して強靱さを前面に出さず,むしろ情にあふれた政岡である.まま炊きでの長時間の描写が,ここでの政岡の悲しみを説得性のあるものにする.母親としての政岡の感情の爆発に,涙を禁じ得ない.
後半は吉右衛門の弾正を楽しんだ.歌六が八汐から外記左衞門に変わって奮闘するのは予想外の喜びであった.
終わって,まさにこの通し狂言に圧倒されて劇場を出る.今年の秀山祭は見応えに満ちた昼夜であった.
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番外:独断的歌舞伎感想文 秀山祭九月大歌舞伎 昼の部

日記:2015年9月某日
歌舞伎座で「秀山祭九月大歌舞伎 昼の部」を見る.Kabukiza_201509ffl
「一、双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 新清水浮無瀬の場」.
出演:南与兵衛(梅玉),藤屋吾妻(芝雀),平岡郷左衛門(松江),太鼓持佐渡七(宗之助),堤藤内(隼人),手代権九郎(松之助),三原有右衛門(錦吾),山崎屋与五郎(錦之助),藤屋都(魁春).
いつも見る相撲場から始まる物語のこれが前段.与五郎が身請け寸前の吾妻に比べ,落ちぶれた与兵衛が間夫の都の方が不幸に見えるが,引き窓では都は既に与兵衛に身請けされ,両名名前を変えて濡れ髪長五郎を迎えることになる(吾妻と与五郎は相変わらず).魁春・錦之助の吾妻・与五郎が良かった.
「二、新歌舞伎十八番の内 紅葉狩(もみじがり)」.
出演:更科姫実は戸隠山の鬼女(染五郎),局田毎(高麗蔵),侍女野菊(米吉),山神(金太郎),従者左源太(廣太郎),従者右源太(亀寿),平維茂(松緑).
次女は米吉の他久しぶりの柴のぶが美しい.10才の金太郎が溌剌と踊る山神が素敵だったが,後はやや退屈.
「三、競伊勢物語(だてくらべいせものがたり) 序幕 奈良街道茶店の場,同 玉水渕の場,大詰 春日野小由住居の場,同 奥座敷の場」.
出演:紀有常(吉右衛門),絹売豆四郎/在原業平(染五郎),娘信夫/井筒姫(菊之助),絹売お崎(米吉),同 お谷(児太郎),旅人倅春太郎(初お目見得井上公春(桂三長男)),およね(歌女之丞),川島典膳(橘三郎),茶亭五作(桂三),銅羅の鐃八(又五郎),母小由(東蔵).
無茶苦茶な悲劇である.何と言っても昔馴染みの老婆のもとに入り込み,20年前預けた実の娘とその夫を,主筋の身代わりにする為,その場で斬って首を挙げるという,非道の物語.観客に納得させるのも難しいだろう.2時間という枠はこれでも足りなかったのではないかと感じさせる.
東蔵と吉右衛門がその物語の主筋を担って奮闘名演.又,菊之助の信夫が悲劇のヒロインにふさわしい演技で胸を打たれた.吉右衛門が演ずる紀有常は常人とは思えない役柄であるが,それでも最後に慟哭する場面では涙を誘われる.この狂言の難しさを感じざるを得ない.
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2015/09/28

独断的映画感想文:セッション

日記:2015年9月某日
映画「セッション」を見る.2
2014年.監督:デイミアン・チャゼル.
出演:マイルズ・テラー(Andrew),J・K・シモンズ(Fletcher),ポール・ライザー(Jim),メリッサ・ブノワ(Nicole),オースティン・ストウェル(Ryan),ネイト・ラング(Carl).
ドラマーとしての成功を夢見て全米でも一流のシェイファー音楽院に入学したアンドリュー.ある夜フレッチャー教授が彼の練習スタジオに顔を出す.
数日後,アンドリューの属するグループのレッスンに顔を出したフレッチャーは,全員の音をチェックした後,アンドリューに自分の指導するバンドに移る様命じた.4
その初日,異常な緊張で始まるレッスン,新人ドラマーとして紹介されたアンドリューは,フレッチャーから演奏を楽しめと優しく声をかけられるが,その直後から凄まじいフレッチャーのしごきが始まる….
自分の思い通りのスタープレイヤーを生み出すことに執念をかけるフレッチャーと,フレッチャーを倒してでもスターへの道を歩もうとするアンドリューの,狂気じみた闘いを描く映画.
この映画は,ジャズを楽しむ映画でもなければ,スター誕生映画でもない.両者の凄まじい闘いを描くサスペンスと言って良い.3
しかしそれにも係わらず,最終局面での「キャラバン」の演奏の迫力は胸に迫る.最高のパフォーマンスによって生み出された音楽が,両者に一瞬の共感をもたらしたからである.
ここでの選曲が,ドラムソロからスタートしドラムスが曲を支配する「キャラバン」であることは,誠にこの場面にふさわしい.
ところで,アンドリューが目標とするバディ・リッチのビッグバンドの来日演奏を,僕はNHKの白黒TVで見た記憶がある.1
最後の曲のドラムソロで,彼はこの映画であったように左のスティックを取り落とした.しかしすぐに拾い上げ,更に火の出るようなソロを叩きまくった.映画のアンドリューの「キャラバン」を見て,僕はその時のバディ・リッチを思い出したのだった.
アンドリュー役のマイルズ・テラー,フレッチャー役のJ・K・シモンズは共に最高の演技,一見の価値ある映画.
★★★★(★5個が満点)
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2015/09/27

独断的映画感想文:ゴーン・ガール

日記:2015年9月某日
映画「ゴーン・ガール」を見る.0
2014年.監督:デヴィッド・フィンチャー.
出演:ベン・アフレック(Nick Dunne),ロザムンド・パイク(Amy Dunne),ニール・パトリック・ハリス(Desi Collings),タイラー・ペリー(Tanner Bolt),キャリー・クーン(Margo Dunne),キム・ディケンス(Detective Rhonda Boney).
ミズーリ州の田舎町で双子の妹マーゴとバーを経営するニック,結婚5周年の記念日に妻エイミーは姿を消す.
すぐに警察に届けたニックだが,家には争った後,キッチンからはエイミーの大量の血痕が出て,ニックは窮地に.全米のメディアはニック犯行説を採って連日ニックの疑惑を煽り立てる….
この後事件はエイミーのニックを陥れようという偽装だったことが(観客には)明らかになる一方,ニックも敏腕弁護士を雇って反撃に出る.1
ニック対行方不明のエイミーの争闘は,偶然の出来事をきっかけに思いがけない展開を遂げる….
不安を煽るミステリーにかけては第一人者の監督が,仮面夫婦の軋轢を巡るミステリを描く.
この映画では凡庸な夫ニックを手玉に取るエイミー役の,ロザムンド・パイクが見応えあり.
エイミーの犯行は突っ込みどころ満載で,実際は妊娠していなかったことや,以前の恋人・デジーの行動とエイミー自身の供述の矛盾は,いずれ警察の知るところとなる筈.
しかしそれよりも怖いのは,これらの犯行を重ねた挙げ句に,ニックをコントロールし,仮面夫婦を続けようとするエイミーの恐ろしさであろう.4
その顛末は一見の価値あり.併せて描かれるメディアの恐ろしさにも皆様ご用心を.
★★★☆(★5個が満点)
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2015/09/13

独断的映画感想文:東京家族

日記:2015年9月7日(月)
映画「東京家族」を見る.1
2012年.監督:山田洋次.
出演:橋爪功(平山周吉),吉行和子(平山とみこ),西村雅彦(平山幸一),夏川結衣(平山文子),中嶋朋子(金井滋子),林家正蔵(金井庫造),妻夫木聡(平山昌次),蒼井優(間宮紀子),小林稔侍(沼田三平),風吹ジュン(かよ),茅島成美(服部京子).
ネタバレです,ご注意下さい.3_2
小津安二郎監督の「東京物語」のリメイクと言って良い作品.物語りもほぼ東京物語の通り進んでいく.
瀬戸内海の小島に住む平山周吉・とみこ夫妻は,子供達の住む東京を訪れる.
開業医として郊外に住む幸一家族,美容室を下町で営む滋子夫婦,末の昌次は舞台美術の仕事をしているが,未だ定職は持てない.
幸一の家に着いた日は家族が集まってすき焼きを楽しむが,翌日幸一一家とドライブに出かける予定が患者急変で取り消し,滋子の家に行くが滋子も忙しく…と,この辺は東京物語とほぼ一緒.4
豪華ホテルの宿泊をプレゼントされながら一日で切り上げてしまった周吉達は行き所を失い,周吉は昔の友人と共に亡き友のお悔やみに行きその後痛飲,とみこは昌次の下宿に泊まりに行き,思いがけずその恋人紀子を紹介される.
周吉は融通の利かない教員を勤め上げた身,幸一・滋子は独力で東京での今日を築いたと思われる.周吉と幸一・滋子の間は,思い通りに成功した者に対するものとしてはいかにもぎごちない.
一方昌次は,周吉には「何とか楽をして生きていこうと思っているんじゃろう」と決めつけられ辟易するが,とみこには甘え,又思い切って紀子を紹介する等,いかにも通常の親子にありそうな心温まる展開を見せる.
この映画は,東京物語と小津安二郎へのオマージュとしての位置づけがメインだが,周吉と幸一・滋子の昭和の建前を前面に押し出した生き方に対し,昌次・紀子の真情溢れる生き方を対置した映画でもある.
昌次・紀子のとみこの死に対し悲嘆にくれる姿は,観客の心を打つだろう.2
最終局面で,周吉が紀子を受け入れ,間接的に昌次との和解を示唆するシーンは感動的である(これは僕が昌次に共感する次男であるからとも思えるが).
映画の出来は素晴らしく,東京物語と対比しながら楽しむのにふさわしい作品.
★★★★(★5個が満点)
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