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2015年11月に作成された記事

2015/11/29

番外:独断的歌舞伎感想文 11月 実盛物語/若き日の信長/御所五郎蔵

日記:2015年11月某日
歌舞伎「吉例顔見世大歌舞伎 十一世市川團十郎五十年祭」を見る.Kabukiza_201511ffl_6c8eb4209bae96f8
「源平布引滝 一、実盛物語(さねもりものがたり)」.
出演:斎藤実盛(染五郎),瀬尾十郎(亀鶴),郎党(廣太郎),郎党(廣松),九郎助(松之助),葵御前(児太郎),小万(秀太郎).
染五郎の実盛に迫力は感じられず,退屈で何度も寝た.亀鶴の瀬尾十郎は口跡良く,太郎吉に討たれる場面は素晴らしかったが,実盛が退屈では芝居として楽しめない.
「二、若き日の信長(わかきひののぶなが)」.
出演:織田上総之介信長(海老蔵),弥生(孝太郎),五郎右衛門(亀寿),監物(九團次),甚左衛門(廣松),林美作守(市蔵),僧覚円(右之助),木下藤吉郎(松緑),平手中務政秀(左團次).
物語としてどうなっているんだろうというところが幾つかある.最初から敵と通じていることが判っている林美作守は結局どうなったのか.2幕目の幕切れもなんだか良く分からず,謀反人の娘弥生は処断されるのかされないのか,誠にあいまいなまま幕が下がってしまった.
この芝居の真骨頂は,厭戦派・籠城派の宿老達による小田原評定を尻目に,出陣を宣言した信長が舞う「敦盛」の舞の前に,続々と集結してくる若武者達の緊迫と高揚にある.
このシーンを最大限生かす為には,未だ工夫が必要な気がする.音響効果的には,弥生の打つ鼓はもう少し響いて欲しいところ.
「三、曽我綉俠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ) 御所五郎蔵」.
出演:御所五郎蔵(菊五郎),星影土右衛門(左團次),傾城逢州(孝太郎),梶原平蔵(松江),新貝荒蔵(亀寿),秩父重介(廣太郎),二宮太郎次(宗之助),花形屋吾助(橘太郎),傾城皐月(魁春),甲屋与五郎(仁左衛門).
この芝居の難しいところは,主人公の御所五郎蔵が本来素寒貧のパッパラパーなので,それを演じる役者によって全く味が変わってしまうこと.菊五郎の御所五郎蔵は,さすがにこの役の悲劇性を見事に表現していた.孝太郎の傾城逢州も素晴らしい.
しかし1幕目の七五調の台詞の応酬は,単調で寝てしまった.仁左衛門が出て目が覚めた.

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独断的映画感想文:柘榴坂の仇討

日記:2015年11月某日
映画「柘榴坂の仇討」を見る.1
2014年.監督:若松節朗.
出演:中井貴一(志村金吾),阿部寛(佐橋十兵衛(直吉)),広末涼子(志村セツ),高嶋政宏(内藤新之助),真飛聖(マサ),中村吉右衛門(井伊直弼),吉田栄作(財部豊穂),堂珍嘉邦(稲葉修衛門),近江陽一郎(志村覚馬),木崎ゆりあ(ユキ),藤竜也(秋元和衛).
彦根藩士志村金吾は,藩主の近習に取り立てられ嫁を貰い家督を相続,これからというとき安政7年3月3日の桜田門外ノ変に遭遇する.
家康下賜の槍を奪った水戸藩士を追って彼が切り結んでいた間に,直弼は討たれた.事件後両親は自死,金吾は切腹を許されず,加害者水戸藩士の首を討つ様下命を受ける.以来13年,廃藩置県で彦根藩が消滅した後,なお金吾は逃亡を続ける佐橋十兵衛を追うが….
時代劇は好き,特に阿部寛が出る時代劇は,彼が仕掛け人藤枝梅安シリーズの小杉十五郎を演じて以来大好き.
本作は中井貴一・阿部寛・広末涼子・中村吉右衛門を見る映画と言って過言ではない.
中井貴一は円熟のうまさ,激しい感情をうちに秘め不条理な運命を甘受する武士を演じて過不足無し.阿部寛はその体躯を生かした寡黙な演技が好ましい.2
広末涼子は独特なオーラある眼の演技に打たれる.こんなに理屈抜きに印象に残る演技ってなかなか無いのではないか.
吉右衛門の井伊直弼は,映画の基調を作った演技と言える.この直弼があって,志村金吾は13年間の苦難を耐えられたのだ.それを観客に納得させる吉右衛門の直弼は素晴らしい.3
ラストはいささか甘い結末となったが,まあ浅田次郎の書くことなのでしょうがありません.個人的には好きな映画でした.★★★☆(★5個が満点)
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2015/11/24

独断的映画感想文:百円の恋

日記:2015年11月某日
映画「百円の恋」を見る.0
2014年.監督:武正晴.
出演:安藤サクラ(斎藤一子),新井浩文(狩野祐二),稲川実代子(母・斎藤佳子),早織(斎藤二三子),宇野祥平(岡野),坂田聡(野間),沖田裕樹(佐田),吉村界人(西村),松浦慎一郎(トレーナー・小林),伊藤洋三郎(父・斎藤隆夫),重松収(木下会長),根岸季衣(池内).
短大を出たままひきこもりの無為な生活をしてきた一子は32歳,妹が離婚し子連れで帰ってきたが折り合いは最悪,遂に生まれて初めての自活をすることになる.
100円コンビニショップで深夜勤の職にありつくが,店員は皆病んだ人ばかり.一子の密かな楽しみは,近所のボクシングジムで練習に励む狩野祐二を見ることだった.2
いつしか彼との交友が始まりデートもする.狩野の最後の試合のチケットを貰い,同僚の病的なおしゃべり野間と観戦に行くが,狩野は敢えなくノックアウト,その夜狩野の慰労会を開いたはずが狩野は姿を消し,一子は野間に処女を奪われる羽目に.
一子は狩野が辞めたボクシングジムに通い練習に励むが….
第1回「松田優作賞」グランプリ脚本を,オーディションに合格した安藤サクラ等をキャストに映画化した純正映画作品.
映画の前半,二重あごで膨れあがった胴回りをボリボリ掻く一子の自堕落ぶりは圧巻である.
その一子が意外な純情ぶりを発揮するロマンス,それの無残な破綻からボクシングへののめり込みへと展開し,一気にクライマックスへ雪崩れ込む脚本が見事.またそれを体現した安藤サクラの熱演が凄い.1
終盤の試合のシーンはまさに手に汗握り,一子の痛み・恐怖・怒りを目の当たりにするカメラワークは目を見張る.映画の最後で,一子が狩野に手を引かれながらおいおいと泣くシーンは,涙を禁じ得ない.
今の日本に極めて希な映画らしい映画,一見の価値あり.
★★★★☆(★5個で満点)
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番外:独断的歌舞伎感想文 神霊矢口渡

日記:2015年11月某日
国立劇場で,歌舞伎「神霊矢口渡」を見る.H2711shinreihonomote2
序幕:東海道焼餅坂の場,二幕目:由良兵庫之助新邸の場,三幕目:生麦村道念庵室の場,大詰:頓兵衛住家の場.
出演:中村吉右衛門,中村歌六,中村又五郎,中村歌昇,中村種之助,中村米吉,嵐橘三郎,大谷桂三,中村錦之助,中村芝雀,中村東蔵.
新田義貞の子義興が矢口渡の合戦で無念の最期を遂げた後,家老の由良兵庫之助は新田を見限り足利に従い,一方その妻湊は義興の御台所筑波御前を守り,義興の嫡子徳寿丸は南瀬六郎が守ってそれぞれ足利による落人狩りから逃亡している.
期せずして兵庫之助の館で出会った一同に新田の落人詮議の代官犬伏が加わり,思いがけない展開が引き起こされる….
平賀源内脚本の,当時の江戸事情を反映した全4幕からなる通し狂言だが,前2幕と後2幕の関係がはっきりしないのが問題点.
吉右衛門が主演し最大の悲劇が語られる前2幕で一旦物語は完結,後の2幕は主人公も変わり展開もいささか冗長で,構成としてはバランスが悪い.もう少し練り直す必要あり.
一方役者はそれぞれに見応えがある.前半,吉右衛門の由良兵庫は,泣き笑いの幕切れの名演に胸を打たれた.歌六の江田判官,又五郎の南瀬六郎も素晴らしい.
後半では芝雀が全編を引っ張り熱演,若手の米吉・種之助がすっきりした演技で印象的だった.錦之助は前半後半通してきっちり仕事をした.歌舞伎界のユーティリティプレイヤーの面目躍如である.
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2015/11/20

独断的映画感想文:オール・ユー・ニード・イズ・キル

2015年11月某日
映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」を見る.0
2014年.監督:ダグ・リーマン.
出演:トム・クルーズ(Cage),エミリー・ブラント(Rita),ビル・パクストン(Master Sergeant Farell),キック・ガリー(Griff),ドラゴミール・ムルジッチ(Kuntz),シャーロット・ライリー(Nance),ジャナス・アームストロング(Skinner),フランツ・ドラメー(Ford),ブレンダン・グリーソン(General Brigham).
近未来,地球は宇宙生物の侵略を受ける.欧州大陸中央は席巻され壊滅,人類は絶滅の危機に立つ.
この時,ヴェルダンで敵に打撃を与えた特殊部隊のRitaを中心に大陸反攻を計る統合軍は,広報担当少佐Cageに前線からの中継を命じる.7
Cageは実戦経験がゼロ,前線行きを逃れる為将軍を恫喝した為,逃亡罪と見なされ新兵に格下げの上訓練基地から前線に送られる.
前線には敵が待ち伏せ,味方は全滅に追い込まれる中,Cageは偶然の一撃で敵のアルファと呼ばれる個体を倒すが,自らも殺される.ところが次の瞬間Cageは新兵訓練基地に戻っていた….
この後彼は,幾度も戦場に送られ殺され基地で目覚めというループを繰り返すが,記憶は維持されていた.
次第に学習していくCage,戦場でRitaと巡り会うが彼女も戦死してしまう.ところが幾度目かのループでRitaと会ったCageに,彼女は「次に目覚めたら、私に会いに来て」と囁いて戦死する.4
次のループで基地のRitaにようやく会えたCageは,彼女もアルファを倒しその血を浴びたループの経験者だと知る.彼女は300回ほどのループで学習し最強の戦士となったが,負傷し輸血を受けた為今は自らはループ能力を失っている.
二人はCageがループするまでの短い時間を使って,敵を倒す方法を開発しようと必死の闘いを挑んでいくが….
桜坂洋のSF『All You Need Is Kill』の映画化,原作は未読.
いかにもSFらしいプロットをみっちりと映像化した好編,いとも軽々と繰り返される主人公2人の死が特徴的だ.
例えば戦闘訓練中Cageが負傷すると,Ritaは「リセット」と称して即座にCageを射殺してしまう.負傷からの回復を待っている暇がRitaには無いからだ.
数え切れないほど繰り返されるループの中で彼等は前線を突破し,敵の中枢があるパリの一角を突き止めるが,いかにそこにアタックをかけるのか.1
突っ込みどころは幾つもあるが,それに気付かないうちに最後まで一気に見れる作品.トム・クルーズ,エミリー・ブラント共に魅力的で好演,見て損はなし.
★★★★(★5個が満点)
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番外:独断的歌舞伎感想文 ワンピース

日記:2015年11月某日
スーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」を見る.Shinbashi_20151011fb2
出演:ルフィ/ハンコック/シャンクス(市川猿之助),白ひげ(市川右近),ゾロ/ボン・クレー/スクアード(坂東巳之助),サンジ/イナズマ(中村隼人),ナミ/サンダーソニア(市川春猿),はっちゃん/戦桃丸(市川弘太郎),アバロ・ピサロ(市川寿猿),ベラドンナ(坂東竹三郎),ニョン婆(市川笑三郎),ジンベエ/黒ひげ(ティーチ)(市川猿弥),ニコ・ロビン/マリーゴールド(市川笑也),マゼラン(市川男女蔵),つる(市川門之助),エース(福士誠治),ブルック/赤犬サカズキ(嘉島典俊),レイリー/イワンコフ/センゴク(浅野和之).
原作は全く案内のないコミック,果たして歌舞伎になるのだろうかという心配を他所に,実に楽しい舞台であった.
今までのスーパー歌舞伎の財産を思いっきり使ったスピーディーかつダイナミックな舞台の展開に魅了される.
剣戟あり宙乗りあり本水ありのサービス満点,何より主人公ルフィを演じる猿之助の,子供の様に明るいはちゃめちゃさが魅力的だ.
やたらと登場人物が多く,しかも一人が何役も演じるので誰が誰やら判らないのが,誰が演じているのかが重要な歌舞伎ファンとしてはちょっと困るところ.
しかしそんなことと別に舞台は楽しく,客席と一体になった乗りの良さは(恐らく大勢のリピーターが来ているのであろう)心が浮き浮きしてくる様だ.
これもまた歌舞伎だ,と納得させる猿之助のどこまでも拡がる発想が印象的な一夜だった.
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2015/11/01

独断的映画感想文:岸辺の旅

日記:2015年10月某日
映画「岸辺の旅」を見る.1
2015年.監督:黒沢清.脚本:宇治田隆史・黒沢清.原作:湯本香樹実:(「岸辺の旅」(文春文庫刊)).
出演:深津絵里(薮内瑞希),浅野忠信(薮内優介),小松政夫(島影),村岡希美(フジエ),奥貫薫(星谷薫),赤堀雅秋(タカシ),蒼井優(松崎朋子),首藤康之(瑞希の父),柄本明(星谷).
藪内瑞希はピアノ講師をしている.
3年前夫の歯科医・優介は精神を病んで失踪し,瑞希は今ようやく立ち直って一人暮らしをしている.そこにある晩帰ってきた優介,「俺死んだよ」と言う優介の誘いで二人は翌日旅に出ることになる….6
優介が世話になった人々を訪ねる形で紹介される4つのエピソード.いずれもこの世(此岸)から離れられない死者,死者を忘れ得ない生者の執念が織りなす物語だ.そのなかで瑞希は今まで知らなかった優介の一面を知ることになるが,別れの時は近づいてきていた….
死者がこの世に出てくる為には,大変なエネルギーを必要とするらしい.ある種の怨念がそのエネルギーの源泉だ.7
この4つのエピソードでは,いずれも優介と瑞希の存在があって,死者達はその怨念に決着をつけ,この世から姿を消す.これらの死者達との交流を通じて,優介と瑞希の間の生前には得られなかった理解が進むというのが,この映画の構造だ.
しかし皮肉なことに,優介と瑞希の理解が進めば進むほど,優介がこの世にいられる為のエネルギーは尽きていくことになる.そして遂に別れを迎えるときが来る….
深津絵里が,夫への葛藤と深い愛情を心に抱えた瑞希を演じて,素晴らしい.瑞希と対面する僅かなシーンの登場だが,蒼井優にも凄みがあった.8
浅野忠信はいつも通りの怪演.
黒澤監督がこの映画を作るについては,映画の構造と黒澤監督本来の個性との相性が,いささか気にかかった.その点で評価が難しい映画かも知れない.
★★★(★5個が満点)
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