独断的映画感想文:岸辺の旅
日記:2015年10月某日
映画「岸辺の旅」を見る.
2015年.監督:黒沢清.脚本:宇治田隆史・黒沢清.原作:湯本香樹実:(「岸辺の旅」(文春文庫刊)).
出演:深津絵里(薮内瑞希),浅野忠信(薮内優介),小松政夫(島影),村岡希美(フジエ),奥貫薫(星谷薫),赤堀雅秋(タカシ),蒼井優(松崎朋子),首藤康之(瑞希の父),柄本明(星谷).
藪内瑞希はピアノ講師をしている.
3年前夫の歯科医・優介は精神を病んで失踪し,瑞希は今ようやく立ち直って一人暮らしをしている.そこにある晩帰ってきた優介,「俺死んだよ」と言う優介の誘いで二人は翌日旅に出ることになる….
優介が世話になった人々を訪ねる形で紹介される4つのエピソード.いずれもこの世(此岸)から離れられない死者,死者を忘れ得ない生者の執念が織りなす物語だ.そのなかで瑞希は今まで知らなかった優介の一面を知ることになるが,別れの時は近づいてきていた….
死者がこの世に出てくる為には,大変なエネルギーを必要とするらしい.ある種の怨念がそのエネルギーの源泉だ.
この4つのエピソードでは,いずれも優介と瑞希の存在があって,死者達はその怨念に決着をつけ,この世から姿を消す.これらの死者達との交流を通じて,優介と瑞希の間の生前には得られなかった理解が進むというのが,この映画の構造だ.
しかし皮肉なことに,優介と瑞希の理解が進めば進むほど,優介がこの世にいられる為のエネルギーは尽きていくことになる.そして遂に別れを迎えるときが来る….
深津絵里が,夫への葛藤と深い愛情を心に抱えた瑞希を演じて,素晴らしい.瑞希と対面する僅かなシーンの登場だが,蒼井優にも凄みがあった.
浅野忠信はいつも通りの怪演.
黒澤監督がこの映画を作るについては,映画の構造と黒澤監督本来の個性との相性が,いささか気にかかった.その点で評価が難しい映画かも知れない.
★★★(★5個が満点)
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