独断的映画感想文:この世界の片隅に
日記:2016年12月6日
テアトル東京で映画「この世界の片隅に」を見る.
2016年.監督:片渕須直.原作:こうの史代,企画:丸山正雄,プロデューサー:真木太郎.
出演(声):のん(北條すず(旧姓:浦野)),尾身美詞(黒村径子),細谷佳正(北條周作),稲葉菜月(黒村晴美),牛山茂(北條円太郎),新谷真弓(北條サン).
昭和10年,北条すず10歳の時から始まる物語.
広島市江波で海苔梳きを営む北条家の長女すずは,自らぼーっとしたところがあると言う心優しい絵の上手な子供.両親,祖母,兄妹と共にすくすくと育つ.
19歳の時,幼い頃出会って以来彼女を想っていた北条周作に結婚を申し込まれ,呉市郊外の北条家に嫁ぐ.戦時下で青年男子が招集され,物資がどんどん無くなっていく中,嫁として懸命の働きを続ける.
聯合艦隊の拠点である呉には空襲が集中し,周囲の人々は次々に戦傷に倒れ,やがてすず自身も義姉の娘・晴美と共に,義父を見舞いに行った広島で空爆に会う….
素晴らしい映画である.
戦時下の市民の生活を総体としてここまでリアルに描くことができたのは,アニメーションならではというのは,逆説的だが真実である.
戦時下の市井の暮らしは,人々の働き方は,こうだったのかと様々な場面で納得がいく.戦時下の市民をどういう悲劇がどのように襲うのかという描写も身に迫るものだ.
のん始め声優陣もしっかりした仕事ぶり.
リアルな描写の一方,アニメらしいユーモアも随所にある.何も考えずに呉軍港の軍艦を写生していたすずが,憲兵に「間諜」と疑われ散々叱責される場面,同席していた義母・義姉が真っ赤な顔をして震えていたのは,余りに間抜けで居丈高な憲兵の説教に笑うのを必死に堪えていたからだというシーンが可笑しい.
日経ビジネスオンラインの記事(映画「この世界の片隅に」に勝算はあった?)によると,この映画は2010年に構想が生まれ,2012年に製作発表.2015年にパイロットフィルムを作成する資金を得る為クラウドファンディングを行い,同年パイロットフィルム完成.
このパイロットフィルムの内容とクラウドファンディングの成功から資金が集まり,今回の完成に至ったと言う.そういう経緯も素晴らしい.
この原作者のコミックの映画化は,「夕凪の街 桜の国」以来2作目.原作者の力も大いに感じる映画の出来であった.
★★★★☆(★5個が満点)
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