独断的映画感想文:消えた声が、その名を呼ぶ
日記:2017年10月某日
映画「消えた声が、その名を呼ぶ」を見る.
2014年.監督:ファティ・アキン.
出演:タハール・ラヒム(ナザレット・マヌギアン),シモン・アブカリアン(クリコル),マクラム・J・フーリ(オマル・ナスレディン),モーリッツ・ブライブトロイ(ピーター・エデルマン),トリーヌ・ディルホム(孤児院院長),アルシネ・カンジアン(ナカシアン夫人).
1915年,第1次大戦中のオスマントルコ領マンデル.
アルメニア人の鍛冶職人ナザレットは,妻と双子の娘と共に貧しいながら幸せな暮らしを営んでいた.ところがある夜,突然憲兵隊に連行されたナザレットは,灼熱の砂漠での強制労働に処せられた.
翌年,従事していたアルメニア人全員が岩山に連行され,首を切られて処刑される.ナザレットを処刑した男アフメッドがためらったため,ナザレットは奇跡的に命を取り止めるが,声を失った.
夜になって救いに来たアフメッドと共に逃避行を続けるナザレット,二人は脱走兵の一群に救われ,ナザレットは家族が送られたというラス・アルアインのキャンプに向かう.地獄の様なキャンプで出会った義姉は,家族は全て殺されたといって息絶える.
ナザレットは石けん製造業者に拾われ,そこで働くうちに大戦の終結を迎える.或る日,チャプリンの映画会で出会った故郷の男は,彼に娘達の生存を伝えた….
トルコの過去の恥部を描いた作品だが,トルコを非難する映画ではない.監督の視線はこの虐殺事件を題材にしつつ,ナザレットの運命,彼と神の関係,娘とのドラマに注がれている.
アルメニア人はキリスト教徒だが,ナザレットは自身の過酷な運命に耐えかねて神を捨てる.ラス・アルアインのキャンプで瀕死の義姉は彼に自分を殺してくれと頼み,彼はそれを実行したのだが,この時点で彼は神を捨てたと考えられる.
その後娘が生存していると判明しても,彼は神を許さない.娘に会うためには,如何なる悪事もためらわないナザレットを,観客は見るであろう.
ラストシーンで何も表明することなく去って行くナザレットは,逆にこの物語の結論を観客に求めているかの様だ.
人間の繰り返す,救いようのない悲惨を描くある種の寓話と言える映画.低く響き続ける音楽が印象的.
★★★★(★5個が満点)
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