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2018/06/12

独断的映画感想文:万引き家族

日記:2018年6月某日
映画「万引き家族」を見る.1
2018年.監督:是枝裕和.音楽:細野晴臣.
出演:リリー・フランキー(柴田治),安藤サクラ(柴田信代),松岡茉優(柴田亜紀),池松壮亮(4番さん),城桧吏(柴田祥太),佐々木みゆ(ゆり),緒形直人(柴田譲),森口瑤子(柴田葉子),山田裕貴(北条保),片山萌美(北条希),柄本明(川戸頼次),高良健吾(前園巧),池脇千鶴(宮部希衣),樹木希林(柴田初枝).2
映画の冒頭,柴田治と祥太がスーパーマーケット内を歩きながら万引きをする.目的の品をゲットし,地元の商店街に戻ってコロッケを購入する2人.
ところがその帰り道,虐待されマンションのベランダに放置されたゆりを見つけ,連れ帰ることにする.家に帰ると「家族」は夕飯の最中だ.3
初枝の家に住む信代・治の夫婦,孫の亜紀・祥太はいずれも血のつながりのない他人同士.生活は初枝の僅かな年金と信代・治のパートの給料,後は万引きでまかなっている.そこにゆりも加え,6人となる「家族」の物語.
信代はクリーニング工場のバイト,治は建築現場の補助作業員で働き,亜紀はファッションヘルスでバイトをしている.祥太(10歳前後?)は学校に通わず自宅で自学自習し,出かけては万引きをする.ゆり(5歳前後?)は祥太について万引きを習得しつつ,次第に「家族」に心を開いていく….
映画はこの「家族」の日常を淡々と描写しつつ,如何にこの「家族」が形成されていったかを次第に明らかにしていく.成員のそれぞれは深い傷を抱え,この「家族」に転がり込んできた.その結果形成された「家族」は,強い絆を持つに至る.その絆が表現される海水浴のシーンは,その前段のゆりの水着の万引きシーンと併せ,何と明るく楽しいことだろう.4
しかしこの後,家族の絆は破綻していくことになる.エピローグでの治と祥太の別離のシーンには,涙を禁じ得ない.万引きという手段で支えられた「家族」は,祥太の成長と正義感の目覚めと共に,瓦解せざるを得なかったのか.
自分が印象的だったのは,幾つかの「涙」の場面.
信代とゆりが初めて一緒に入浴し,信代の腕の傷跡をゆりがさわる.アイロンで火傷したのだと信代が言い,ゆりは自分もそうだと腕の火傷跡を示す.その後縁側でゆりを抱いて花火を見上げる信代,ゆりが信代の頬をさする.信代が涙を流しているのだ.
あるいは亜紀が自分の顧客「4番さん」とトークプレイをするシーン.取り止めもない話を一方的に亜紀がするが,「4番さん」は無言のまま.プレイ時間が終了して亜紀の膝枕から起き上がる「4番さん」,亜紀の膝に涙が残る.5
そして信代が刑事の取り調べを受けるシーン.子供達は信代を母と呼んでいたのかと問われ,信代ははぐらかす様に手で顔をこすり続ける.しかしやがて,隠しようもなく滂沱と流れる涙.
それぞれ「家族」・「絆」という命題に対する,監督のメッセージが示されているようだ.
映画は緊張感高くしかし楽しく進行する.俳優の活躍は(子役含めて)期待通り.リリー・フランキーは明るく気弱な小悪党を,安藤サクラは現代の日本の母性を体現したような演技.
樹木希林の演技は,社会に対してはしたたかに生きつつ「家族」に対しては何処までも優しい,昭和的な母性を見る様だ.6_2
細野晴臣の音楽も印象的.
パルムドールに相応しい,見応えのある映画.監督・キャスト・スタッフの出会いと,この映画に結実した力量が素晴らしい.
★★★★☆(★5個が満点)
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» 『万引き家族』 インビジブル ピープルを巡って [映画のブログ]
 【ネタバレ注意】  「血のつながりについて、社会について、正しさについて、10年くらい自分なりに考えて来たことを全部この作品に込めようと、そんな覚悟で臨んでいます。」  『万引き家族』の制作に当たって、是枝裕和監督は語った。  たしかに、『万引き家族』にはこれまで是枝監督が考えてきたこと、過去の作品で描いてきたことが詰め込まれ、同監督の集大成といえる。  本作が描くのは、小...... [続きを読む]

受信: 2018/06/16 07:27

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