独断的映画感想文:モリのいる場所
日記:2018年5月某日
映画「モリのいる場所」を見る.
2017年.監督:沖田修一.
出演:山崎努(熊谷守一),樹木希林(熊谷秀子),加瀬亮(藤田武),吉村界人(鹿島公平),光石研(朝比奈),青木崇高(岩谷),吹越満(水島),池谷のぶえ(美恵ちゃん),きたろう(荒木),林与一(昭和天皇),三上博史(知らない男).
映画冒頭は,熊谷守一の作品を眺めている昭和天皇のアップ.「この絵は何歳の子供が書いたのか」とのご下問あり侍従が困惑している.
映画は自宅の庭から外には一歩も出ずに30年間を暮らしているモリこと熊谷守一と,その妻秀子の飄々とした生活を描く.庭の草花,虫,蛙,トカゲ,自らが掘った池の魚たちを観察し共に生きそして共に昼寝するモリ.一方夜になると秀子に「学校の時間ですよ」とアトリエに追いやられ,創作に向き合う羽目になる.
モリの家には来客が多く,書の依頼者や写真家・藤田も出入りする.自宅の表札はモリが自作するためしょっちゅう盗まれる.世の中の時間とは無縁のモリの家のようだが,日照を大幅に遮るかたちで隣接地にマンションが建ちつつある….
青春映画というカテゴリーがあるとすれば,この様な映画は白秋映画か玄冬映画と言うべきなのだろうか.
山崎努と樹木希林は文学座の先輩・後輩ではあるが,共演はこれが初めてだそうな.
この二人の息のあった演技がとにかく見もの.食事中やにわにモリがウィンナソーセージを食べる前にペンチで潰す,その瞬間布巾をさっと掲げて飛び散る油を防ぐ秀子.あるいは文化勲章内定を告げてきた電話に出た秀子が,来客が増えるのは嫌だというモリの対応に即座に「要らないと言ってます」と告げて切ってしまうシーン.両者の間がまさに絶妙である.
共演も達者揃いで安心して映画を見ることが出来る.
こういう老境なら是非なって見たいと思わせる,ほんわか映画.終盤で,新設なった隣地のマンションの屋上に上がった藤田が俯瞰するモリの家と庭,以外と狭い庭(敷地は80坪程度らしい)の片隅に潜むモリを縁側から秀子が呼んでいる.何となく胸を突かれるラストシーン.
★★★★(★5個が満点)
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