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2019年9月に作成された記事

2019/09/23

番外:独断的歌舞伎感想文 秀山祭九月大歌舞伎昼の部 極付幡随長兵衛/お祭り/沼津

日記:2019年9月某日
歌舞伎座で秀山祭九月大歌舞伎 昼の部を見る.Kabukiza_1909_h_6a5eab113e35d5e99ca09f43
「河竹黙阿弥作 一、極付幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべえ) 「公平法問諍」」.出演:幡随院長兵衛(幸四郎),水野十郎左衛門(松緑),唐犬権兵衛(錦之助),長兵衛女房お時(雀右衛門).「二、お祭り(おまつり)」.出演:鳶頭(梅玉),芸者(魁春),芸者(梅枝).「三世中村歌六 百回忌追善狂言:伊賀越道中双六 三、沼津(ぬまづ)」.出演:呉服屋十兵衛(吉右衛門),平作娘お米(雀右衛門),池添孫八(錦之助),旅人夫(歌昇),旅人女房(種之助),初お目見得:旅人倅(小川綜真(歌昇長男)),茶屋娘おくる(米吉),荷持安兵衛(又五郎),雲助平作(歌六).
「極付幡随長兵衛」は,劇中劇「公平法問諍」が面白い.こっちの配役も結構豪華.幸四郎の幡随長兵衛はやや貫禄不足.ある日突然に水野の屋敷に死にに行くと言う幡随長兵衛の言葉を周囲が受け入れるのも,とにかくこの人のカリスマ的偉さがあるからで,そこが足りないと,みすみす水野の屋敷に行くのを何故止めないのか,不思議な感じになる.Numazu
最後は無事吉右衛門が病休から復帰した「沼津」.この芝居は,通し狂言「伊賀越道中双六」全体の複雑な構成が頭に入っていないと,理解し難い.最近は同じ狂言の岡崎を共通する配役で何度か見ているので,話がこんがらかって困った.吉右衛門,雀右衛門,歌六の芝居はさすがに隙がなく,高い緊張感で終始する.実に見応えあり.
あいだの「お祭り」は息抜きにぴったりのくだけた踊り.
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2019/09/22

独断的映画感想文:女王陛下のお気に入り

日記:2019年9月某日
映画「女王陛下のお気に入り」をみる.1_20190925181501 2018年.監督:ヨルゴス・ランティモス.
出演:オリヴィア・コールマン(アン女王),エマ・ストーン(アビゲイル・ヒル),レイチェル・ワイズ(レディ・サラ),ニコラス・ホルト(ロバート・ハーリー),ジョー・アルウィン(サミュエル・マシャム),マーク・ゲイティス(モールバラ公(ジョン・チャーチル)),ジェームズ・スミス(ゴドルフィン).5_20190925181501 18世紀初頭・アン女王の治世,イギリスがフランスとの戦争状態にあった時代.実父に賭博のかたでドイツ人に売られたアビゲイルは,従姉妹のレディ・サラのもとに転げ込み女中として採用される.レディ・サラ・モールバラはアン女王の同窓生,頭脳明晰で判断力抜群,アン女王の信頼厚くイングランドの政策は実質彼女が背負っていた.夫のモールバラ公はフランス遠征軍の指揮官である.
アビゲイルはレディ・サラの侍女として薬草の知識で女王の痛風の治療に貢献,女王の信頼を得る.更にアビゲイルは,本を探しに忍び込んだレディ・サラの自室で,サラと女王の愛を交わす現場を目撃してしまう….3_20190925181501 女王とその寵愛を争う女性2人の息詰まるやり取りを描く英国時代劇.といっても描写は極めて現代的で,女王へのアプローチに失敗したアビゲイルが「くそっ(FUCK)」と連呼しながら王宮の廊下を歩いて行くシーンには笑ってしまう.
サラとアビゲイルの確執には,スペイン継承戦争の行方とホイッグ党・トーリー党の政権争いも絡み,絶対君主・アン女王のむら気と病勢も影響して,その決着は予断を許さない.2_20190925181501 映画は冷静沈着なサラと,激しい感情と強気を前面に押し出すアビゲイルの,対照的な描写が面白い.一方で生まれた全ての子(17人)を失った女王の哀しみと,そこにアビゲイルがつけ込むシーンも心に残る.また,個性的な音楽と暗鬱なイングランドの自然描写も印象的.
まあ,日本では天皇や将軍の性生活や欠点を描く映画を作る自由は事実上ないことを考えると,こういう映画にはことさら魅力を感じるのだろうか.★★★★(★5個が満点).
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2019/09/17

独断的映画感想文:ドッグマン

日記:2019年9月某日
ヒューマントラストシネマ渋谷で映画「ドッグマン」をみる.1_20190917201501
2018年.監督:マッテオ・ガローネ.
出演:マルチェロ・フォンテ(マルチェロ),エドアルド・ペッシェ(シモーネ),アダモ・ディオニージ(フランコ),アリダ・カラブリア(アリダ),ラウラ・ピッツィラーニ(元妻).2_20190917201501
イタリアのうらぶれた海辺の町で,犬のトリミングサロンを営んでいるマルチェロ.別れた妻との関係はまずまずで,一人娘のアリダをこよなく愛している.腕も良く,町の人とも良好な関係だが,町のごろつきシモネとは腐れ縁が続いている.小柄で気弱なマルチェロは,圧倒的なシモネの暴力に屈服して,たびたび悪事を手伝わされていた.
ある日シモネが,マルチェロの店から壁越しに隣の貴金属商・フランコの店に押し込もうと言い出す.全てを失うことになると必死で反対するマルチェロ,しかしシモネの暴力に止むなく店の鍵を渡してしまう.フランコの店は襲われマルチェロは逮捕されるが….4_20190917201501
何とも不条理でやるせない男の物語.シモネは町中の嫌われ者,彼にひどい目に会わされたスロットマシン屋の親父は殺し屋を雇おうとまで言い出すのだが,マルチェロは賛否も明らかにせず黙ったまま.
如何に圧倒的な暴力性があろうと,相手はマフィア組織ではなく一人のごろつきに過ぎない,自身と家族を守るためにはもうちょっと何とかならないのだろうか.そういう観客の思いとは裏腹に,マルチェロは只ひたすら屈従する.6_20190917201501
物語の進行と共に,マルチェロはシモネの幼馴染みでは?という感じもしてくるのだ.マルチェロはシモネにヤクを融通しているが,自分だって勿論ヤクをやる.シモネに無理矢理泥棒の手助けを強要されるが,その分け前も(少ないが)しっかりもらっている.シモネと付き合っているといいこともある,そういう関係が少年の頃からできているのではないか.そこにマルチェロの狡さも感じられ,話はますます救いがない.5_20190917201501
映画は演出,カメラ,音楽,そして主演:マルチェロ・フォンテの演技を挙げて,この救いの無さを見事に描いている.予告編を見てスカッとするエンディングを予想していたが,果たしてそうなるかどうか,それもお楽しみ.印象に残る映画.★★★★(★5個が満点).
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2019/09/15

番外:独断的歌舞伎感想文 秀山祭九月大歌舞伎夜の部 寺子屋/勧進帳/松浦の太鼓

日記:2019年9月某日
歌舞伎座で秀山祭九月大歌舞伎 夜の部を見る.Img_20190915_211142
「菅原伝授手習鑑 一、寺子屋(てらこや)」.出演:松王丸(吉右衛門),園生の前(福助),千代(菊之助),菅秀才(丑之助),戸浪(児太郎),春藤玄蕃(又五郎),武部源蔵(幸四郎).「二、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)」.出演:武蔵坊弁慶(仁左衛門),源義経(孝太郎),富樫左衛門(幸四郎).三世中村歌六 百回忌追善狂言「三、秀山十種の内 松浦の太鼓(まつうらのたいこ)」.出演:松浦鎮信(歌六),大高源吾(又五郎),お縫(米吉),宝井其角(東蔵).Terakoya
寺子屋は,吉右衛門の圧倒的迫力と緩急泣き笑いの自在な芝居が,まことに印象的.菊之助も子を失った母の悲哀が胸に迫る素晴らしい演技.又五郎も良かった(どうも又五郎が玄蕃をやるとあまり悪人に見えないが).
仁左衛門の勧進帳は2008年4月以来である(この時は富樫:勘三郎,義経:玉三郎).本日もメリハリがあって丁寧な芝居,しかし眼力は凄い.孝太郎の義経が対照的な動かぬ演技で良かった.Kanjincho
この後が松浦の太鼓で,ここは歌六の松浦公がおかしみのある余裕の演技で素敵だった.1時間越えの芝居が3本続くとさすがに見ている方も疲れるが,さすがに見応えある秀山祭.
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2019/09/08

独断的映画感想文:ガーンジー島の読書会の秘密

日記:2019年9月某日
TOHO日比谷シャンテで「ガーンジー島の読書会の秘密」を見る.1_20190908212601 2018年.監督:マイク・ニューウェル.
出演:リリー・ジェームズ(ジュリエット・アシュトン),ミキール・ハースマン(ドーシー・アダムズ),グレン・パウエル(マーク・レイノルズ),ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ(エリザベス・マッケンナ),キャサリン・パーキンソン(アイソラ・プリビー),マシュー・グード(シドニー・スターク),トム・コートネイ(エベ・ラムジー),ペネロープ・ウィルトン(アメリア・モーグリー).2_20190908212601 1946年,大戦の傷跡も未だ癒えないロンドン.作家ジュリエットは或る日,英国王室属領・ガーンジー島で読書会をしているダーシーという男から手紙を受け取る.手紙は,ガーンジー島には本屋が無く,彼が手に入れた古本の見返しに住所・氏名をサインしていたジュリエットに,ロンドンの本屋の紹介を依頼してきたものだった.3_20190908212601 興味を引かれたジュリエットはダーシーと文通を始める.ガーンジー島は大戦中ナチに占領され,島民は苦しい生活を強いられた.「ガーンジー読書とポテトピールパイの会」は貴重な憩いの場だったという.作品の方向性に悩んでいたジュリエットは,この読書会に取材して記事をタイムズに発表しようと考え,ガーンジー島に向かう.
ジュリエットは島のモーグリー宅で開かれた読書会に迎えられ,皆とうち解けるが,取材結果をタイムズに掲載したいという希望は,断固拒否される.またメンバーの内エリザベスという若い女性は不在で,ダーシーをパパと呼ぶモーグリー宅の少女キットは,エリザベスの子だとジュリエットは知ることになる.4_20190908212601 ジュリエットはエリザベス不在の理由を調べるため滞在を続け,島の新聞社のアーカイブを調べ島民に質問をする.その結果戦争末期にエリザベスはドイツ軍に逮捕され,大陸に連行されたと分かる.ジュリエットは婚約者で米軍将校のマークに,エリザベスの行方を調査依頼するが….
映画の舞台ガーンジー島はイギリス海峡サン・マロ湾にあり,フランス本土から50km足らずのところにある美しい島.また背景となる読書会は,本を朗読したり,感想を発表したり,それを巡る議論を交わしたりという会で,「ガーンジー読書とポテトピールパイの会」でも5名の年齢性別様々な参加者が熱い議論を交わす様子が描かれる.5_20190908212601 物語はジュリエットの調査を通じ,大戦中の災厄と人々が味わった辛酸を一つまた一つと明らかにしてゆき,自らも大戦で両親を亡くしているジュリエットがそのことに心を動かされていく経過が印象的だ.俳優ではジュリエット役のリリー・ジェームズが美しく魅力的,またアメリア・モーグリー役のペネロープ・ウィルトンの演技が素晴らしい.6_20190908212601 戦争の傷跡を描いたこの映画は,また一つの恋の物語でもある.舞台・背景含めて映画としての魅力充分,見応えあり.★★★★(★5個が満点).
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