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2021年3月に作成された記事

2021/03/28

独断的映画感想文:パリの家族たち

日記:2021年3月某日
映画「パリの家族たち」を見る.1_20210405223301 2018年.監督:マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール.
出演:オドレイ・フルーロ(アンヌ),クロチルド・クロ(ダフネ),オリヴィア・コート(ナタリー),パスカル・アルビロ(イザベル),ジャンヌ・ローザ(ブランシュ),カルメン・マウラ(テレーズ),ニコール・ガルシア(アリアン),ヴァンサン・ドゥディエンヌ(スタン),マリー=クリスティーヌ・バロー(ジャクリーヌ),パスカル・ドゥモロン(ジャック),ギュスタヴ・ケルヴェン(グレゴワール),ノエミ・メルラン(ココ),グザヴィエ・マリー(シャルル),ロリータ・シャマー(ドミニク),メディ・ブディナ(フレッド).2_20210405223301 母と子どもたちの関係を描く群像劇.
ダフネ,ナタリー,イザベルは3人姉妹.母ジャクリーヌは詩人だが認知症が進んでいて,娘たちはその世話に困惑し,また必ずしも良き母親ではなかった彼女に反発している.ダフネはインタビュアーでシングルマザー.娘は思春期になりかかり,息子はまだ幼い.2人の世話はナニーのテレーズが親身に見ているが,テレーズは実は初の女性フランス大統領アンヌの母親である.
ナタリーは大学教授,母性への反発を隠さず,自身は教え子のフレッドとの恋愛を楽しんでいる.イザベルは医者で養子を迎えることを考えている.3_20210405223301 フレッドの通うタップダンス教室には,舞台女優マリアンが脳梗塞後のリハビリを兼ねて通っている.その息子のスタンはカフェを営むが,母が心配で過剰に母に干渉する一方,恋人のココが妊娠しているのにも気が付かない.
ココが働いている花屋は叔父のジャックが店主,ジャックは死んだ母親の強い影響を自覚しつつ,ゲイである自分をなかなか正当化できない.
大統領アンヌは任期中に出産をし3か月の愛児を育てているが,大統領の立場に自信を失いかけている….8_20210405224001
出だしは大勢の登場人物の物語が一斉に進行し始め混乱しがちな群像劇だが,嫌いではない.慣れてくるといろいろな場面で行き交う登場人物たちの関係もわかってきて,がぜん面白くなってくる.
本作はテンポも良く,それぞれの登場人物への目配りもバランスよい.何よりメインのテーマの母子関係の様々なありようが興味深い.映画を通じて各登場人物は,何らかの形で母子関係の悩みを一歩前進させるヒントをつかむようだ.
終盤,母の日に国民向けに単独インタビューに応じる決断をしたアンヌが,ダフネの問いに,母として自信をもって再選に臨むと答えるシーンが印象的だ.5_20210405223301
★★★★(★5個が満点)
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2021/03/25

番外:独断的歌舞伎感想文 猿若江戸の初櫓/戻駕色相肩

日記:2021年3月某日
三月大歌舞伎第1部を見る.Photo_20210805143401
田中青滋 作.「一、猿若江戸の初櫓(さるわかえどのはつやぐら)」.出演:猿若(勘九郎),出雲の阿国(七之助),若衆(宗之助),若衆(男寅),若衆(虎之介),若衆(千之助),若衆(玉太郎),若衆(鶴松),福富屋女房ふく(高麗蔵),福富屋万兵衛(彌十郎),奉行板倉勝重(扇雀).「二、戻駕色相肩(もどりかごいろにあいかた)」.出演:浪花の次郎作(松緑),禿たより(莟玉),吾妻の与四郎(愛之助).
猿若江戸の初櫓は,一座が京の都から江戸に来て旗揚げをする物語の舞踊,勘九郎の表桁踊りは健在,若衆を踊る若手の男寅,虎之介,千之助,玉太郎,鶴松を見比べるのが楽しい,みな踊りが達者で何より.
戻駕色相肩は,過去歌舞伎座で2回見ているがいずれも松緑が出ている.一昨年は浅草公会堂で見て,禿は今回と同じ莟玉(当時は梅丸).踊りも素敵だが,駕籠かきの両名が実は石川五右衛門と真柴久吉というオチがつき,第3部の楼門五三桐と呼応する趣向も面白い.楽しかった.
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2021/03/22

独断的映画感想文:1917 命をかけた伝令

日記:2021年3月某日
映画「1917 命をかけた伝令」を見る.1917-1 2019年.監督:サム・メンデス.
出演:ジョージ・マッケイ(ウィリアム・スコフィールド),ディーン=チャールズ・チャップマン(トム・ブレイク),マーク・ストロング(スミス大尉),リチャード・マッデン(ジョセフ・ブレイク),コリン・ファース(エリンモア将軍),ベネディクト・カンバーバッチ(マッケンジー大佐).
1917年4月の西部戦線,ドイツ軍は撤退し英軍は追撃戦を仕掛ける.第2大隊の1600名は翌朝攻撃開始の予定だが,空軍偵察でドイツ軍の撤退は計画的で,第2大隊の行く手には強力な防衛線が待ち構えていることが判明する.1917-6 通信手段のない中,エリンモア将軍はトムとスコフィールドの2名の上等兵を伝令とし,直接大隊長に攻撃中止の将軍命令を伝えるよう命じる.第2大隊にはトムの兄ジョゼフ中尉がいた.2人は塹壕から出て無人地帯を突破,トラップの仕掛けられているドイツ軍の放棄塹壕を辛くも抜けて,第2大隊の布陣する森を目指すが….1917-4 驚くべき映画である.脚本は,第1次大戦で英軍の伝令兵として従軍した監督の祖父:アルフレッド・メンデスの回想に基づく.
その映画をサム・メンデスは,全編ほぼワンカットと見える映画として作り上げた.そのため伝令2人の1昼夜の行動を描くこの物語を,観客はリアルタイムの,その場にいる者の体験として見ることができる.1917-5 死屍累々たる戦場の残酷さと同時に,凄惨な戦場であるが故に作られる兵士の信頼と友情も,この映画は見事に描いている.全編,一時も目を離すことのできない緊張感あふれる作品.1917-2 主演:ジョージ・マッケイの演技も素晴らしい.すべてが終わった後のエピローグで,初めて家族の写真を取り出し見入るスコフィールドの雰囲気が味わい深い.★★★★☆(★5個が満点).1917-3 にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ

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2021/03/21

番外:独断的歌舞伎感想文 時今也桔梗旗揚

日記:2021年3月某日
国立劇場で「時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ) 三幕」を見る.R0303kabuki_flyer2_f
四世鶴屋南北=作,中村吉右衛門=監修,国立劇場美術係=美術.「序幕 饗応の場,二幕目 本能寺馬盥の場,大詰 愛宕山連歌の場」.出演:武智光秀(尾上菊之助),小田春永(坂東彦三郎),光秀妻皐月(中村梅枝),森蘭丸(中村萬太郎),光秀妹桔梗(坂東新悟),森力丸(中村鷹之資),山口玄蕃(中村吉之丞),住職日和上人(片岡亀蔵),連歌師宇野丈巴(河原崎権十郎),安田作兵衛(中村又五郎).
冒頭に「入門 歌舞伎の“明智光秀”」ご案内:片岡亀蔵.
この芝居は2014年に松緑の光秀・梅枝の桔梗で見たのが良かった.今回は菊之助が吉右衛門監修の芝居をきっちりやって,声など別人のようである(吉右衛門の声色ではないかと思うほど).菊之助の2枚目ぶりとまだぴったり来ない感じがあり,また何年か経って見てみたい.幕切れの光秀の哄笑も,彦三郎の春永が大音声で怒鳴りまくったせいか,ややそれに負けていた印象もあり.
でもこの芝居はやはり好きな芝居.
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2021/03/16

独断的映画感想文:永遠の門 ゴッホの見た未来

日記:2021年3月某日
映画「永遠の門 ゴッホの見た未来」を見る.1_20210316214801
2018年.監督:ジュリアン・シュナーベル.
出演:ウィレム・デフォー(フィンセント・ファン・ゴッホ),ルパート・フレンド(テオ・ファン・ゴッホ),マッツ・ミケルセン(聖職者),マチュー・アマルリック(ポール・ガシェ医師),エマニュエル・セニエ(ジヌー夫人),オスカー・アイザック(ポール・ゴーギャン).
パリで弟テオの支援のもと画家として制作に励むゴッホ.しかしパリでの画家同士の付き合いも彼には苦痛で,パリの寒さも身体を蝕む.唯一親交を得たゴーギャンは,彼に南の太陽を求めてアルルに行けと勧める.2_20210316214801
アルルに居を構えたゴッホは,アルルの風景に癒されるが,地元の人間とは衝突が絶えない.そこに待ち兼ねたゴーギャンがやってきて,二人は情熱的な交友と画作に没頭する.しかしゴーギャンも地元の人間関係に悩まされ,パリで一定の評価を得たことでアルルを離れることになる.絶望したゴッホは自らの耳を切り,病院に収容された….3_20210316214801
ゴッホは子供の時から好きである.1957年公開の監督:ヴィンセント・ミネリ・主演:カーク・ダグラスの「炎の人ゴッホ」の予告編を見た記憶があるが,この映画は怖いシーンがある(多分耳切りのことだろう)ということで,親に見せてもらえなかった.
本作の特徴は,ゴッホの主観に極力寄り添った映像・描写の映画であることだ.そのため手持ちカメラの手振れ映像や画面の下半分がぼやけたシーン(意図は良く判らないがゴッホの視点なのだろう)が多用されて,悩まされる.画面の人物が喋っているとは思えない幻聴のような声も聞こえて,見ているシーンが現実なのかどうか判らなくなる場面も多い.5_20210316214801
それにもかかわらずこの映画は,自身の画家としての才能にゆるぎない信念を持ち,一方で意図せざる意識の混乱に恐れを抱くゴッホの心情を,まざまざと描写して誠に感銘的だ.
サン=レミ療養所での療養を終えた時,聖職者と交わした長い会話も印象深い.画家になる前は父のあとを継いで牧師でもあったゴッホは,問われるまま,神は自分を送る時代を間違えたのだと言う.神に間違いがあるのかと問い返す聖職者に対し,ゴッホは自分は未来の人々のために絵を描いているのではないか,と答える.この映画はこういう点では,ある種のファンタジーかもしれない(例えば,ゴッホ自身の人間的不品行については全く触れられていない).4_20210316214801
それでも映画として一見の価値あり,見て後悔なし.俳優はウィレム・デフォーがさすがの好演,彼を看取ったガシェ医師役のマチュー・アマルリック(この人も007からコメディまでいろいろな映画で会う)が魅力的だった.
★★★★☆(★5個が満点)
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2021/03/12

番外:独断的歌舞伎感想文:熊谷陣屋/直侍

日記:2021年3月某日
歌舞伎座「3月大歌舞伎第2部」を見る.Kabukiza2103_h_442c35dd1b8cff4d088af0dc0
「一、 一谷嫩軍記 熊谷陣屋(くまがいじんや)」.熊谷次郎直実(仁左衛門),源義経(錦之助),熊谷妻相模(孝太郎),梶原平次景高(松之助),堤軍次(坂東亀蔵),藤の方(門之助),白毫弥陀六実は弥平兵衛宗清(歌六).河竹黙阿弥 作.「二、雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち) 直侍-浄瑠璃『忍逢春雪解』-」.出演:片岡直次郎(菊五郎),三千歳(時蔵),寮番喜兵衛(橘三郎),亭主仁八(橘太郎),暗闇の丑松(團蔵),按摩丈賀(東蔵).
第2部は,3時間の間にこの時代物と世話物の名狂言を見せる濃厚な舞台.しかも片や仁左衛門の熊谷,此方は菊五郎の直侍と役者が揃って,誠に見応えあり.
熊谷陣屋は主演仁左衛門は無論のこと,共演の錦之助,孝太郎,歌六らも趣深く素晴らしい.いつもこの悲劇を見て思うのだが,一子を身替りに殺されたうえ熊谷に後は頼むと出て行かれる相模が,あまりに可哀そう.
直侍も役者が揃っている.菊五郎の直侍は天保の時代の無頼漢はかくあったろうと思わせる.蕎麦屋,按摩,丑松もそれぞれ役にピッタリだし,新造で出ている京妙と時蔵の花魁の対比も鮮やかで,味わい深い.この芝居を見ると,熱燗でそばが食べたくなる.
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2021/03/07

独断的映画感想文:スキャンダル

日記:2021年3月某日
映画「スキャンダル」を見る.6_20210310184001
2019年.監督:ジェイ・ローチ.
出演:シャーリーズ・セロン(メーガン・ケリー),ニコール・キッドマン(グレッチェン・カールソン),マーゴット・ロビー(ケイラ・ポスピシル),ジョン・リスゴー(ロジャー・エイルズ),マルコム・マクダウェル(ルパート・マードック).2_20210310184001
事実に基づく映画.トランプが大統領選出馬を目指していた2016年,フォックスニュースの人気キャスター:メーガン・ケリーは,CEOロジャー・エイルズの支持のもとトランプともやりあっていた.一方先輩キャスターのグレッチェン・カールソンは,ロジャーのセクハラを拒否したため朝のメインキャスターを降板させられ,昼の番組のアンカーとなっている.
グレッチェンの下にいたケイラは彼女に見切りを付け,ロジャーと会うチャンスを探る.しかしロジャーと会ったケイラは,「忠誠心」のためと称しスカートをたくし上げるよう命じられる.1_20210310184001
グレッチェンはやがてクビを宣告され,弁護士に相談の上ロジャーをセクハラで提訴する.社内は騒然となり,ロジャーを支持するTシャツが配られる中,メーガンは沈黙を守り続けた….
米国民にはこのフォックスニュースのスキャンダルは,既に報道を通じて充分知られていることなのだろうが,白紙の状態で見る自分には冒頭はやや判りにくい.しかしテンポよく進む物語の進展にぐいぐい引き込まれる.4_20210310184001
なんといってもシャーリーズ・セロンをはじめとする俳優の必要にして充分な演技が素晴らしい.勧善懲悪に単純化されない,女性キャスター・スタッフたちの確執や心理的動揺が,結果の判っている物語を面白くしている.メーガン自身,ロジャーにセクハラを受けつつも,ロジャーに抜擢され政治的危機に際し強くバックアップされたことを回想している.
見ごたえのある映画であり,エンターテインメント.★★★★(★5個が満点).5_20210310184001
蛇足:フォックス会長ルパート・マードックを演じるマルコム・マクダウェルは,1968年の名画「if もしも…」で主役のやんちゃ高校生を演じた人.その面影が窺えて懐かしい.
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2021/03/02

独断的映画感想文:サウダーヂ

日記:2021年3月某日
映画「サウダーヂ」を見る.1_20210310195901
2011年.監督・脚本:富田克也.
出演:鷹野毅(堀精司),伊藤仁(保坂ビン),田我流(天野猛),ディーチャイ・パウイーナ(ミャオ),尾崎愛(まひる),工藤千枝(堀恵子),デニス・オリヴェイラ・デ・ハマツ(デニス),イエダ・デ・アルメイダ・ハマツ(ピンキー).4_20210310195901
不況下の甲府市.土方一筋に生きてきた精司は,タイパブのホステス・ミャオに入れあげている.精司の現場には,タイ帰りのビンちゃんがいる.
新しく派遣されてきた猛はヒップホップグループ・アーミービレッジのヴォーカル,精司やビンちゃんと行ったタイパブにはなじめない.市内に住むブラジル人らのヒップホップグループ・スモールパークとライブでやり合うが,ブラジル人たちのノリにはかなわない.猛は外国人を敵視するようになり,ライブで歌う内容も過激になっていく.3_20210310195901
猛の元恋人・まひるは口先だけのLove & Peaceをスローガンにイベントを企画する女性,彼女が主催するブラジル人たちとの共演ライブの夜が迫ってきた….
映画制作集団「空族」の作品,DVD等のソフトにはなっておらず劇場でしか見ることはできない.今回は日本映画専門チャンネルの空族特集の放映で見た.5_20210310195901
甲府を舞台とした群像劇だが,土方の一群,ブラジル人グループ,タイパブの女性たち,猛の家族,ヒップホップグループと登場人物が多い割には,話が明快で判り易い.2_20210310195901
不況がじわじわ進む中,刹那的な歓楽に喜びを得る者たちの一方で,敵意を膨らませる猛たち.167分の長尺ながら緊張感が維持され,長さを感じない.猛のとった行動,精司の見た一瞬の幻が重なっていく終盤は,印象深かった.
映画らしい映画,見応えあり.★★★★(★5個が満点)
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