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2021年4月に作成された記事

2021/04/30

独断的映画感想文:プライベート・ウォー

日記:2021年4月某日
映画「プライベート・ウォー」を見る.1_20210502165501
2018年.監督:マシュー・ハイネマン.
出演:ロザムンド・パイク(メリー・コルヴィン),ジェイミー・ドーナン(ポール・コンロイ),トム・ホランダー(ショーン・ライアン),スタンリー・トゥッチ(トニー・ショウ).2_20210502165501
映画の冒頭,果てしなく続く廃墟の街の俯瞰.
メリー・コルヴィンはロンドンに本拠を置くサンデータイムズの記者,戦場取材を専門とする.2001年,スリランカのタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)の取材時に,政府軍の攻撃に巻き込まれ負傷,左目を失明する.以来彼女は,左目にアイパッチをつけるようになる.
2003年,イラクに入国した彼女は,カメラマン・ポールとチームを組み,米軍の庇護下を離れ独自の取材を行う.イラク軍の検問をかいくぐり,フセインに殺され埋められた人々の亡骸の発掘現場を取材する.4_20210502165501
2011年には内戦下のリビアに渡り,ポールと共にカダフィ大佐のインタビューに成功,その後殺害されたカダフィの遺体の置かれた現場も取材する.2012年,内戦中のシリアにポールと共に入国,2月21日政府軍包囲下のホムスで,反政府勢力側からの現場レポートの世界中継に成功するが….
どう目すべき戦場ジャーナリスト:メリー・コルヴィンの活動を描く.3_20210502165501
彼女の活動のすばらしさは,命をかけて戦場のただなかに飛び込むことだけでなく,そこで出会った人々にに勇気をもって厳しい質問をぶつけることだ.LTTEの指導者には,LTTEの支援物質横領の疑いについて切り込む.カダフィ大佐には反対派市民の大量殺害について追及する.
一方で,映画は彼女がPTSD(心的外傷後ストレス障害)で苦しむ姿,アルコールと煙草への耽溺,一夜限りのセックスをも描く.もがき苦しみながらも戦争の報道に命をかけるメリー・コルヴィンを,ロザムンド・パイクが好演.5_20210502165501
映画の冒頭に描かれる廃墟は,ホムスの市街であった.そしてそれは彼女の終焉の地でもある.政府軍の攻撃に倒れた彼女の亡骸から引いていくカメラが,冒頭と同じ映像につながるラスト・シーンは印象的.重い映画だが一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点).
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2021/04/26

独断的映画感想文:パーフェクト・センス

日記:2021年4月某日
映画「パーフェクト・センス」を見る.0_20210428200201
2011年.監督:デヴィッド・マッケンジー.
出演:ユアン・マクレガー(マイケル),エヴァ・グリーン(スーザン),ユエン・ブレムナー(ジェームズ),スティーヴン・ディレイン(スティーブン).
感染症学者のスーザン,恋に破れ荒れているさなか,奇病の患者が運ばれる.突然襲う悲嘆の発作のあと,嗅覚が無くなったと言う.同症状の患者が散発,感染症が疑われたがその証拠はない.やがてスーザン自身を襲う悲哀の発作,顔見知りのシェフ:マイケルに助けられるが,翌朝嗅覚は失われていた.2_20210428200201
その現象は世界中同時に発現し,マイケルは嗅覚に依存しないメニューの開発に忙殺される.やがて全人類を飢えの発作が同時に襲う.手当たり次第に身近にある食糧食材をむさぼった後では,全ての人の味覚が失われていた.この危機の中で恋に落ちたスーザンとマイケル,しかしその後怒りの発作が人類を襲う.スーザンに悪罵の限りを投げつけたマイケル,しかしその直後人々は聴覚を失う….
2011年の作品だが,コロナ禍の真っただ中にいる我々には極めてリアルなSF映画.まるで黙示録が現実化したような災厄が,人類に次々と襲い掛かる.マイケルとスーザンの恋が一方の軸とはなっているが,それとて物語の進展の前には何の力もない.1_20210428200201
当初一時的に嗅覚が失われたと理解されていた災いが,味覚そして聴覚と進むにつれ,絶望的雰囲気が社会を覆っていく.すでに聴覚を失った二人が,視覚を失う前兆として現れた至福の思い,全てを許し愛を渇望する思いに促され,互いを死に物狂いで探し合う終盤のシーンが印象的だ.3_20210428200201
何の罪でかはわからないが,人類は滅びるのだろう.しかし視覚を失う直前にお互いを抱きしめた二人は,そこで至高のものを得たのだろうか.今の状況下で心に残る作品,見て損は無し.
★★★★(★5個が満点).
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2021/04/25

独断的映画感想文:15年後のラブソング

日記:2021年4月25某日
映画「15年後のラブソング」を見る.1_20210501174201
2018年.監督:ジェシー・ペレッツ.
出演:ローズ・バーン(アニー・プラット),イーサン・ホーク(タッカー・クロウ),クリス・オダウド(ダンカン・トムソン),アジー・ロバートソン(ジャクソン).
映画の冒頭は,SNS上の動画で熱弁をふるうダンカンの画像,アルバム「ジュリエット」を残し90年代に突然表舞台から消えたロックシンガー:タッカー・クロウへの熱い思いを語る.4_20210501174201
アニーは港町サンドクリフに住む30代後半の女性,母は早くに失い,父亡きあとは彼が残した町の博物館を切り盛りし妹を養育してきた.今は大学講師ダンカンと暮らし,恋多きレズビアンの妹は博物館を手伝っている.
ある日ダンカン宛に「ジュリエット」のデモテープの音源が送られてくる.開けて先に聞いてしまったアニー,ダンカンはそのデモテープを傑作と評し自身が主催するファンサイトに書き込むが,アニーは正規のアルバムよりデモテープが良い訳はないというまっとうな評をファンサイトに書き込み,ダンカンと衝突する.ところがある日アニー宛に「君の方が正しい.ファンサイトの奴らはいかれてる」というメールが来る.メールの主はタッカー・クロウ本人だった….3_20210501174201
この後ダンカンは新しい同僚の若い女性と浮気してアニーに家を追い出され,一方タッカーは母親の違う5人の子どものうちロンドンに住むリンジーが出産するというので,アメリカから末っ子のジャクソンを連れてロンドンにやってくる.ところが軽い心臓発作を起こしたタッカーは,退院後ジャクソンと共にサンドクリフのアニーのもとに転げ込む.ダンカンはタッカーと海岸で偶然出会うが,妄想に凝り固まったファンとしてダンカンはタッカーの現在を容認できない…というラブコメディ.5_20210501174201
青春時代の音楽と失われた年月をテーマに,人生の再生を描く物語は,悪くない.主演のローズ・バーンとイーサン・ホークが魅力的で楽しい映画.子役のジャクソンが誠に可愛く,それに免じて評価ワンランクアップ.2_20210501174201
★★★★(★5個が満点)
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2021/04/14

独断的映画感想文:スパイの妻

日記:2021年4月某日
映画「スパイの妻」を見る.1_20210415202901
2020年.監督:黒沢清.
出演:蒼井優(福原聡子),高橋一生(福原優作),東出昌大(津森泰治),坂東龍汰(竹下文雄),笹野高史(野崎医師).
日本が戦争へと大きく舵を切っていく昭和15年.貿易会社の社長夫妻として何不自由ない生活を送っている福原優作・聡子の夫妻.新たに神戸に憲兵隊分隊長として赴任してきた聡子の幼馴染・津森は,優作に彼の友人の英国人バイヤーをスパイとして逮捕したことを告げ,夫妻の洋風の生活を改めるよう注意する.そのような警告に頓着しない優作は,社員で甥の文雄を連れ満州旅行に赴く.5_20210415202901
予定より大幅に遅れて帰ってきた優作たち,その後文雄は有馬の旅館で創作に専念するためと称し退職,一方優作たちと共に満州から帰国した女性・草壁弘子が殺された件で,聡子は津森から呼び出しを受ける.2_20210415202901
不審を覚えた聡子に問い詰められ,優作は満州で陸軍部隊の人体実験現場を目撃,その証拠のフィルム・文献を証人の弘子と共に持ち帰ったこと,そのことを世界に明らかにしようと考えていることを打ち明けるが….7_20210415202901
蒼井優,高橋一生,東出昌大の演技で見せる映画.津森は聡子に恋心を抱いているが,自分の職掌は裏切れない.福原夫妻のこの時代と相いれない生活ぶりは,津森を心配させると同時に観客をもやきもきさせる.6_20210415202901
それを下地に降って湧く,国家機密を漏洩しようという大胆な活動.淡々と計画的に動く優作と,売国奴の妻となるにもかかわらず水を得た魚のように活発に行動する聡子の対比が面白い.プロット自体にはそれほど驚かされなかったが,主演3名の演技でがぜん面白くなった映画.
★★★☆(★5個が満点).
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2021/04/10

独断的映画感想文:ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス

日記:2021年4月某日
映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」を見る.1_20210410201801
2016年.監督:フレデリック・ワイズマン.
ニューヨーク公共図書館(NYPL)の活動を描いた205分にわたる長編ドキュメンタリー映画.DVDで借りたが,まとまった時間がようやくとれて見ることができた.
映画は,NYPL中央図書館の各部門の活動,地域分館の活動,スタッフ会議,各分館での会議,外部支援者を交えた委員会の模様をつぶさに紹介する.また,ブルーノ・ワルター講堂での音楽セッションや著者を招いてのトークセッション(エルビス・コステロも登場する),読書会の模様やパソコン講座,子供向け読み聞かせや勉強会の模様,研究図書館(特に黒人文化研究図書館の活動が詳しい)での講演会などが,詳細に伝えられる.2_20210410201801
スタッフ会議では,市の予算獲得のための方策の議論,どのような施策が必要とされているかの詳細なリサーチ,電子本の貸出しシステムの検討等の議論が重ねて行われるが,いずれも明快で真摯な議論で,お役所仕事的な雰囲気は微塵もない.常に利用者に支持されるために何を改善し何を目指していくかが,真剣に議論されている.3_20210410201801
公共サービスに係るスタッフやボランティアには,まことに刺激的な映画だ.長尺だが,紹介されている講演内容もいちいち面白く興味深くて,全く退屈しない.見て損は無し.★★★★(★5個が満点).
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