独断的映画感想文:象は静かに座っている
日記:2021年5月某日
映画「象は静かに座っている」を見る. 2018年.監督:フー・ボー.
出演:チャン・ユー(ユー・チェン),ポン・ユーチャン(ウェイ・ブー),ワン・ユーウェン(ファン・リン),リー・ツォンシー(ワン・ジン). 失業して家に居る父親と衝突する日々を過ごすブーは,友人カイが不良のシュアイの携帯を盗んだと絡まれているのをかばううち,シュアイが階段から転落し救急搬送される結果となる.現場から逃走したブーは,遠くに逃げようと考える.
シュアイの兄:チェンが親友の妻と寝た朝,その親友が突然帰宅する.親友はチェンを見るとそのまま高層アパートの窓から飛び降りる.親友の妻はチェンのことを警察には言わなかったが,チェンは親友の母親に,自分が自殺現場に居合わせたことを告白する.
ブーと同じ狭いアパートに娘一家3人と暮らしているジンは,老人ホームに行くよう勧められるが,愛犬が飼えなくなるからと断り続けている.ところがこの日,愛犬は迷い犬に咬み殺されてしまった.飼い主は開き直り,逆に自分の犬の心配をするばかり.娘はこれで老人ホームに行けることになったと喜ぶ. ブーの同級生リンは母子家庭の子,仕事に多忙な母親から罵倒され続ける生活を送る.心のよりどころを担任教師に求め関係を持つが,その現場を盗撮した動画がネットに拡散し身の置き所を失う….
第68回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞および最優秀新人監督賞受賞作,4時間に近い大作は,監督のデビュー作であり遺作でもある.
さびれた田舎町で鬱屈した日々を送り追い詰められた4人の男女,彼らはその田舎町に掲示された,満州里のサーカスにいる,只一日座っているだけの象のポスターを見ている.それぞれの経緯で街に居られなくなった彼らが,満州里を目指す旅に出立する物語.
長尺の映画だが,長さを感じることはなく,むしろゆったりとした映画の流れに身を任せる愉楽を味わうことができる.出だしは一種の群像劇と思われたが,長い時間の中でさまざまに描写されていくうちに,彼らの相互の関係や抱えた状況の詳細が,自然に身に染み込んでいく.
映像には特徴があり,被写界深度を浅くしたカメラが人物の大写しをするその背後で,物語が進行していく.普通の映画では,観客は物語の進行に必要な情報を十分に与えられる「神の目」を持つのに対し(例えば主人公が手紙を読むときはその文面が直ちにクローズアップされる),この映画では背後にぼんやり映る情景から,物語の進行を読み取らねばならない.その大写しされる演技者たちはいずれも達者で,映画の緊張感を必要にして充分に表現している.
長回しが多用されることも大きな特徴だ.俳優たちのセリフも,あたかもシェークスピア劇の様に美しくまた多義的である.中でも,チェンが本来の恋人と会い,食事を共にし,結局別離する長いシーンは,哀切だ. 映画という芸術の持つ力を堪能できる映画,一見の価値あり.★★★★☆(★5個が満点).
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