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2021年5月に作成された記事

2021/05/31

独断的映画感想文:象は静かに座っている

日記:2021年5月某日
映画「象は静かに座っている」を見る.1_20210602185101 2018年.監督:フー・ボー.
出演:チャン・ユー(ユー・チェン),ポン・ユーチャン(ウェイ・ブー),ワン・ユーウェン(ファン・リン),リー・ツォンシー(ワン・ジン).6_20210602185101 失業して家に居る父親と衝突する日々を過ごすブーは,友人カイが不良のシュアイの携帯を盗んだと絡まれているのをかばううち,シュアイが階段から転落し救急搬送される結果となる.現場から逃走したブーは,遠くに逃げようと考える.
シュアイの兄:チェンが親友の妻と寝た朝,その親友が突然帰宅する.親友はチェンを見るとそのまま高層アパートの窓から飛び降りる.親友の妻はチェンのことを警察には言わなかったが,チェンは親友の母親に,自分が自殺現場に居合わせたことを告白する.
ブーと同じ狭いアパートに娘一家3人と暮らしているジンは,老人ホームに行くよう勧められるが,愛犬が飼えなくなるからと断り続けている.ところがこの日,愛犬は迷い犬に咬み殺されてしまった.飼い主は開き直り,逆に自分の犬の心配をするばかり.娘はこれで老人ホームに行けることになったと喜ぶ.4_20210602185101 ブーの同級生リンは母子家庭の子,仕事に多忙な母親から罵倒され続ける生活を送る.心のよりどころを担任教師に求め関係を持つが,その現場を盗撮した動画がネットに拡散し身の置き所を失う….
第68回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞および最優秀新人監督賞受賞作,4時間に近い大作は,監督のデビュー作であり遺作でもある.
さびれた田舎町で鬱屈した日々を送り追い詰められた4人の男女,彼らはその田舎町に掲示された,満州里のサーカスにいる,只一日座っているだけの象のポスターを見ている.それぞれの経緯で街に居られなくなった彼らが,満州里を目指す旅に出立する物語.
2_20210602185101長尺の映画だが,長さを感じることはなく,むしろゆったりとした映画の流れに身を任せる愉楽を味わうことができる.出だしは一種の群像劇と思われたが,長い時間の中でさまざまに描写されていくうちに,彼らの相互の関係や抱えた状況の詳細が,自然に身に染み込んでいく.
映像には特徴があり,被写界深度を浅くしたカメラが人物の大写しをするその背後で,物語が進行していく.普通の映画では,観客は物語の進行に必要な情報を十分に与えられる「神の目」を持つのに対し(例えば主人公が手紙を読むときはその文面が直ちにクローズアップされる),この映画では背後にぼんやり映る情景から,物語の進行を読み取らねばならない.その大写しされる演技者たちはいずれも達者で,映画の緊張感を必要にして充分に表現している.
長回しが多用されることも大きな特徴だ.俳優たちのセリフも,あたかもシェークスピア劇の様に美しくまた多義的である.中でも,チェンが本来の恋人と会い,食事を共にし,結局別離する長いシーンは,哀切だ.5_20210602185101 映画という芸術の持つ力を堪能できる映画,一見の価値あり.★★★★☆(★5個が満点).
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2021/05/25

番外:独断的歌舞伎感想文 五月大歌舞伎第一部 三人吉三/土蜘

日記:2021年5月某日
歌舞伎座で「五月大歌舞伎 第一部」を見る.Img_20210525_102150
河竹黙阿弥 作.「一、三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ) 大川端庚申塚の場」.出演:お嬢吉三(尾上右近),お坊吉三(隼人),夜鷹おとせ(莟玉),和尚吉三(巳之助).河竹黙阿弥 作.「二、新古演劇十種の内 土蜘(つちぐも)」.出演:叡山の僧智籌実は土蜘の精(松緑),平井保昌(坂東亀蔵),渡辺源次綱(中村福之助),坂田公時(鷹之資),碓井貞光(左近),ト部季武(弘太郎),太刀持音若(寺嶋眞秀),侍女胡蝶(新悟),源頼光(猿之助).
黙阿弥の特集のような第一部.「三人吉三」は,右近の「月も朧に白魚の…」に始まる名文句の朗々たるセリフ回しが痛快.隼人,巳之助の演技も含め,この物語の本来である,粋がった若い不良少年達の悲哀の顛末という側面がうかがえて,面白かった.
一方「土蜘蛛」は松緑のものを見るのは2回目,今回は猿之助とのがっぷり組んだ舞台が緊張感にあふれ,素晴らしい出来.前半花道に音もなく現れ,「如何に,頼光」と呼びかけるセリフが何ともスリリングだ.その後の踊りも技巧的に素晴らしいだけでなく,土気色の顔とらんらんたる眼光の醸し出す異様な雰囲気に引き込まれる.正体を現した後ジテの舞台も,長唄囃子連中のテンポアップした音楽と相まって,誠に魅力的.8歳の寺島眞秀の太刀持ちも素敵で,見ごたえある舞台だった.
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2021/05/16

独断的映画感想文:ライド・ライク・ア・ガール

日記:2021年5月某日
映画「ライド・ライク・ア・ガール」を見る.1_20210523221101 2019年.監督:レイチェル・グリフィス.
出演:テリーサ・パーマー(ミシェル・ペイン),サム・ニール(パディ・ペイン),サリヴァン・ステイプルトン(ダーレン),スティーヴィー・ペイン(スティーヴィー・ペイン),ジェネヴィーヴ・モリス(ジョーン・サドラー),マグダ・ズバンスキー(シスター・ドミニク),ブルック・サッチウェル(テレーズ・ペイン),アンネリーゼ・アップス(ブリジッド・ペイン),ザラ・ゾーイ(マリー・ペイン),ケイティ・キャッスルズ(マーガレット・ペイン).3_20210523221101 ミシェルはペイン家10人兄弟姉妹の末っ子.生後間もない時に母を交通事故で失うが,父・パディの愛情を受けて育つ.父は調教師,10人の子どものうち8人は騎手となったペイン家,ミシェルも15歳でレースにデビューする.
間もなく勝利を掴むが,その直後姉のブリジッドを落馬で失う.父はそのためミシェルをレースに出すことに消極的になり,ミシェルは17歳で父のもとを離れる.姉と同居し後ろ盾なしで乗馬の機会を求めるミシェル,苦労のかいあって少しずつ騎手としての実績を上げていく.5_20210523221101 2004年,無理な減量後のレースで勝利した彼女は,ゴール後に転倒した馬から投げ出され,頭蓋骨骨折の重傷を負う.不屈の精神でリハビリ後レースに復帰したミシェルは,幾たびも落馬や負傷に会いながらキャリアを積んでいく.2015年,ダウン症の兄・スティーヴィーの勤める厩舎の馬プリンスオブペンザンスに騎乗し,オーストラリア競馬界最高の栄誉・メルボルンカップに挑戦することになるが….
メルボルンカップで初めて女性騎手として勝利した,ミシェル・ペインの実話である.ミシェル・ペインの驚異の物語は,テリーサ・パーマーの好演を得て素晴らしい映画となった.プロットが面白く一気に映画を見ることができる.6_20210523221101 様々な騎乗のシーンが誠に美しく,特にデビュー前のミシェルが父の指導で夕日の丘を疾走するシーン,プリンスオブペンザンスに騎乗したミシェルが波打ち際を駆け抜けていく朝のシーンは,印象的.4_20210523221101 また,レース中競り合う競走馬たちのシーンは,スリリングで素晴らしい.わずかな隙間にミシェルとプリンスオブペンザンスが突っ込み抜けていく俯瞰のシーンは,いったいどうやって撮ったのだろう?
更に特筆すべきは,厩務員の兄スティーヴィーを演じるスティーヴィー・ペイン本人の演技で,全ての観客はこの人物への共感を抱くに違いない.バックに流れるケルト風の音楽も素敵だ.2_20210523221101 ★★★★☆(★5個が満点)
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2021/05/09

独断的映画感想文:ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

日記:2021年5月某日
映画「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」を見る.1_20210513110001
2019年.監督:グレタ・ガーウィグ.
出演:シアーシャ・ローナン(次女ジョー),エマ・ワトソン(長女メグ),フローレンス・ピュー(四女エイミー),エリザ・スカンレン(三女ベス),ローラ・ダーン(四姉妹の母),ティモシー・シャラメ(ローリー),メリル・ストリープ(マーチ伯母).
映画の冒頭,ためらった挙句出版社のドアを入るジョー・マーチ,編集者に原稿を読んでもらい,何とか採用され20ドルを獲得する.彼女は家を出て,ニューヨークで家庭教師をしながら文筆修行に励んでいるのだ.2_20210513110001
このジョーを中心に,貧しい青年と結婚したメグ,伯母と共にパリで絵の勉強をしているエイミー,家で暮らすベスの状況が描かれる.この間に,姉妹たちが一緒に過ごした7年前から現在に至るまでの映像が織り込まれて,映画の展開はなかなかに複雑.
かって隣家の大邸宅に住む少年ローリーに求愛されたジョーは,女性として社会に出たい気持ちが強く,これを断る.傷心のローリーはパリでエイミーと巡り合い,エイミーを愛するようになるが,エイミーはジョーの身替りは嫌だとこれに応じない.5_20210513110001
ニューヨークのジョーは編集者の求めに応じ大衆受けする作品を書くが,同宿のフレデリックに酷評され彼と絶好,おりしもベスの病状が悪化したとの連絡で帰郷する….
おなじみの若草物語を,ジョー・マーチの視点を中心に構成して描く映画.1949年版に比べて,大人になりかけているジョーの視点がはっきりしている.演じるシアーシャ・ローナンが堂々の演技で魅力的.3_20210513110001
ベスについては,1949年版のマーガレット・オブライエン(早世したベス役の彼女は,4姉妹女優の中で唯一生存しているそうな)の印象が強すぎて,今回のベス像には若干違和感が残るけど,あくまで個人の感想です.
映画の終盤になって,シアーシャ・ローナンが演じているのは,ジョー・マーチではなく原作者のオルコットその人ではないかという気がしてくるが,ハッピーエンドは良いことだ,見ごたえあり.8_20210513110001
★★★★(★5個が満点).
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2021/05/05

独断的映画感想文:デイアンドナイト

日記:2021年5月某日
映画「デイアンドナイト」を見る.1_20210715071101
2019年.監督:藤井道人.
出演:阿部進之介(明石幸次,原案・企画も),安藤政信(北村健一),清原果耶(大野奈々),小西真奈美(トモコ),佐津川愛美(友梨佳),渡辺裕之(明石和幸),室井滋(明石京子),田中哲司(三宅良平).5_20210715071101
東京でバイト生活をしていた明石幸次は,父の訃報を聞いて秋田県の故郷に戻る.父は自動車修理工場を経営していたが,有名自動車メーカーの欠陥部品のリコール隠しを告発した挙句,業界・地域を挙げてのバッシングに出会い自殺したのだった.
父の残した借金返済に困惑する中,父と親交のあった養護施設代表の北村が現れる.北村は幸次に養護施設で働くことを勧め,幸次はそこで賄いの仕事につく.同僚の友梨佳,高校生の奈々との交流を得る一方,北村に指示された「夜の仕事」は,車の窃盗・解体・売却や,売春女性のマネージ等の犯罪行為だった.北村は善をなすためなら悪事も辞さずとの強い信念を持っていた.一方奈々は幸次に好意を寄せ心を開いてくるが….3_20210715071101
映画の前半は理不尽な幸次の父の死と,幸次の運命の変転,北村の裏の顔等に翻弄され,違和感が先行する映画だった.特に幸次の父が一方でリコール隠しを告発しながら,一方で北村の犯罪行為に加担していたという状況は,受け容れにくい.
しかし後半,幸次の父の苦闘の跡や,リコール隠しの告発をつぶした有名自動車メーカーの社員・三宅の跳梁が明らかになるに従い,映画の緊張感は増していき,主人公幸次の行動も共感できるようになる.4_20210715071101
特にこの中で描かれる大野奈々の,聖少女としての存在感は誠に印象的,演じる清原伽耶が素晴らしい.阿部進之介の熱演も心に残った.俳優たちの演技が存分に味わえる映画,その点が味わい深い.2_20210715071101
★★★☆(★5個が満点).
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2021/05/03

独断的映画感想文:愛がなんだ

日記:2021年5月某日
映画「愛がなんだ」を見る.0_20210714101801
2019年.監督:今泉力哉.原作:角田光代.
出演:岸井ゆきの(テルコ),成田凌(マモル),深川麻衣(葉子),若葉竜也(ナカハラ),片岡礼子,筒井真理子,江口のりこ(すみれ).
テルコは会社勤めの独身,ある日会社にマモルから電話がかかる.体調悪いので何か買ってきてくれないかと.
マモルとは友人の結婚式の2次会で出会った仲,手が綺麗で猫背のマモルに何故か惹かれたテルコ.いそいそと買い物をしてマモルのアパートに行き,煮込みうどんを作るが,その日はそのまま帰される.その後マモルと付き合うようになったテルコ,しかしマモルはテルコを都合のいい女として扱っているようだ.1_20210714101801
それでもマモルに入れあげるテルコは,仕事も2の次3の次となり,ついにクビとなる.これからはすべての時間をマモルのために使えると意気込んでアパートに行ったテルコ,しかしそのテルコの入れ込みがマモルの気に入らなかったか,その日以来マモルからの連絡はなくなった.その後久しぶりのマモルからの呼び出しに出てみると,マモルの隣には見知らぬ年上の女,すみれがいた.マモルとの仲をテルコは親友の葉子に愚痴るが,葉子は葉子で自分の信奉者で写真家の仲原を好きなように使い倒している….3_20210714101801
20代半ばの男女(ただしすみれは30代半ば)の恋愛模様を描く映画.
自分のような年代のものから見ると,まあどうでも良い映画である.特にテルコは,周辺が仕事にはきっちり対応し恋にも頑張っている中,マモルに入れあげて仕事も失くし,バイトしながら当てのないマモルとの恋を夢見ている状況は,共感しがたい.4_20210714101801
しかしこの映画の魅力は,俳優たちが達者でそれぞれの配役の人物がリアルに描かれていることだ.テルコも魅力的だし,仲原が片思いの状況に限界を感じ,葉子と別れる決意をテルコに綿々と語る長いシーンは,印象に残った.5_20210714101801
俳優ではすみれを演じる江口のりこの存在感が素晴らしい.
★★★(★5個が満点).
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