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2021/06/23

独断的映画感想文:存在のない子供たち

日記:2021年6月某日
映画「存在のない子供たち」を見る.1_20210625165901
2018年.監督:ナディーン・ラバキー.
出演:ゼイン・アル・ラフィーア(ゼイン),ヨルダノス・シフェラウ(ラヒル・シファラ),ボルワティフ・トレジャー・バンコレ(ヨナス),カウサル・アル・ハッダード(スアード),ファーディー・カーメル・ユーセフ(セリーム),シドラ・イザーム(サハル),アラーア・シュシュニーヤ(アスプロ),ナディーン・ラバキー(ナディーン).
レバノンの少年刑務所に収監されている少年・ゼイン.出生証明はなく12歳らしいが,7~8歳の体格しかない.
法廷に現れたゼイン,実は彼は両親を訴えた原告なのだ.裁判長の何を訴えたいのかという問いに,「育てられないなら生むな」と彼は言う.
ゼインの家は子だくさんの極貧の家族.ゼインに出生証明はなく学校にも行けない.長子として下の子の面倒を見ながら,大家で食料品店を営むアサードの店で働き,さらに物売りとしても働いている.
美しい妹のサハルを溺愛しているが,彼女に初潮が来ると,父がアサードにサハルを売るのを警戒して,それをひた隠しにする.更にサハルを連れて逃げようと準備をするが,父はある日泣き叫ぶサハルを強引にアサードの店に連れていった.絶望したゼインは家を出るが….3_20210625165901
この後ゼインは遊園地で働くエチオピア人の女性・ラヒルに拾われ,赤子のヨナスの面倒を見ることを条件に,その家に同居する.毎日懸命にヨナスの世話をするゼイン,一方ラヒルは偽造身分証の更新を業者アスプロに高値で吹っ掛けられ,金が都合できなければヨナスを売れと脅されている.ある日市場に出かけたラヒルは,その場で不法滞在者として逮捕された.帰ってこないラヒル,ゼインは考え付くありとあらゆる手段でヨナスと二人の生活を維持しようとするが,遂に大家に家を追い出される.追い詰められたゼインは,ヨナスをアスプロの手に預けた….2_20210625165901
自ら出演した監督以外は,ほとんどがスラム出身の素人俳優が演じた映画.レバノンの貧民街で,難民であるシリア人ほどの支援も公的には受けられないスラムの住民たちや,出稼ぎの不法在留者たちの状況を描く.
ゼインは12歳ながら何ものも信じず,公的支援も当てにせず,しかし誠実に弟妹達やヨナスの面倒を見ようとする.学校に行けず(字は読めるのだろうか,計算は出来るのだろうか?),しかし世俗の知恵は大人顔負けだ.そのゼインが死力を尽くしてサハルやヨナスのために働く姿は,涙を禁じ得ない.4_20210625165901
絶望的な経過をたどる映画だが,最後に2つだけ小さなハッピーエンドがある.その一つはゼインとラヒルの証言でアスプロの人身売買組織が摘発され,ラヒルが国外追放される直前にヨナスが母の手に戻ること.
もう一つは刑務所でゼインが写真を撮られるシーン.ムスッとしてカメラに向かうゼイン,しかし係官から「これはお前の身分証用の写真だ」と言われ,思わず微笑む.長い映画の間で唯一のゼインの微笑み,しかしその笑顔は美しい.5_20210625165901
本作は第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員賞をはじめ,各国の映画祭で受賞.アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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