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2021年8月に作成された記事

2021/08/24

番外:独断的歌舞伎感想文 八月花形歌舞伎 第一部 加賀見山再岩藤

日記:2021年8月某日
「八月花形歌舞伎 第一部」を見る.Img_20210824_104801
河竹黙阿弥 作.奈河彰輔 補綴,石川耕士 補綴・演出,市川猿翁 補綴・演出,市川猿之助 演出.三代猿之助四十八撰の内.「加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ) 岩藤怪異篇 市川猿之助六役早替り相勤め申し候」.出演:多賀大領,御台梅の方,奴伊達平,望月弾正,安田隼人,岩藤の霊(猿之助),鳥居又助(巳之助),安田帯刀(男女蔵),蟹江一角(亀鶴),花園姫(男寅),蟹江主税(鷹之資),局浦風(笑三郎),お柳の方(笑也),花房求女(門之助),二代目中老尾上(雀右衛門).2021_20210903143701
通し狂言・加賀見山再岩藤を見るのは3回目だが,今回は切り詰めたダイジェスト版,筋も演出もかなり変わっている.物語の焦点を岩藤の亡霊とお家騒動に合わせているのに,岩藤がなぜ化けて出るのかが良く判らない.それでも猿之助の鮮やかな早変わりと,それぞれの役の性根を十分表現した演技,スピーディーな展開ながら落ち着いた演出で,見応えのある芝居だった.芝のぶも7月に続き見られてうれしかった.
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2021/08/22

独断的映画感想文:娘は戦場で生まれた

日記:2021年8月某日
映画「娘は戦場で生まれた」を見る.1_20210903113301
2019年.監督:ワアド・アル=カティーブ,エドワード・ワッツ.
出演:ワアド・アル カティーブ,サマ・アルカティーブ,ハムザ・アルカティーブ.3_20210903113301
アレッポ大学の学生ワアドはジャーナリスト志望.2011年に起きたシリアの反体制運動をきっかけにスマホで取材をはじめ,2012年以降始まったアレッポの戦闘の映像を記録し,世界に配信する.その後,アレッポの反体制派支配地域で医療活動に従事するグループと行動を共にし,青年医師ハムザと結婚する.2015年には娘サマ(アラビア語で“空”の意)が誕生するが,情勢は悪化,ロシア軍機の空爆による市民の死傷が激増し,病院も次々に爆撃されていく.2016年12月,遂にロシア軍からの通告に従って,アレッポから退去するまでの,ワアドが撮った映像を編集したドキュメンタリー映画.4_20210903113301
ドキュメンタリーであるから,そこに映し出されるのは本当の死,本当の血,本当の破壊だ.しかしその凄惨な緊迫した映像から,目を離すことはできない.一方でその苦難の中でもおおらかに笑う大人たちや,楽しく遊ぶ子どもたちのシーンに心が安らぐ.
2016年9月からのアレッポ包囲に際し,トルコのハムザの両親を見舞いに行っていたワアドたちが,決死の覚悟で前線を潜り抜けアレッポに帰還するシーン,爆撃で負傷した9か月の妊婦から帝王切開で取り出した新生児が,遂に目を開け産声を上げるシーン等,ドラマティックな場面にも映画としての見応えがある.2_20210903113301
シリア内戦の実態を痛烈に訴えると同時に,感銘と感動を与える映画.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点).
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2021/08/20

番外:独断的歌舞伎感想文 八月花形歌舞伎 第三部 義賢最期/伊達競曲輪鞘當/三社祭

日記:2021年8月某日
歌舞伎座で「八月花形歌舞伎 第3部」を見る.2108kabukiza_specialposter1629446254206 「一、源平布引滝 義賢最期(よしかたさいご)」.出演:木曽先生義賢(幸四郎),九郎助娘小万(梅枝),下部折平実は多田蔵人(隼人),待宵姫(米吉),太郎吉(小川大晴(奇数日)小川綜真(偶数日)),進野次郎(廣太郎),九郎助(錦吾),矢走兵内(片岡亀蔵),葵御前(高麗蔵).「二、伊達競曲輪鞘當(だてくらべくるわのさやあて)/三社祭(さんじゃまつり)」.出演〈鞘當〉:不破伴左衛門(歌昇),名古屋山三(隼人),茶屋女房お新(新悟).〈三社祭〉:悪玉(染五郎),善玉(團子).2021_20210903142501 義賢最期は幸四郎が大奮闘,幕切れの階段落ちまで,感銘的な舞台.梅枝の小万も魅力的で,小万と言えば新悟,七之助,菊之助,壱太郎,門之助などで見てきたが,梅枝の小万がいちばん記憶に残っている.小万は6年前に姿を消した夫・折平を尋ね当てて来てみたら,折平は実は多田蔵人で,義賢の命で待宵姫と一緒に逃げてしまい,行きがかり上義賢の傍らで獅子奮迅の働きをするという,何とも不思議な役.梅枝が演じるとなぜか腑に落ちる.伊達競曲輪鞘當は題名通りの踊り,3人とも良いが,最後のいいところを新悟が持って行ってしまった.團子(17歳)・染五郎(16歳)の三社祭が楽しい.この若さでなければできない溌剌とした踊りで痛快.舞台を観たときは團子=悪玉,染五郎=善玉と思ったが実は逆だった.21082 にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ

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2021/08/13

番外:独断的歌舞伎感想文 八月花形歌舞伎 第二部 真景累ヶ淵/仇ゆめ

日記:2021年8月某日
歌舞伎座で「八月花形歌舞伎 第二部」を見る.2108kabukiza_hh_7debd075550aaf42b3a70f9f
三遊亭円朝 口演より.「一、真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち) 豊志賀の死」.出演:豊志賀(七之助),お久(児太郎),新吉(鶴松),噺家さん蝶(勘九郎),伯父勘蔵(扇雀).北條秀司 作・演出.「二、仇ゆめ(あだゆめ)」.出演:狸(勘九郎),深雪太夫(七之助),舞の師匠(虎之介),揚屋の亭主(扇雀).2021
真景累ヶ淵,原作はおどろおどろしい三代にわたる殺し合いの因縁話.富本節の師匠・豊志賀は,若い恋人の新吉と弟子のお久ができているとの妄想に苦しんで顔に腫物ができている.それで死んでしまうのだから,新吉・お久はいい迷惑.実は新吉は豊志賀にとって父の仇の息子だが,観客はもちろん,新吉さえそれを知らないので,唐突に表れる豊志賀の幽霊が,怪談風コントになってしまう.コロナ禍の気散じにはこれで面白いけど.勘九郎の噺家が豊志賀の最後を仕方話で伝える場面が,鶴松との掛け合いがおかしくて傑作.
仇ゆめは,太夫に恋したタヌキを描く舞踊劇.こちらも勘九郎の,表情豊かな中村屋らしいひょうきんな踊りが楽しい.
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2021/08/10

独断的映画感想文:シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢

日記:2021年8月某日
映画「シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢」を見る.1_20210810180501 2018年.監督:ニルス・タヴェルニエ.
出演:ジャック・ガンブラン(シュヴァル),レティシア・カスタ(フィロメーヌ),ベルナール・ル・コク(オーギュスト),ナターシャ・リンディンガー(ガランス)),ゼリー・リクソン(アリス).3_20210810180501 フランス南東部のオートリーヴ,徒歩で一日郵便を配達するシュヴァルは寡黙で口下手な男.1873年,妻が病死し息子のシリルは親戚に引き取られる.一人ぼっちになったシュヴァルに配慮した局長は担当区域を変え,シュヴァルはその区域に住む寡婦,フィロメーヌと言葉を交わすようになる.やがて二人は結婚し,娘アリスを授かる.2_20210810180501
1879年,配達中に石に躓いたシュヴァルは道から転落,負傷を負う.石を掘り出してみると実に奇妙な形をしており,天啓を得たシュヴァルは,それ以来郵便配達の傍ら石を集めてはセメントで塗り固め,自宅の庭に奇怪な宮殿を建設し始める.宮殿を遊び場として育ち,夫妻の掌中の珠であったアリスは1894年に病死するが….4_20210810180501
オートリーヴに現存する「シュヴァルの理想宮」の建設に至る,実話に基づく映画.シュヴァルは33年かけて理想宮を完成させ,さらにその後8年をかけて村の墓所にアリスの墓を建設した.その間村人からは変人扱いされるが,ユニークなその宮殿は次第に新聞で紹介されるようになり,見学に訪れる人や,評価する芸術家が増えていく.長きにわたるシュヴァルの物語は,大河小説の様で印象的だ.5_20210810180501
この物語には悪人は誰一人登場しないが,運命によりアリスを失った時のシュヴァルの慟哭には,涙を禁じ得ない.それでもシュヴァルは黙々と建設を続ける.寡黙なシュヴァルだが,心の中は異国風な詩とイメージに満ち溢れているのだ.最後の場面,理想宮の前で執り行われたシリルの遺児・アリスの結婚式に出席し,ダンスを見ながら思い出にふけるシュヴァルのシーンには胸を打たれる.
主演のジャック・ガンブラン,レティシア・カスタがいずれも素晴らしい.郵便局長のオーギュストとフィロメーヌの友人ガランスがシュヴァル夫妻を見る暖かい目も嬉しい.素敵な映画です.6_20210810180501 ★★★★(★5個が満点)
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2021/08/04

独断的映画感想文:家族を想うとき

日記:2021年8月某日
映画「家族を想うとき」を見る.1_20210805174501
2019年.監督:ケン・ローチ.
出演:クリス・ヒッチェン(リッキー),デビー・ハニーウッド(アビー),リス・ストーン(セブ),ケイティ・プロクター(ライザ・ジェーン),ロス・ブリュースター(マロニー).6_20210805174501
2008年の銀行の取り付け騒ぎで勤務先が倒産,持ち家も失ったリッキーは以後転職を重ね借金も増えた.友人ヘンリーの勧めで宅配業者のドライバーとなることに.主任のマロニーは,個人事業主としてフランチャイズとなるのだと説明し,リッキーは受けいれる.
配送用のバンを購入,頭金の1000ポンドは妻アビーの車を売って調達した.訪問介護の仕事をしているアビーは,訪問先にバスで通うことになる.5_20210805174501
リッキーは仕事を始めるが,必需品の「黒い携帯」は,貨物の追跡管理や配達のルート表示をしてくれる一方,ドライバーが時間内に配送を完了しているか,車を2分以上離れていないかを常に監視する.7時から21時まで,週6日間働くハードな勤務が始まった.
思春期の息子セブは学校をさぼりがち,仲間とペイントで街に落書きをする「グラフィティ」に夢中だ.セブの学校から呼び出しがあった午後,リッキーは仕事の都合がどうしてもつかず,アビーのみが学校に行くが,父親が来ないことに怒った校長はセブに停学を課し,リッキーはアビーになじられる.更に大きなトラブルがリッキーを襲うが….
家庭生活と到底両立しないような,激しいフランチャイズ労働の実態を描く映画.セブが万引きで捕まり,親がもらい下げに行かないとセブに前科がついてしまうというピンチ.リッキーはやむなく警察に急行するが,マロニーは激怒してリッキーに厳しい罰金を科す.
丁寧で親密な訪問介護をするアビーも,顧客には好評だが,ルールに縛られ長時間労働を強いられる.移動の時間を惜しんでまだ10歳の娘ライザに電話を掛けるが,ライザは不安が隠せないようだ.両親が長時間労働を強いられ不在な中,思春期のセブとまだ小さいライザはどうなるのか.3_20210805174501
この後,リッキーは強盗に襲われ重傷を負い荷物を盗まれるが,受診中のリッキーにマロニーから,保険の効かない貨物の弁償金と「黒い携帯」の修理費用,欠勤で課される罰金の通告が来る.父の受傷に家族の絆は強まるが,リッキーは家族の制止を振り切り,怪我をおして出勤する.4_20210805174501
リッキーとアビーを演じる俳優は,本業の役者としても苦労人らしいが,短気だが誇り高いリッキーと,献身的な介護をする慈愛深い母親アビーの演技がいずれも素晴らしい.何ともやりきれない現実を考えさせられる,この監督らしい映画.見て損は無し.
★★★★(★5個が満点)
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2021/08/03

独断的映画感想文:淵に立つ

日記:2021年8月某日
映画「淵に立つ」を見る.1_20210820141301
2016年.日本・フランス.
監督・脚本:深田晃司.出演:浅野忠信(八坂草太郎),古舘寛治(鈴岡利雄),筒井真理子(鈴岡章江),太賀(山上孝司),三浦貴大(設楽篤),篠川桃音(鈴岡蛍),真広佳奈(鈴岡蛍〈8年後〉).2_20210820141301
父のあとを継いで金属加工工場を経営する利雄には,妻・章江と娘・蛍がいる.利雄は寡黙に仕事に励む中年男,章江と蛍はプロテスタントである.
ある日,利雄の旧友・八坂が工場を訪れる.殺人で11年の刑期を務めた八坂は,そのまま住み込みで利雄の工場で働くことになる.いぶかしむ章江に,八坂は自分の罪を告白,相手の間違いを許せず殺人を犯したが,遺族の悲哀を見て自分の非を悟ったと言い,章江の理解を得る.八坂は礼儀正しく,蛍のオルガンの稽古も親身に見て蛍にもなつかれ,八坂の新生活は順調に見えた.しかしある日,八坂は一家に取り返しのつかない傷を残して,忽然と姿を消す….3_20210820141301
一部ネタバレあります.平凡な一家に突然入ってきた八坂,殺人者である彼の不気味さ・恐ろしさがテーマの映画かと思いのほか,利雄,章江にも他者に明かせぬ闇があった.章江が八坂に心を許し抱き合う仲になったことは,観客も見ている.一方,利雄も八坂の殺人現場にいたこと,それだけでなく共犯者と言っていい存在だったことが明らかになる.4_20210820141301
八坂が去って8年後,新しく雇われた工員・孝司の登場で物語は大きく回転し,結末に至る.俳優陣は筒井真理子を始め期待通り,中盤で突然利雄に対してだけその本性を見せる八坂のシーン,唐突に自分が殺人の共犯者であることを薄笑いを浮かべながら口走る利雄のシーン,浅野忠信・古館寛治がともにうまい.
上辺を取り繕った正しさを示す白,禍々しい凶事を予告する赤と,色彩の対比も鮮やかで,物語の展開は誠にサスペンスフル.ただしこの結末は自分の共感できるものではない.5_20210820141301
★★★☆(★5個が満点).
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2021/08/02

独断的映画感想文:おらおらでひとりいぐも

日記:2021年8月某日
映画「おらおらでひとりいぐも」を見る.1_20210803204001
2020年.監督:沖田修一.
出演:田中裕子(現在の桃子さん(75歳)),蒼井 優(昭和の桃子さん(20歳~34歳)),濱田 岳(寂しさ1(桃子さんの心の声)),青木崇高(寂しさ2 (桃子さんの心の声)),宮藤官九郎(寂しさ3 (桃子さんの心の声)),六角精児(どうせ(桃子さんの心の声)) ,東出昌大(周造 (桃子さんの夫)).6_20210803204301
映画の冒頭,独り茶の間のちゃぶ台でお茶を飲む桃子さん.3人の同じ服装の「寂しさ」が彼女を取り囲んで,口々に話しかけている.やがて3人は隣の座敷でジャズを演奏し始め,桃子さんはそれに合わせて踊りながら着替えていく….
桃子さんは75歳の独居老人.1964年,親の勧める見合いに気が進まず家出,住み込みの女給をしながら東京で生きてきた.ある日,同じ訛りで話す客の周造と出会い,意気投合して結婚する.主婦として2人の子どもを育てあげたが,周造は数年前に急死,子供達とも疎遠になった.今は図書館と診療所に行く日常を過ごす….2_20210803204001
原作は若竹千佐子の芥川賞受賞作.桃子さんのお国訛りの自問自答による,その生涯の総括と感情の吐露を,若い時・子供の時の桃子さんと4人の心の声,合計7人の桃子さんで映像化した物語.これに桃子さんの心に浮かんだ地球の歴史や古代の生物(このテーマで桃子さんは,図書館の本を借り続けている)のアニメーションが,ちりばめられる.かなりぶっ飛んだファンタジー的映画である.4_20210803204401
テンポはのんびり,やや長めの映画だが,7人の桃子さんが(子役も含めて)好演,特に田中裕子は独特の雰囲気で映画を引っ張り,最後まで面白く見た.3_20210803204001
7人の桃子さんや子供の時の子どもたちと連れ立って,秋の日に行く周造の墓参のシーンは,原作でも圧巻だったが印象的なシーン.まあ老人向きの映画だが,一見の価値あり.
★★★☆(★5個が満点)
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