独断的映画感想文:ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち
日記:2022年3月某日
映画「ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち」を見る.
2011年.チェコ/スロヴァキア.監督:マテイ・ミナーチュ.
第2次世界大戦直前の1938年,ヒトラーの進出におびえるチェコスロヴァキアでは,ユダヤ人の子弟を救うプロジェクトが進行していた.株式仲買人をしていたロンドン在住のユダヤ系市民:ニコラス・ウィントンは,イギリスのチェコ難民委員会からの応援要請を受け,スイスへのスキー休暇を取りやめてプラハに出かける.現地での窮状を知った彼は,ロンドンに戻り救援活動に取り組む.いくつものプランを検討し唯一実現した方法は,イギリス政府公認の元,イギリスの里親のもとにユダヤ人子弟を引き取るプロジェクトだった.1939年3月から開始されたこのプロジェクトで,ウィントンは多くの子どもたちをロンドンに脱出させることに成功するが….
この映画は一部再現ドラマのドキュメンタリーである.前半はヒトラーのチェコ侵略の過程が時を追って描かれ,現代のウクライナへのロシア軍侵攻と重なり,恐ろしい展開.ウィントンの計画が動き始め,写真1枚を頼りに里親とのマッチングが進められる.ついに第1便がチェコ国境を出て,オランダから英国に出港していくが,その経過は緊張感に満ちている.
しかし1939年9月,250人の脱出を予定していた直前にナチスは第2次大戦を開始,計画は中止されリスト記載の子どもたち6000人のうち救われたのは669人だった.その後ウィントンはこのプロジェクトを離れ,かつ彼自身はこのプロジェクトを失敗に終わったものとみなしていたので,関係書類のすべてはトランクに入れられ,自宅の屋根裏部屋にしまわれたままとなった.
1988年,彼の妻がこの資料を発見し,研究家の手にわたってこのプロジェクトが明るみに出た.映画の後半はウィントンと彼が救った元子どもたちが巡り会い共感の輪が広がっていく過程,また命を救われた元子どもたちの多くが,人の命を救うプロジェクトに関与していった状況を描く.それらが語る物語の事実に圧倒される思いだ.一見の価値あり.
P.S. 映画には1988年の救出50周年の集まりから,救出70周年の集まりまでが紹介されている.ウィントンは長命を保ちいずれの会にも元気に出席した.
★★★☆(★5個が満点).
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