独断的映画感想文:燃ゆる女の肖像
日記:2022年7月某日
映画「燃ゆる女の肖像」を見る.
2019年.監督・脚本:セリーヌ・シアマ.
出演:ノエミ・メルラン(マリアンヌ),アデル・エネル(エロイーズ),ルアナ・バイラミ(ソフィー),ヴァレリア・ゴリノ(伯爵夫人). 1770年,画家マリアンヌは,父がその肖像画を描いた伯爵夫人に招かれ,邸宅のあるブルターニュの孤島にやってくる.伯爵家では娘とミラノの男性との縁談が進んでいたが,娘が自殺したため妹のエロイーズを修道院から呼び戻し,ミラノの男性との縁談を引き継がせようとしている.
肖像画を描くため一度男性画家がやってきたが,エロイーズは画家と会うことを拒否,そのためマリアンヌは画家であることを隠し,エロイーズを観察して肖像画を仕上げるようにと云うのが伯爵夫人の依頼である.マリアンヌはエロイーズと共に散歩し,さりげない会話を交わしながら6日間かけて肖像画を仕上げた.自分が画家であることを明らかにし,自信満々肖像画を見せたマリアンヌ,しかしエロイーズは「この絵は似ている様で自分ではない」と言う.マリアンヌは動揺し,作品の顔の部分を消し去った.
意外にもエロイーズは自らモデルになると言い,マリアンヌは再挑戦を許される.伯爵夫人はパリに出かけるため5日間家を空けることになり,邸宅では女中ソフィーと娘達3人の暮らしとなる.3人は階級を越えて親密になるが,ソフィーは妊娠しており,3人はソフィーの堕胎のため協力して働く.翌晩島の中心部の祭りに出かけ,女たちの不思議な歌を聴く3人,エロイーズの衣装の裾に祭りの焚火が燃え移り,倒れた彼女を女たちが助ける.一方ソフィーは中絶手術を受ける.邸宅に帰った翌朝マリアンヌとエロイーズは結ばれた….
時代の制約の中で,たった5日間の女性同士の愛を描いた作品だが,映画らしい構成と見事な物語の展開,一区画もおろそかにしないカメラの力で見応えある映画となった.主演の俳優2人が美しくまた素晴らしい演技だ.マリアンヌの画家としての誇りを秘めた凛とした美しさ,エロイーズの恋を得て自信と輝きに満ちていく美しさが,それぞれ個性的で素敵.
またこの映画には次の2点の他は,いわゆる映画音楽はない.祭りの夜の不思議な歌は,不協和音から始まり複雑な手拍子に乗って女性コーラスが美しく響く.この歌はエンドロールにも使われている.一方,修道院の音楽以外知らないというエロイーズにマリアンヌがチェンバロで引いて聞かせた,ヴィヴァルディの合奏協奏曲四季:夏の第3楽章.映画のラストシーン「最後の再会」は,演奏会場でマリアンヌが見ていると知らず,この曲のフルコーラスを聞きながら涙し,やがて笑みを浮かべるエロイーズの長回し.素晴らしいラストシーンだ.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点).
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