独断的映画感想文:シリアにて
日記:2022年8月某日
映画「シリアにて」を見る.
2017年.監督・脚本:フィリップ・ヴァン・レウ.
出演:ヒアム・アッバス(オーム),ジャマン・アブー・アブード(ハリマ),ジュリエット・ナヴィス(デルハニ),モフセン・アッバス(アブ・モンゼール),ムスタファ・アル・カール(サミル).
シリアのある高級アパート,その一帯には狙撃手が潜み,少し遠くの砲弾や機関銃の射撃音が断続的に続く.アパートの主婦・オームは戦地にいる夫の留守を守る気丈な主婦.アパートには子供3人と老齢の義父,上階で砲撃を受け部屋を破壊された隣人ハリマの夫婦と赤ん坊,遊びに来て帰れなくなった娘のボーイフレンド,使用人のデルハニがいる.
ハリマの夫はレバノンへの脱出の手筈がついたと言ってアパートを出るが,その場で狙撃手に撃たれる.それを目撃したデルハニは,ハリマに夫の死を伝えようとするが,オームは救援に行くこともできない以上,今はハリマに伝えるべきではないと判断する.アパートの通路には正体不明の男たちが徘徊し玄関ドアを叩くが,オームは決して開けない.隙を見てハリマが上階の自室を見に行くが,廃墟は略奪され,赤ん坊のミルクも奪われた.アパートは停電し水も出ない.爆発音がするたびに,一番安全な台所に集まって間のドアを固く閉ざす.
男たちはたびたび玄関ドアを叩いていたが,そのうちの1人が突然ベランダに現れた.家族は台所に逃げ込むが,赤ん坊を自室に置いたままのハリマが逃げ遅れ,男たちに捕らえられる….
シリア内戦の一般市民から見た現実を描く映画.戦闘シーンはなく,爆発音や射撃音が響くだけだが,どういう音にどう反応するかを示すオーム等の動きが,市街戦の緊迫した状況をよく伝えている.アパートは豪華ではないが部屋数も多く,しっかりした調度と膨大な蔵書がある.この一家がどのように暮らしてきたかは明らかだが,今このアパートを実質的に支配しているのは党派所属を問わない略奪者の男たちだ.無差別に人を撃ち略奪と暴行に走る男たちと,身を挺して家と子どもたちを守る女たちの対比も印象的.
長い一日が過ぎ,事態はやや改善の兆しを見せて映画は終わるが,救援に来た友人たちは,このアパートから撤収すべきと伝えて帰って行く.映画が切り取ったのは,長い内戦の1日に過ぎなかった.1時間半の作品ながら緊張感にあふれ見応えあり.女性2人,ヒアム・アッバスとジャマン・アブー・アブードの存在感と好演が素晴らしい.
★★★★(★5個が満点).
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