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2022年9月に作成された記事

2022/09/17

独断的映画感想文:梅切らぬバカ

日記:2022年9月某日
映画「梅切らぬバカ」を見る.1_20220919174501
2021年.監督:和島香太郎.
出演:加賀まりこ(山田珠子),塚地武雅(山田忠男),渡辺いっけい(里村茂),森口瑤子(里村英子),斎藤汰鷹(里村草太),林家正蔵(大津進),高島礼子(今井奈津子).2_20220919174501
忠さんこと山田忠男は自閉症を抱える50歳.母の珠子と二人,古い一軒家に住む.毎朝6:45に起床し7時に朝食を摂る規則正しい生活.庭の梅の木は道にまで張り出して隣家の里村家からは文句を言われている.忠男の父がこの梅の木を植え,この木が見ているから悪いことはできないと言って息子を育てたおかげで忠男はいい子に育った,と珠子は言う.
里村家の一人息子草太は,珠子・忠男と仲良くなった.毎日忠男は作業所へ,珠子は自宅で占い師を開業.ところが忠男の誕生祝の日に忠男はぎっくり腰に,「このままでは共倒れ」と,珠子は忠男を近くのグループホームに入所させる.入所直前,珠子は梅の枝を剪定しようとするが,梅を伐る音に忠男は固まってしまい,剪定は中止.5_20220919174501
忠男がホームに入って暫くしたある夜,自販機でジュースを飲んでいた忠男は塾帰りの草太に誘われ,近くの乗馬クラブの馬小屋にいるポニーを見に行く.ポニーを連れ出したところを警備員に見つかり,草太は逃げるが忠男は捕まった.ポニーはそのまま脱走して,夜道でこれと出会った町会長が腰を抜かし,事態はグループホームへの抗議運動に発展する….4_20220919174501
おだやかなヒューマンドラマ.といってこの親子の生活は穏やかなことばかりではない.里村家に忠男が入り込んだ時は,主人茂が烈火のごとく怒り,珠子は平身低頭して忠男をもらい下げてきた.尤も忠雄は草太が失くしたボールを庭で見つけて届けただけだった.梅を伐りかけた後,忠雄はかなり暴れたらしい(部屋にはひっくり返った机や倒れた扇風機が映っている).誤解に基づくとは言え,ポニー事件のため忠男はグループホームを退所し自宅の生活に戻った.梅は伐らぬままだ.3_20220919174501
一方里村家とは,草太がポニー事件の真相を白状したこともあって,互いに理解し合えるようになった.忠男は,乗馬クラブの前を通る時もポニーにかまったりしないで,大人しく過ごすようになる.忠男の爪を噛む癖はいつの間にかなくなった.何も変わらないようで,少しだけだが変わったこともあるのだ.
俳優はそれぞれ腕の良いベテランで,安心して見ていられる.いささか類型的なところはあるが,後味は良い映画.見て損はなし.
★★★☆(★5個が満点).
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2022/09/11

独断的映画感想文:LOVE LIFE

日記:2022年9月某日
映画「LOVE LIFE」を見る.Love-life1
2022年.監督・脚本:深田晃司.
出演:木村文乃(大沢妙子),永山絢斗(大沢二郎),砂田アトム(パク・シンジ),山崎紘菜(山崎理佐),神野三鈴(大沢明恵),田口トモロヲ(大沢誠),嶋田鉄太(敬太).
団地で暮らす妙子・二郎の新婚夫婦,今日は妙子の連れ子の敬太がオセロの大会で優勝したお祝いと,義父・誠の誕生祝.ところがそのさなか思いがけない事故が起き,敬太は命を落とす.Love-life2
放心状態のまま葬儀に臨む妙子と二郎,ところがその席に,数年前に失踪し離婚が成立している敬太の父・パク・シンジが現れる.シンジはろうあ者で,団地の近くの公園でホームレスとして暮らしていた.シンジは役所に生活保護を申し込むが担当課は二郎の職場,シンジの手話通訳は担当課の関連NPOに勤める妙子が行うことになる.一方団地の別棟で暮らしていた誠夫婦は郊外に転居することになり,その転居を手伝いに泊りがけで出かけた二郎は,職場の同僚で元カノの理佐と会うことになる….Love-life4
矢野顕子の歌「LOVE LIFE」に着想を得て,20年越しにまとめられた監督のオリジナル脚本による映画.妙子はきびきびと歩きはっきりとモノを言い,てきぱきと仕事をこなす女性.シンジが失踪した後一人で敬太を育ててきた.しかし一方で妙子は,「敬太を独りで育てる自分」という立場に依存していたようにも見える.敬太を失った後は,「シンジの通訳をし(シンジの手話は日本の一般の手話と違うらしい)シンジの面倒を見る自分」への依存へとのめり込んでいく妙子.Love-life3
二郎は妙子とのつながりに敬太を必要としていたようだ.敬太を失った後,両親と妙子との間でバランスを見だしていく二郎.周囲の人たちも何かに依存し,人との関係の中に偏った自身を位置付けている.一方弱い人間と目されたシンジは,何かに依存することが案外少ない人間であったようだ.Love-life5
事故のあと空中分解していく妙子と二郎の関係がどうなるのか.いろいろなことを考えさせる映画.最後に流れる矢野顕子の歌が,胸にしみて美しい.
★★★★(★5個が満点).
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2022/09/09

独断的映画感想文:クライ・マッチョ

日記:2022年9月某日
映画「クライ・マッチョ」を見る.1_20220917214501
2021年.監督(制作も):クリント・イーストウッド.
出演:クリント・イーストウッド(マイク),エドゥアルド・ミネット(ラフォ),ナタリア・トラヴェン(マルタ),ドワイト・ヨーカム(ポーク).3_20220917214501
マイクは牧童出身のロデオスターだった男.落馬事故で体を傷め,先年妻と息子を交通事故で失ってからは,薬と酒に溺れている.長年彼を雇い支援もしてきたポークからも,遂に解雇を言い渡された.
1年後,ポークが彼を訪ねてくる.メキシコにいる別れた妻と暮らす息子が,母親に虐待されている,アメリカに連れ帰って欲しいと言う.誘拐とみなされかねない仕事だけにマイクは渋ったが,恩義あるポークのために引き受ける.メキシコの母親の家に行くとパーティーの真っ最中,会場に入ったマイクはすぐに用心棒に捕まる.母親は豪華な家に住むが男出入りが激しく,息子ラフォは家出して闘鶏場に入り浸る不良だと言ってマイクを追い出した.闘鶏場に入ったマイクはラフォを見つけ出し,折からの警官の手入れに紛れラフォを連れ出す.4_20220917214501
アメリカの牧場主の父のもとに行かないかという誘いに,家出生活に希望を持てなかったラフォは乗り気になり,闘鶏のチャンピオン・マッチョとともにマイクとアメリカに向かう.母親は追手を放ち連邦警察に通報したため,マイクたちは裏道を通って国境に向かうが,途中の集落で車は故障,マイクたちは食堂・マルタの店に世話になり,村外れの礼拝堂に泊まることにする.やがて女主人マルタが自分のコテージを提供,マイクは野生馬調教の仕事をラフォとともに請け負い,その街でしばらく暮らすことになる….5_20220917214501
老境のカウボーイが訳アリの少年と鶏とともに旅するロードムービー.90歳を超えたクリント・イーストウッドが,元気に馬に乗りアクションをこなす.この物語でラフォは家出少年から自立した男になって行き,マイクはラフォを鍛える中で自分を再生することができるようになる.野生馬の調教牧場に仕事を得て長逗留するのも,将来テキサスの牧場を引き継ぐかもしれないラフォに,馬の仕事一式を身に着けさせるためだ.2_20220917214501
孫のようなラフォと接しているうちに,マイクは人生を肯定的に見るようになる.元来マイクは動物好きで,マイクのもとには犬に咬まれた羊や太り過ぎた豚,老衰した犬などが次々に運び込まれるが,マイクは買主が満足するようにそれらの動物を癒してあげる.そのこともラフォを驚嘆させる.
物語は自立したラフォとマイクの姿を描いて終わりとなる.俳優では,食堂の女主人マルタを演じるナタリア・トラヴェンが素晴らしい.独りで親を亡くした孫娘らを育てながら,食堂を切り盛りするマルタが素敵だ.ラフォが抱いて話さない闘鶏・マッチョも素晴らしい活躍.「俳優」は10匹近い鶏達らしいが,的確な演技で大活躍をする.クリント・イーストウッドはただ見ているだけで見応えあり.しみじみほのぼの系の映画,見て損はなし.
★★★★(★5個で満点).
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2022/09/04

独断的映画感想文:モーリタニアン 黒塗りの記録

日記:2022年9月某日
映画「モーリタニアン 黒塗りの記録」を見る.0_20220910225601
2020年.監督:ケヴィン・マクドナルド.
出演:ジョディ・フォスター(ナンシー・ホランダー),タハール・ラヒム(モハメドゥ・ウルド・スラヒ),ニール・バックランド(サーメル・ウスマニ),シェイリーン・ウッドリー(テリー・ダンカン),ベネディクト・カンバーバッチ(スチュアート・カウチ中佐・製作も).
真実の物語.4_20220910225601
モハメドゥはモーリタニア人,2011年11月に友人の結婚式場からモーリタニアの警察に拉致され,アメリカに引き渡された.以来アフガニスタンを経て,4年後にはグアンタナモ基地に拘留されている.その間起訴もされず勾留理由も明らかにされていない.
この案件を知人から丸投げされた人権派弁護士のナンシーは,引き受けることを決意してグアンタナモ基地に向かう.一方米政府は,テロへの闘いの成果としてモハメドゥを死刑とするべく,その起訴をスチュアート中佐に依頼する.裁判資料としてナンシーが受け取ったものはすべて黒塗りにされたものだった.徐々にモハメドゥの信頼を得たナンシーは,法廷で証拠の強制開示を勝ち取るが,そこにはモハメドゥがテロへの関与を自供した調書が含まれていた.一方,資料として上がってくるものが自供と伝聞証言に過ぎないことに異常を感じたスチュアート中佐は,報告書の基となるMFR(memo for report)の提供を求めるが,拒否される.5_20220910225601
ナンシーはモハメドゥに自供前後の状況の手記を書き封印して彼女に届けるよう指示し,スチュアート中佐は苦心の末MFRを入手する.そこに書かれていたものは,心身を破壊する拷問の実態だった….3_20220910225601
この後スチュアート中佐は起訴は不可能と判断して辞任,モハメドゥを中継で法廷証言させることに成功したナンシーは,判事の支持を得てモハメドゥ釈放の判決を勝ち取る.政府の抵抗により釈放までなお4年の歳月を要したが,拘禁14年後の2016年にモハメドゥは釈放された.
真実の物語としてアメリカ政府の悪逆非道ぶりが描かれているが,一方でそれをカバーするナンシー達の活躍が描かれ,最終的にモハメドゥは(本人が画面に登場して)誰も恨んではいない,現在はハッピーだと述べている.2_20220910225601
グアンタナモ基地の担当者がモハメドゥに同情的で,オンラインでの法廷証言に共感を示すようなシーンも描かれるが,モハメドゥを死刑にするという愚かな命令を下した責任者への追及は,映画にはない.その点では中途半端な映画.しかしこの題材を描いてエンタテインメントとして提供した力量には敬意を表したい.日本では全く考えられないことである.
★★★★(★5個が満点)
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