« 2022年9月 | トップページ | 2022年11月 »

2022年10月に作成された記事

2022/10/30

独断的映画感想文:椿の庭

日記:2022年10月某日
映画「椿の庭」を見る.1_20221121165901
2020年.監督・脚本:上田義彦.
出演:富司純子(絹子),シム・ウンギョン(渚),田辺誠一(戸倉),清水紘治(幸三),鈴木京香(陶子).
冒頭,金魚池の金魚が死に,庭に埋葬して線香を供えるシーン.海を見晴らす広い庭付きの古い日本家屋に絹子は孫娘・渚と共に住む.渚は両親を亡くした帰国子女,日本語の勉強をしている.絹子の次女・陶子は子どものない自分たち夫婦のもとに,絹子と渚が同居してはと勧めるが,絹子は同意しない.2_20221121165901
夫が亡くなって四十九日の法要が住むと,税理士が相続税の相談にやってくる.税理士の結論は,土地の家を売って相続税を支払うというものだった.結婚後の人生をずっと過ごしてきたこの家と別れるのか,絹子はやがて結論を出す….3_20221121165901
この映画の主人公は,しっかりした造りの日本家屋と,うっそうとした樹木と虫たちに満ちた広大な庭かもしれない.プロット自体は単純で,絹子は税理士の提案に従い土地と家を売るが,その実行の直前におだやかな死を迎えるというもの.その物語を監督は家屋と庭の(特に花や樹々,虫やカエルたちの)膨大なショットで埋め尽くし,登場人物たちの日常の詳細な描写を長回しで切り取って描く.4_20221121165901
きわめてゆっくりした映画のテンポ,ピントの甘いショットの積み重ねは当初気になるが,映画の進展とともに慣れていき,長回しで描かれる終盤のドラマは誠に印象的.寡黙な映画で説明は必要最小限だが,渚の立場も中盤で明らかになり混乱はない.5_20221121165901
俳優は何と言っても富司純子とシム・ウンギョンの存在感が素晴らしい.絹子とともに亡びて行く小世界がいとおしくなる映画.
★★★★(★5個が満点).
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0)

2022/10/11

独断的映画感想文:鑓の権三

日記:2022年10月某日
映画「鑓の権三」を見る.1_20221121164601
1986年.監督:篠田正浩,脚色:富岡多恵子,原作:近松門左衛門.
出演: 郷ひろみ(笹野権三),岩下志麻(市之進女房・おさゐ),火野正平(川側伴之丞),田中美佐子(伴之丞妹・お雪),加藤治子(お雪の乳母),津村隆(浅香市之進),水島かおり(市之進娘・お菊),嶋英二(市之進伜・虎次郎),浅川奈月(市之進娘・お捨),大滝秀治(岩木忠太兵衛),三宅邦子(忠太兵衛女房),河原崎長一郎(忠太兵衛伜・甚平),不破万作(川側家下男・波介),竹中直人(権三の同僚・文右衛門),浜村純(道具屋の主人),小沢昭一(船頭).
元禄時代の松江藩.小姓・笹野権三は槍の名手にして茶道もたしなむ美貌の青年.同僚の川側伴之丞の妹・お雪と言いかわした仲だが,兄伴之丞は権左へのライバル心からそれを許さない.茶道の筆頭指南・浅香市之進は江戸詰め,留守を預かる妻おさゐは,14歳の娘お菊の婿に権三を望んでいた.3_20221121164601
藩主の世継ぎ誕生に伴い,祝賀として茶道の極意である「真の台子」が開催されることとなる.市之進に代わって「真の台子」は権三か伴之丞が取り仕切ることになる.権三はおさゐを訪れ,「真の台子」の伝授を願い出る.お菊と結婚し婿となれば,一子相伝として伝授は可能と伝えるおさゐ,権三は結婚を承知し,その深夜伝授のためおさゐのもとを訪れる.
しかし権三の帯にお雪の家紋の縫い取りを見たおさゐは逆上,権三の帯を剥ぎ取り自分の帯とともに庭に投げ出すが,色仕掛けでおさゐを篭絡しようと庭に潜んでいた伴之丞が,不義の証拠と叫びその帯を持ち去った….
その後2人は逃亡し,市乃進は女敵(めがたき)討ちのためその後を追う.脚本は,近松門左衛門の浄瑠璃『鑓の権三重帷子』をもとに富岡多恵子が執筆.理不尽な物語を,篠田監督が丁寧に美しく描く.2_20221121164601
俳優たちもそれぞれに淡々と熱演,岩下志麻の浄瑠璃人形のように思いつめた表情が印象的だった.独り竹中直人が,画面の調子を狂わす怪演で興醒め.松江城下や京都洛中の描写も美しく,見応えあり.
★★★☆(★5個が満点).
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0)

2022/10/09

独断的映画感想文:夜がまた来る

日記:2022年10月某日
映画「夜がまた来る」を見る.1_20221121163901
1994年.監督・脚本:石井隆.出演:夏川結衣(土屋名美),根津甚八(村木哲郎),寺田農(池島政信),椎名桔平(柴田一哉),永島敏行(土屋満).
名美の夫満は麻薬Gメン,潜入捜査中射殺された上,麻薬横流しの汚名を着せられ報道される.名美は更に夫の潜入先・池島組のチンピラに襲われ暴行される.復讐を誓った名美は池島を襲おうとするが,池島の側近・村木に阻止される.名美は自殺を図るが村木に救われる.更に名美はホステスとして池島に接近,ベッドで池島を襲うが失敗,しゃぶ漬にされて場末の娼婦に売られる….
「名美と村木」を描く石井監督のシリーズ.借りたDVDは音声が悪く,ほとんどの台詞は聞き取れなかった.それでも特に支障なく最後まで鑑賞できるのは,この映画が物語でなく情念を描く映画だから.亡き夫の復讐のため何処までも堕ちていく名美,その名美に無償の愛を尽くす村木,彼らが亡びていく暴力の世界.それは十分に描けていただろう.
★★★(★5個が満点)
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0)

2022/10/06

独断的映画感想文:クレイジー・ハート

日記:2022年10月某日
映画「クレイジー・ハート」を見る.1_20221120165201
2009年.監督:スコット・クーパー.出演:ジェフ・ブリッジス(バッド・ブレイク),マギー・ギレンホール(ジーン・クラドック),ロバート・デュヴァル(ウェイン),ライアン・ビンガム(トニー),コリン・ファレル(トミー・スウィート),ポール・ハーマン(ジャック),ジャック・ネイション(バディ・クラドック).2_20221120165201
バッドは往年の人気カントリー歌手,しかし今はヒット曲もなく独りでバーを回っているドサ周りの日々.歌声は衰えないがアルコールに溺れ,舞台は綱渡りの毎日.自分の弟子と自他ともに認めるトミー・スウィートが全盛だが,彼との共演には応じようとしない.
しかしある日の取材で地方紙の女性記者・ジーンと出会う.思いがけなくも一夜を共にした二人,ジーンは離婚し最愛の息子と二人生きている.二人に心ひかれたバッドは生活を立て直そうと,トミーとの共演依頼に応じ新曲の作成にも挑む.3_20221120165201
その後自損事故を起こしたバッドはサンタフェのジーンの自宅で療養,二人との関係は深まった.ヒューストンの自宅に戻ったバッド,今度はジーンが息子を連れてやってくる.3人で出かけジーンが休憩中に息子を預かったバッド,しかしバッドがバーで一杯やっているうちに息子の姿を見失う.5_20221120165201
警察の捜索で息子は見つかったが,バッドが酒を飲んでいたことでジーンは激怒,荷物をまとめ息子と帰ってしまった.バッドはアルコール依存症の治療に努め,改めてジーンのもとを訪れるが,ジーンはバッドを受け入れなかった….4_20221120165201
主演の二人と共演の二人が,いずれも好きな俳優で楽しかった.ジェフ・ブリッジス演じるバッドの落ち目ぶりがなかなか良い.たれ目のマギー・ギレンホールも愛らしかった.物語としては,ジーンを失ったことでバッドが自分の人生を見直すに至ったこと,その後の経過が印象深い.ラストシーンで描かれる1年4カ月後の二人の再会も素敵.見て損はなし.
★★★☆(★5個が満点).
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0)

2022/10/04

独断的映画感想文:マイ・ブロークン・マリコ

日記:2022年10月某日
映画「マイ・ブロークン・マリコ」を見る.1_20221011171601
2022年.監督・脚本:タナダユキ.
出演:永野芽郁(シイノトモヨ),奈緒(イカガワマリコ),窪田正孝(マキオ),尾美としのり(マリコの実父),吉田羊(マリコの実父の後添い).6_20221011172101
ブラック企業に勤めるシイノがラーメン屋で見たニュースは,小学生からの無二の親友マリコの自殺を伝えるものだった.マリコの遺体はすでに親に引き取られ荼毘に付されていた.実父にはDVを受け,実母はマリコと実父の関係を嫌って蒸発,社会人になってからはDV男と恋仲になってはボロボロにされていたマリコ.幾度もその危急を救い,身を挺してDV男と戦ってきたシイノ,自身も不良娘であるシイノの唯一の親友マリコが,自分に相談もなく自殺し今その骨はDV実父のもとにある.3_20221011171601
決意したシイノは武装してマリコの実家に侵入,実父の面前からマリコのお骨を奪い取り窓から脱出する.マリコが生前行ってみたいと言っていた「まりがおか岬」への,シイノとマリコの旅が始まる….2_20221011171601
マリコとの思い出を挟みながら進むロードムービー.マリコに頼られることに頼り切っていたシイノの喪失感の爆発に,激しく心を揺さぶられる.直情径行やさぐれOLのシイノが愛おしい.まりがおか岬で巻き込まれ親身にシイノの世話をするマキオも,複雑な過去を持つらしくおだやかで魅力的だ.5_20221011171601
俳優たちがいずれも好演,タナダユキ監督がふとさしはさむユーモアが,重いプロットの中で印象的だ.エピローグで,結局元のブラック企業で働くシイノ.何も変わっていない様で,最後にマリコの継母から届いたマリコの最期の手紙を読むシイノが,ちょっと笑うラストシーンが良かった.
★★★★(★5個が満点).
にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

| コメント (0)

« 2022年9月 | トップページ | 2022年11月 »