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2022年11月に作成された記事

2022/11/30

独断的映画感想文:名もなき歌

日記:2022年11月某日
映画「名もなき歌」を見る.1_20221204220101
2019年.監督:メリーナ・レオン.
出演:パメラ・メンドーサ(へオルヒナ・コンドリ),トミー・パラッガ(ペドロ・カンポス),ルシオ・ロハス(レオ・キスぺ),マイコル・エルナンデス(イサ).2_20221204220101
1988年,ペルー.ヘオルヒナとレオは若い夫婦.ヘオルヒナはすでに妊娠しており,両親の祝福を受け故郷アヤクチョを出て,リマ近郊で暮らし始める.家は砂丘の中腹にある掘立小屋,その日暮らしの二人だ.
ラジオで無料の出産サービスを行っている財団の宣伝を耳にしたヘオルヒナは,早速その産院に出かけ検診を受ける.数日後産気づくと,独力で産院に行き無事出産した.5_20221204220101
しかし女の赤ちゃんは,ヘオルヒナが眠っているうちに検査のため病院に移されたと言われる.そのまま産院を追い出されたヘオルヒナ,翌日産院に行くとそこにはもう誰もいなかった.彼女はレオとともに警察や裁判所に訴えるが,極貧で有権者番号を持たない彼らは取り合ってもらえない.ヘオルヒナは新聞社に行き,そこで出会った記者のペドロは取材に乗り出してくれた….4_20221204220101
この後の記述にはネタバレがあります.
ペルー出身の監督が,実話をもとにモノクロ・スタンダードの画面で描く,社会派ドラマ.寡黙な映画で,ペルーの事情に詳しくない自分にとっては判り難い展開だ.3_20221204220101
ペドロの必死の捜索とヘオルヒナの努力で,同様な経験をした女性が数名見つかり,また海外へ養子縁組した赤子を送り出す組織の存在が浮かび上がる.しかし判明するのはそこまで.映画では一部の組織の摘発とそれに関与した汚職判事の罷免を伝える報道が明らかになるが,ペドロにこの問題に首を突っ込むなと警告する政治家や,ゲイであるペドロへの脅迫も明らかになる.
淡々と描かれていくペルー社会の貧困と格差,腐敗と偏見が胸を打つ.最後のシーンで,海を見つめながら一人で子守唄を歌い続けるヘオルヒナの歌声が,印象的だった.心に残る映画.
★★★★(★5個が満点).
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2022/11/19

独断的映画感想文:MINAMATA―ミナマタ―

日記:2022年11月某日
映画「MINAMATA―ミナマタ―」を見る.Minamata1
2020年.監督:アンドリュー・レヴィタス.出演:ジョニー・デップ(W・ユージン・スミス),真田広之(ヤマザキ・ミツオ),國村隼(ノジマ・ジュンイチ),美波(アイリーン),加瀬亮(キヨシ),浅野忠信(マツムラ・タツオ),岩瀬晶子(マツムラ・マサコ),ビル・ナイ(ロバート・“ボブ”・ヘイズ).Minamata2
1971年ニューヨーク.カメラマン:ユージ・スミスは自身の活動を終息すべく,子供へ金を残すため機材を売り払い,長年付き合いのあったグラフ雑誌LIFEとも袂を分かとうとする.そんな折,富士フィルムのコマーシャルのため通訳のアイリーンのインタビューに応じるが,アイリーンは彼に日本の公害病・水俣病の資料を渡し,訪日して水俣の写真を撮るよう訴える.沖縄戦に従軍カメラマンとして参加し,重傷を負って後遺症にも悩むユージンは当初断る.しかし資料を一読して水俣行きを決意,LIFE誌の編集長ボブ・ヘイズに水俣取材を了承させ,1971年アイリーンとともに水俣を訪れる.Minamata3
ユージンとアイリーンは胎児性水俣病児であるアキコの家に泊まることになった.父親のタツオは二人を歓迎するが,アキコの写真は撮ることを許さない.水俣病患者で自身も撮影をするキヨシや,自主交渉派のリーダー・ヤマザキはユージンを支持するが,多くの住民は撮影に非協力的だった.それでもキヨシの協力で暗室や機材の整った作業小屋が準備され,ユージンは取材を進める.
公害源と思われるチッソの附属病院に潜入したユージン,アイリーン,キヨシは,そこで患者の写真を撮るとともに,チッソが以前から自社の廃液が水俣病の原因だと知っていたことを示す研究資料を発見する.しかしチッソの株主総会が近づくと,警官が山崎の家に押し入り,また作業小屋はネガやプリントもろとも放火により焼失する.全てを諦め帰国しようとするユージン,しかしLIFEのボブの叱咤激励や地元の少年シゲルとの交流を通じ,ユージンは再度立ち上がる.ユージンは自主交渉派の住民の前で,患者の写真を撮影させて欲しいと懇願する….Minamata4
映画は冒頭,事実に基づく物語との表示があるが,本作はユージン・スミスという写真家の再生と,作品「入浴する智子と母」の完成に至る,水俣と水俣闘争を舞台とした物語と言って良い.そのために脚本では事実がかなり変更されているところがある.しかしそれは問題ではない.Minamata5
ユージンを演じるジョニー・デップの演技は迫力があり,映画の進行とともに引き込まれる.「入浴する智子(映画ではアキコ)と母」の撮影シーンは厳かな静けさに満ちていて,感銘的だ.結末では,その写真がLIFEに掲載され世界に配信されていく.共演者も実力派ぞろい,一見の価値あり.★★★☆(★5個が満点).
P.S.この映画を見て,あらためて若い時に見た土本典昭監督の水俣のドキュメンタリー映画を思い出した.患者さんの厳しい状況が淡々と映し出される一方,夢のように美しい水俣・不知火海の風景が心に染みついた記憶がある.
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2022/11/15

独断的映画感想文:あちらにいる鬼

日記:2022年11月某日
新宿ピカデリーで「あちらにいる鬼」を見る.1_20221120171301
2022年.監督:廣木隆一.出演:寺島しのぶ(長内みはる/寂光),豊川悦司(白木篤郎),広末涼子(白木笙子),高良健吾(小桧山真二),村上淳(秦),蓮佛美沙子(坂口初子),佐野岳(矢沢祥一郎),宇野祥平(新城),丘みつ子(白木サカ).3_20221120171301
1966年,文学講演会で初めて出会った長内みはると白木篤郎,二人は九州の講演会にみはるが出かけたとき,結ばれる.左翼系の作家として作品を発表し続ける白木,しかし女性に対しては文学サークルの女性や,水商売の女性を次々と口説いては関係を持っている.この時点で白木の妻・笙子は第2子を妊娠中,笙子は淡々と白木の愛人との手切れや後始末をこなし,白木の留守中に無事次女を出産する.5_20221120171301
白木は妻とは自宅新築の話を進め,みはるが若い愛人と別れて京都に住むようになると,その東京の別宅に入りびたるようになる.その一方で,他の女性との関係を隠そうともしない白木にみはるは思い悩み,遂にある決心を固めるが….2_20221120171301
作家井上光晴と瀬戸内晴美の不倫を,井上光晴の娘・井上荒野が小説化した原作の映画化.主人公の二人にこのキャスティングを得たのは,まことに適切で大成功である.監督の,表情のアップと長回しとを多用する撮り方に,笙子の広末涼子を含めた3人が見事にこたえ,見応えあり.特に後半,3人の人柄,性格,考え方が次第に浮き上がってくるにつれて,映画の緊張感は次第に高まる.
みはるの出家・剃髪からラストシーンに至る過程は,感銘的で涙を禁じ得なかった.2_20221120171302
★★★★(★5個が満点)
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2022/11/02

独断的映画感想文:天間荘の三姉妹

日記:2022年11月某日
アップリンク吉祥寺へ,映画「天間荘の三姉妹」を見る.1_20221107205101
2021年.監督:北村龍平.
出演:のん(小川たまえ),門脇麦(天間かなえ),大島優子(天間のぞみ),高良健吾(魚堂一馬),山谷花純(芹崎優那),萩原利久(早乙女海斗),平山浩行(早乙女勝造),柳葉敏郎(魚堂源一),中村雅俊((友情出演)宝来武),三田佳子((特別出演)財前玲子),永瀬正敏((友情出演)小川清志),寺島しのぶ(天間恵子),柴咲コウ(イズコ).4_20221107205101
東北の海沿いにある三瀬村.老舗旅館・天間荘の若女将・のぞみが,妹かなえとともに緊張して玄関で待つ.タクシーで謎の女性イズコに案内され到着したのはたまえ,二人の異母妹だ.たまえは初めて見る海に夢中.浜辺で寝入ってしまう.
ここは現世とあの世の間にある世界,たまえは母に死なれ父は蒸発,天涯孤独の身で施設で生きてきた.働き始めた直後交通事故に遭って,今現世では生死の境にある.自分の魂をゆっくり休め,来世に旅立つか現世に戻るかを自分で決める場所が,この三瀬村だ.たまえは客としてこの天間荘に来たのだが,迎えたのぞみとかなえが異母姉妹と知り,自分も天間荘で働くと言う.5_20221107205101
天間荘の客・財前も現世では生死の境にいる.中居見習いとして働き始めたたまえは,財前に厳しくしごかれる.新たな客として優那がやってくる.いじめで自殺を図った彼女もやはり前世では生死を彷徨っている.自暴自棄になっている優那はたまえと次第に友情をむすぶようになるが….2_20221107205101
現世とあの世の間にある三瀬村とは,どういう場所なのだろう.天間荘の次女・かなえは村の水族館に勤めイルカを調教している.水族館には観光客も来ている.天間荘には毎日魚を納品する一馬も来るが,数馬とかなえは恋仲らしい.それらすべてがこの世ではないというのは,どういうことなのか.3_20221107205101
映画はその事情を次第に明らかにしつつ,この世の人ではない人々の行く末と,現世の人でもある財前,優那,たまえの運命を描いていく.主役のんの存在感が素晴らしく,その魅力に引き込まれた.共演する三田佳子,寺島しのぶ,永瀬正敏らの演技も味わい深い.見て損はなし.
ただ,全体としてはやや冗長で,150分の長尺にする意味はあまり感じない.カメオ出案の高橋ジョージやつのだひろ等も余計.
★★★☆(★5個が満点).
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