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2022年12月に作成された記事

2022/12/24

独断的映画感想文:ケイコ 目を澄ませて

日記:2022年12月某日
映画「ケイコ 目を澄ませて」を見る.1_20221225224001
2022年.監督:三宅唱.出演:岸井ゆきの(小河ケイコ),三浦誠己(林誠),松浦慎一郎(松本進太郎),佐藤緋美(小河聖司),渡辺真起子(五島ジム・オーナー),中村優子(医師),中島ひろ子(小河喜代実),仙道敦子(会長の妻),三浦友和(会長),足立智充.6_20221225224001
ケイコは聴覚障がい者,荒川土手下の小さなジムで,プロボクサーとしてトレーニングに励む.ホテルの客室係として働き,ミュージッシャンを目指す弟とルームシェアして暮らす日々.プロとしては2戦2勝,しかし次の試合が2カ月後にある.一方,会長は高齢で体力も衰え,ジムを閉める決断を固めつつあった.ケイコにとって唯一のいきがいであるボクシング,しかしケイコはジムにとって自分の存在が差し障りになっているのではないかと悩み,闘志が乱れる日々を過ごしている….5_20221225224001
寡黙な映画である.ケイコはほとんどしゃべらない(映画でのケイコの台詞は「はい」が2回あるのみ).ケイコは詳細な日記を書いているが,それ以外の人とのコミュニケーションは,ほとんどがボクシングのトレーニングで行われる.ロードや縄跳びの繰り返し時の平穏な表情,スパーリングが精度を上げていった時の思わず浮かぶケイコの微笑み.ケイコと会長の感情の結びつきも印象的だ.ケイコと会長が鏡の前で二人で同じ型を繰り返すシーン,会長がケイコの視線に合わせて座り込みジム閉鎖を詫びるシーンには,涙を禁じ得ない.2_20221225224001
ケイコが何を考え何を悩んでいるかは,ケイコの独白もなく観客もケイコの表情と動きから推察するしかない.試合にケイコはどう向かっていくのか,その結果ケイコはどうなるのか,映画は高い緊張感のまま,結末に進む.3_20221225224001
俳優では岸井ゆきのが圧倒的力量,彼女の映画を見るのは4作目だが,これほどひりひりする演技を見せられたのは初めて,まことに印象的だ.聴覚障碍者がボクシングをすることについての会長の言葉「ケイコはレフリーの声も聞こえずゴングも聞こえずセコンドの指示も聞こえない.危険極まりないのです」も,心に残った.でもそのことを訴える映画ではない.ケイコの人生を描く映画だ.見て損はなし.
★★★★☆(★5個が満点).
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2022/12/22

独断的映画感想文:とんび

日記:2022年12月某日
映画「とんび」を見る.1_20221226163101
2022年.監督:瀬々敬久.出演:阿部寛(市川安男),北村匠海(市川旭),杏(由美),安田顕(照雲),大島優子(幸恵),麿赤兒(海雲),麻生久美子(美佐子),薬師丸ひろ子(たえ子).
昭和37年,瀬戸内海に面した備後市.市川安男は体格に恵まれた一本気な男,父母を知らず叔父夫婦に育てられた身だが,街の運輸業に勤め従業員にも街の皆にも知られた男だ.愛妻の美佐子との間に一粒種の旭が生まれ,ますます張り切る安男.2_20221226163101
ところがある日,職場に来た旭の目の前で荷崩れ事故が起き,かばった美佐子は帰らぬ人となる.安男は寺の和尚海雲と息子の照雲夫婦の助けも借り,男手ひとつで旭を育てる.思春期の旭との間に生じる葛藤も乗り越えたが,旭は早稲田進学のため東京に行くことになる….3_20221226163101
重松清の原作の映画化.安男と旭の父子関係を軸とした物語.なんと言っても阿部寛の体躯と個性がこの映画を成立させている,それが誠に魅力的な映画.安男が乱暴者でめちゃくちゃな男ながら,皆に愛され力添えを受ける訳が,阿部寛の安男を見ていると良く判る.安男は体を張って先頭切って働き,仲間を領導する人物だ.5_20221226163101
一方,一本気な余り喧嘩は絶えず理不尽な暴力に及ぶこともある.安男が美佐子と結婚して,街中の人が一安心したのではないかというのも想像に難くない.その忘れ形見旭と安男への周囲の愛情も,共感せずにはいられない.しかし旭が一人の男として歩き始めた時,安男の胸中はどうだろうか.物語はさらに,旭が年上の子連れの女性と結婚を決意して,最終局面へと進む.6_20221226163101
周囲を固める俳優もいずれも手練れぞろい,安田顕,薬師丸ひろ子,大島優子らが存在感ある好演.見て損はなし.しかし麻生久美子って,いつも旦那に愛される妻なのにはかなく死んでしまう役をしているような気がする(まあ見たのは「散り椿」くらいですけど).
★★★★(★5個が満点).
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2022/12/12

独断的映画感想文:子供はわかってあげない

日記:2022年12月某日
映画「子供はわかってあげない」を見る.1_20221217183801
2020年.監督:沖田修一.出演:上白石萌歌(朔田美波),細田佳央太(門司昭平),千葉雄大(門司明大),古舘寛治(朔田清),斉藤由貴(朔田由起),豊川悦司(藁谷友充),高橋源一郎(古書店主).
映画の冒頭は延々とアニメ『魔法左官少女バッファローKOTEKO』の画面.朔田美波はアニメおたくの高2水泳部員.『魔法左官少女バッファローKOTEKO』の大ファンで,見終わると感動の涙を流す.2_20221217183801
ある日部活終了後に,屋上で「KOTEKO」の絵を描いている人影を発見し急行する.それは同じ高2の書道部員門司昭平クンだった.これをきっかけに「KOTEKO」つながりで親しくなった二人,美波が門司の家を訪ねるとそこは代々書家である門司家の大邸宅だった.そこで美波は門司の先代が書いた「お札」を発見するが,それは幼い時離婚して新宗教を起こした父から,最近美波宛に送ってきたお札と同一だった.お札は父の依頼で先代が字を書いたらしい.門司クンの勧めで美波は門司の兄・明大に父の居場所を捜索するよう依頼するが,あっけなく父・藁谷友充の所在は判明する.5_20221217183801
美波は水泳部の合宿に行くと云って,家族に内緒で父を訪ねることにする.父は教祖を引退し,指圧師として師匠とともに働いていた.ぎごちなく互いに挨拶し,二人の共同生活が始まるが….4_20221217183801
同名のコミックを原作とする実写映画化.実父との邂逅と交流,門司クンとのロマンスを描くひと夏の青春物語.コミックが原作らしく,オーソドックスながら罪のないユーモアで彩られた物語の展開が楽しい.3_20221217183801
この映画はとにかく上白石萌歌を見る映画,素直に育った美波によく合ったキャラが魅力的だ.終盤,屋上でぽろぽろと涙を流して泣く美波のシーンは印象的.対する門司クンも爽やかで,二人の出会いや登下校のシーンが長回しで描かれるが見応えあり.また周りを固める俳優も好演.原作がそうだから仕方がないが,悪い人は一人も出ずほんわかとした雰囲気で最後まで押し通す.見て損はなし.
★★★☆(★5個が満点).
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2022/12/01

独断的映画感想文:ザリガニの鳴くところ

日記:2022年12月某日
映画「ザリガニの鳴くところ」を見る.1_20221205174101
2022年.監督:オリヴィア・ニューマン.製作:リース・ウィザースプーン/ローレン・ノイスタッター.
出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ(カイア),テイラー・ジョン・スミス(テイト),ハリス・ディキンソン(チェイス),マイケル・ハイアット,スターリング・メイサー・Jr,デヴィッド・ストラザーン(トム).2_20221205174101
1969年,ノースカロライナの湿地帯で,裕福な家庭の青年チェイスが死体で発見される.死因は近くに立つ火の見やぐらからの転落死とされ,事故・自殺・他殺が判然としない中,湿地帯に一人で住む女性カイアが犯人として逮捕される.カイアは街の人々から「湿地の娘」と呼ばれ異端視されていた.唯一彼女を知るのは,彼女が買い物をする店の黒人店主夫婦ジャンピンとメイベル,引退弁護士のトムのみ.トムの弁護で裁判が進む中,彼女の驚くべき半生が明らかになる.5_20221205174101
1950年代半ば,カイアは両親と4人の姉兄とともに暮らしていた.しかし父のDVが激しくなり,ついに母親は家を出てしまう.続いて姉二人,兄たちも次々と家を出,父とカイアの二人の生活となった.7歳となったカイアはジャンピンの勧めで小学校に行ってみるが,裸足で汚く臭いと苛められ,学校には二度と行かなかった.その数年後,父も家を出て行方不明となる.カイアは毎日ムール貝を採ってジャンピンの店に納め,代わりに生活必需品を受け取って一人で暮らしを立てる.その合間に,カイアは湿地帯の花や樹々,貝殻や虫や鳥たちを精密にスケッチするようになる.6_20221205174101
14歳の頃,森で出会った青年テイトは兄ジョディの友人,カイアは高校生のテイトと付き合うようになる.彼から読み書きを教わり図書館の本を読めるようになったカイア,テイトとカイアは愛し合うようになる.しかしテイトは父から「湿地の娘」と付き合わないよう警告を受ける.テイトは大学に進学することが決まり,その年の独立記念日に戻ってくると約束して旅立って行った.テイトはその時,カイアに動植物のスケッチと彼女の文章を本にするよう勧め,出版社の宛先をメモにして置いて行く.しかし独立記念日の日,テイトは帰ってこなかった….3_20221205174101
ディーリア・オーエンズのベストセラー小説の映画化,原作は未読.この5年後後,カイアは裕福な青年チェイスの誘いに応じつきあうようになる.一方,自分の書き溜めたスケッチと文章を出版社に送り,本にすることに成功する.その印税で彼女は未納の税金を払い,自宅と周辺の土地の所有権を確保した.出版した本を目にした兄のジョディとも再会した.しかしチェイスはカイアの他に婚約者がいて,カイアと争いになると暴力をふるい,更に彼女の自宅を荒らす行為に出たのだった.
映画は裁判の展開とカイアの過去を交互に描きながら進む.原作自体がかなり数奇な物語で,映画で描くときにいささか違和感や非現実感があるのは,否めない.しかしそんなことはどうでも宜しい.4_20221205174101
ノースカロライナの湿地帯の圧倒的な自然,独りでたくましく生きる少女カイアの美しさ,カイアを支えるジャンピンとメイベルの情愛,それらに引き込まれ最後まで一息に見た.主演のデイジー・エドガー=ジョーンズの存在感が素晴らしい.マイケル・ダナの音楽,テイラー・スイフトの主題歌も素敵だ.一見の価値あり.
★★★★☆(★5個が満点).

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