独断的映画感想文:ケイコ 目を澄ませて
日記:2022年12月某日
映画「ケイコ 目を澄ませて」を見る.
2022年.監督:三宅唱.出演:岸井ゆきの(小河ケイコ),三浦誠己(林誠),松浦慎一郎(松本進太郎),佐藤緋美(小河聖司),渡辺真起子(五島ジム・オーナー),中村優子(医師),中島ひろ子(小河喜代実),仙道敦子(会長の妻),三浦友和(会長),足立智充.
ケイコは聴覚障がい者,荒川土手下の小さなジムで,プロボクサーとしてトレーニングに励む.ホテルの客室係として働き,ミュージッシャンを目指す弟とルームシェアして暮らす日々.プロとしては2戦2勝,しかし次の試合が2カ月後にある.一方,会長は高齢で体力も衰え,ジムを閉める決断を固めつつあった.ケイコにとって唯一のいきがいであるボクシング,しかしケイコはジムにとって自分の存在が差し障りになっているのではないかと悩み,闘志が乱れる日々を過ごしている….
寡黙な映画である.ケイコはほとんどしゃべらない(映画でのケイコの台詞は「はい」が2回あるのみ).ケイコは詳細な日記を書いているが,それ以外の人とのコミュニケーションは,ほとんどがボクシングのトレーニングで行われる.ロードや縄跳びの繰り返し時の平穏な表情,スパーリングが精度を上げていった時の思わず浮かぶケイコの微笑み.ケイコと会長の感情の結びつきも印象的だ.ケイコと会長が鏡の前で二人で同じ型を繰り返すシーン,会長がケイコの視線に合わせて座り込みジム閉鎖を詫びるシーンには,涙を禁じ得ない.
ケイコが何を考え何を悩んでいるかは,ケイコの独白もなく観客もケイコの表情と動きから推察するしかない.試合にケイコはどう向かっていくのか,その結果ケイコはどうなるのか,映画は高い緊張感のまま,結末に進む.
俳優では岸井ゆきのが圧倒的力量,彼女の映画を見るのは4作目だが,これほどひりひりする演技を見せられたのは初めて,まことに印象的だ.聴覚障碍者がボクシングをすることについての会長の言葉「ケイコはレフリーの声も聞こえずゴングも聞こえずセコンドの指示も聞こえない.危険極まりないのです」も,心に残った.でもそのことを訴える映画ではない.ケイコの人生を描く映画だ.見て損はなし.
★★★★☆(★5個が満点).
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