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2023年2月に作成された記事

2023/02/24

独断的映画感想文:ローズメイカー 奇跡のバラ

日記:2023年2月某日
映画「ローズメイカー 奇跡のバラ」を見る.1_20230225222201
2020年.監督:ピエール・ピノー.
出演:カトリーヌ・フロ(エヴ),メラン・オメルタ(フレッド),マリー・プチョー(ナデージュ),オリヴィア・コート(ヴェラ),ファッシャ・ブヤメッド(サミール),ヴァンサン・ドゥディエンヌ(ラマルゼル).2_20230225222201
エヴは個人薔薇園を経営している.育種家としての実力・名声は揺るぎないが,バラ園としての経営は大手に押されピンチを迎えている.今年もコンクールでは賞を取れず破産は目前.大手のラマルゼルの社長は彼女を育種家としてスカウトしようと声をかけてきているが,ラマルゼルの経営方針を商業主義と見る彼女は,頑として首肯せず破産したら薔薇園は閉めると宣言している.3_20230225222201
父の代からエヴと共に働いているヴェラは,見かねて職業訓練所から3人を雇い入れる.いずれも給料は安いが園芸は全くの素人,フレッドは更生中の犯罪者,ナデーシュは極端に内気,サミールはずっと定職に着けていない50歳.彼らとともにエヴは起死回生の賭けに打って出るが….
こういう設定で始まり最後にはハッピーエンドに終わる,物語としてはべたな映画.更にエヴは新種の交配のためフレッドを使って非合法的手段に訴えるという一幕もある.エヴは人間的には傲岸不遜で共感できず,エヴが商業主義と批判するラマルゼルの社長は,当たり前の商業主義をしているだけで非の打ちどころのない人物だ.
こういう状況で当初は主人公には全く共感できない映画の展開なのだが,追い詰められたエヴが同じく人生で追い詰められている3人とヴェラと力を合わせ,苦境を切り開いていく過程でエヴも他の人たちもどんどん変わっていく.特にフレッドの変遷が印象的だ.フランス映画ってこういう展開のドラマがうまいような気がする.4_20230225222201
最後のどんでん返しは全くの偶然からエヴがコンクールに優勝するという展開なのだが,まあ何となく納得させられるのも監督の力のうちか.美しいバラの花を楽しめる映画.
★★★☆(★5個が満点).
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2023/02/12

独断的映画感想文:コンパートメントNo.6

日記:2023年2月某日
映画「コンパートメントNo.6」を見る.No61
2021年.フィンランド/ロシア/エストニア/ドイツ合作.監督:ユホ・クオスマネン.
出演:セイディ・ハーラ(ラウラ),ユーリー・ボリソフ(リョーハ),ディナーラ・ドルカーロワ(イリーナ).No62
ラウラはフィンランド人の留学生,モスクワで教授イリーナの下宿に住み彼女とは恋仲.イリーナは自宅で学者仲間を集めたパーティーをたびたび開き,考古学を専攻するラウラはムルマンスクにある1万年前の岩窟壁画ペトログリフの話を聞き興味を持つ.
ムルマンスクに行くことになったラウラだが,同行するはずのイリーナはドタキャン,独りで2等寝台に乗り込んだラウラの同室はロシア人男性のリョーハだった.粗野なリョーハは列車が出るなり飲み始め泥酔,フィンランド人を馬鹿にしてラウラを娼婦扱いし,体に触りに来る.激怒したラウラは別の寝台車を探すが,車掌は対応せず列車内は満席.仕方なく元の部屋コンパートメントNo.6に戻る.No64
翌朝食堂車で言葉を交わした二人,ラウラが考古学専攻の大学生と知ったリョーハの態度は少し変わったようだ.列車が一晩停車する途中駅で,リョーハはラウラを知人の家で過ごそうと誘う.イリーナにうまく電話の通じないラウラは,リョーハに連れられその家に行くが,主人は年配の夫人で,ラウラとは話が弾んだ.翌日列車に戻った二人,ぎごちない中で徐々に打ち解け合うが….No65
カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品.1990年代の混乱したロシアでの,ラウラの史上最悪と思える旅路のロードムービー.インテリ留学生ラウラと一本気な労働者リョーハのおずおずとした接触が面白い.出だしの無茶苦茶な態度とは裏腹に,リョーハはやんちゃではあるが一本気でまっすぐな青年.ラウラだってイリーナを恋い慕ってはいるが,イリーナのいい加減さには内心気付いている,まっとうな女性だ.
この映画はそういうラウラとリョーハのロマンスを描く一方で,北極圏に暮らす人々のたくましさも描く.ペトログリフの帰途,猛吹雪の中ふざけ合って雪玉を投げ合い,打ち上げられた難船の残骸で遊ぶ彼ら二人のシーンには圧倒される.No63
とはいえ,通常のハッピーエンド,大団円では終わらないこの映画.ロシア的な憂鬱な冬景色のなか去っていくリョーハ,見送るラウラが印象的だ.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点)
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2023/02/06

独断的映画感想文:コーダ あいのうた

日記:2023年2月某日
映画「コーダ あいのうた」を見る.1_20230209214901
2021年.監督・脚本:シアン・ヘダー.
出演:エミリア・ジョーンズ(ルビー・ロッシ),エウヘニオ・デルベス(ベルナド),トロイ・コッツァー(フランク・ロッシ),フェルディア・ウォルシュ=ピーロ(マイルズ),ダニエル・デュラント(レオ・ロッシ),マーリー・マトリン(ジャッキー・ロッシ).2_20230209214901
ルビーはマサチューセッツ州グロスターで漁業を営むロッシ家の娘.両親と兄は聾者で,ルビーは家族でただ一人の健聴者だ.毎朝3時に起きて父・兄とともに漁船に乗り込み,高校では爆睡の日々.放課後も何かと家族の通訳を勤め多忙なうえ,家では遠慮なく生活騒音を立てる(本人たちには聞こえない)家族のため勉強に集中できない.5_20230209214901
そんなある日,気になる同級生マイルズが入った合唱サークルへ自分も参加したルビー,指導者のベルナドはルビーの才能を見抜き,バークリー進学を勧めてマイルズとルビーに個人レッスンを申し出る.新しい世界に胸躍らせるルビー,しかし両親には歌というものの価値は全く分からない.おりしも家族は搾取する仲買から離れて直接消費者に売るプロジェクトに乗り出し,ルビーの「通訳」としての役割はますます欠かせないものになって行く.ついにルビーは進学をあきらめるにいたる….3_20230209214901
CODAは音楽記号で「最後部」,曲の最後を飾る部分の意味.一方で” Children of Deaf Adults” 耳が聞こえない、または聞こえにくい親のもとで育つ子どものことでもある.ルビーの,家族と愛し合いながらも苦労の絶えない日々.4_20230209214901
学校に初めていく様になった時,言葉がおかしいといじめられたことがある.美しい声でベルナドのレッスンを受けても,自分の声に自信が持てない.それに気づいたベルナドから指導され,初めて腹の底から自分の気持ちを込めた声を出し歌ったシーンは,感銘的だ.主演のエミリア・ジョーンズの魅力には抗し難い.また,がさつながら直情径行な両親と兄,演じた役者はいずれも聾者だ.聾者としての苦労,差別に直面しながら,陽気に人生を楽しむ彼らの在り方も印象的.素敵な映画,見て損はなし.
★★★☆(★5個が満点)
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