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2023年5月に作成された記事

2023/05/20

独断的映画感想文:それでも私は生きていく

日記:2023年5月某日
新宿武蔵野館で映画「それでも私は生きていく」を見る.1_20230521094301
2022年.監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ.
出演:レア・セドゥ(Sandra Kienzler),パスカル・グレゴリー(Georg Kienzler),メルヴィル・プポー(Clement),ニコール・ガルシア(Francoise),カミーユ・ルバン・マルタン(Linn).3_20230521094301
サンドラは夫を亡くし通訳と翻訳を職業とするシングルマザー.8歳のリンを学校に送り,父ゲオルグの介護に通う.父は哲学の教師だったが,数年前から神経系の難病のため視力を失い,知力も記憶も失われつつある.すでに一人住まいは無理となった父を,元妻,現パートナー,娘たちが療養施設に入れようと奮闘するが,受け入れ先がなかなか見つからない.5_20230521094301
そんな日々,かっての友人だったクレマンと出会い,二人の間に恋が芽生える.リンはクレマンを母の恋人として素直に受け入れるが,クレマンは妻と息子との家庭を捨てることに大きな葛藤があった.父は仮の受け入れ先の病院,民間療養施設をたらいまわしになるうちに目に見えて衰えていく….4_20230521094301
ぎりぎりの生活を送っているサンドラの恋は,身も心もぶつける激しいものとならざるを得ない.クレマンは妻との板挟みになっていったんサンドラのもとを離れていく.何故クレマンは来ないのかと問うリン,その間にも父の認知は衰え娘のサンドラさえも認識できなくなる.その間の事情を映画は丁寧に淡々と描いていく.
家じゅうを埋め尽くした書籍を読めなくなった父,あれほど好きだったシューベルトのピアノ曲さえ重すぎると言って聞こうとしない父.その父と向き合う悲哀の一方,愛人としての恋に没入せざるを得ないサンドラ.ダニエル・クレイグの007シリーズ最後の2作品でボンドの恋人を演じた,レア・セドゥの演技力に感服する.2_20230521094301
映画の終盤,母とその現パートナー,妹夫妻とリンの従兄妹たちとのクリスマスの夜のハッピーなシーンが印象的.映画は明瞭なハッピーエンドにはならない.しかし人生は捨てたもんではないというエンドにはなっている.そこに至るまで幾度も泣かされた.映像も素晴らしい.ピアノを中心とした音楽も素敵.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点).
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2023/05/05

独断的映画感想文:せかいのおきく

日記:2023年5月某日
テアトル新宿で映画「せかいのおきく」を見る.7_20230508222701 2023年.監督・脚本:阪本順治.
出演:黒木華(松村きく),寛一郎(中次),池松壮亮(矢亮),眞木蔵人(孝順),佐藤浩市(松村源兵衛),石橋蓮司(孫七).1_20230508222701 安政から万延へと動く江戸の裏長屋.主家の財政の不正を糺し浪々の身となった松村源兵衛が娘おきくと共に住む.おきくは寺で子どもたちに読み書きを教え生計を立てている.
おきくは長屋に汲み取りに来る汚わい屋矢亮の相棒,中次を憎からず思っているが,武家の娘としてそれを伝えることはできない.源兵衛のもとに主家からの呼び出しがあり,源兵衛は3人の刺客と立ち会って斬殺された.気付いて駆けつけたおきくは喉を斬られ,命はとりとめるが声を失う.
長屋の人々の助けで元気になったおきくは,寺の和尚・小僧の助けを得て寺子屋に復帰する.中次への思いは募るが,読み書きのできない中次に思いは伝えられない….
2_20230508222701 裏長屋や汚わい屋という最下層の暮らしの詳細な描写が興味深い.俳優陣は充実,特に黒木華,寛一郎,池松壮亮が魅力的.中次の長屋を訪ねていったおきくが,身振りで事情を伝えるが中次には理解できず,それでも手を取り合う二人のシーンが胸を打つ.
5_20230508222701 日本人がせかいという概念を共有するに至った安政年間,声を失ったことで自分のせかいを切り開いたおきく,おきくを知ったことで読み書きに取り組みせかいに飛び出そうとする中次・矢亮たちの,革命的青春物語.6_20230508222701 硬直した武家の世界と助け合う庶民の暮らしを対照的に描く視線,低い身分をさげすまされながらも元気一杯の矢亮・中次への視線,お菊へのあたたかい視線等,監督の人間味が感じられる映画.一見の価値あり.
★★★★(★5個が満点).
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